2025年09月01日

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1――日本の少子化は未婚化が主因

1|指標への根本的理解の欠如
選挙シーズンともなると、いまだに少子化対策=子育て支援と、既婚者対策のみを声高に訴える政治家候補が後を絶たない。しかし、元・小倉將信内閣府特命担当大臣(こども政策・若者活躍)によると、在任時の2023年時点でも、選挙民から「少子化は未婚化問題ではないのか?」、統計的な実態に目を向けた政策を訴えるよう、街角や選挙事務所で市民に声を掛けられるケースも出てきているとのことだった。

筆者も2016年に当研究所のホームページにて公開した「2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-」以降、日本の出生数の大幅減(少子化)は、そもそも出生を生み出す婚姻の大幅減であり、出生数の減少率が、特に初婚同士の婚姻減少率にぴったりと一致してパラレルに減少していることに目を向けるよう注意を促し続けてきた。

ちなみに、有配偶出生率のあまり大きくない減少について指摘し、既婚者同士の持つ子の数も減っているとあえて指摘する議論もある。しかしながら、結婚に占める再婚割合の増加(2023年では再婚者を含むカップルが25%にも達しており、増加傾向)により、出生数を総婚姻数で割り算した結果が中期的に減少するのは当然ともいえる。なぜなら再婚同士の結婚は、いかなるパターン(夫婦ともに再婚、どちらかが再婚)においても長期で出生数に負の相関を持っていることから当然ともいえる。

合計特殊出生率(以下、出生率)は、夫婦(特に初婚同士)がもつ子の数が不変であっても、女性において未婚者が占める割合が上昇すれば低下する。図1と図2を比べると、既婚者が持つ子の数は不変であるが、未婚者の母数に占める割合の違いで、未婚者の多いケースのほうが出生率が低くなることが示されている。出生率は、そのエリアに住む15歳から49歳の女性の各歳出生率から計算された、あくまでも「女性1人当たり指標」に過ぎず、既婚者女性あたりの既婚者指標ではない。
【図1:既婚女性の持つ子は同じ、未婚女性割合が高い】出生率:30/150=0.20
【図2:既婚女性の持つ子は同じ、未婚女性が低い】出生率:30/120=0.25
2出生減は初婚同士婚姻数の減少にほぼ完全相関
2024年7月に出版した「まちがいだらけの少子化対策」(金融財政事情研究会)にて、以下の図3で示したように、日本の出生数の減少は初婚同士婚姻減と肩を並べてパラレルに減少を続けている。
【図3:出生数と婚姻数の時系列相関分析結果】
分かりやすいたとえでいうならば、水田への肥料が不足しているから、米の収穫が半世紀で6割減という不作が生じているわけではなく、そもそも論、水田の数(面積)が半世紀で6割減しているから、米の収穫も6割減しているという状態にあるのである。

2――未婚化ニッポンの背景「羨ましくない両親像が1/2」

2――未婚化ニッポンの背景「羨ましくない両親像が1/2」

1激変した理想の夫婦像
ではなぜ、これほどまでに初婚同士の婚姻数が大幅減少となったのか。

「まちがいだらけの少子化対策」にてエビデンスを示しているが、若者の結婚意欲が6割落ちたから、その分、未婚化が進んだ、という単純な話では全くない。

社会保障・人口問題研究所の1987年の出生動向基本調査では結婚意思がある18歳から34歳の未婚男女は、男女それぞれ92%であった。2021年の調査でも男性81%・女性84%で、30年以上前の9割水準の結婚意志を保っている。日本の少子化を正確にイメージするならば、結婚希望がありながら、未婚状態にとどまっている若者の増加というイメージを持たなければならない。

それでは30年前と現在で何が変わったのか、そのひとつの例として、若者がなりたいと願う夫婦像が、その親世代とは大きく異なっていることを説明したい。
【図4:祖父母・親世代といまの若者の理想のライフコースの変化】
図4の左側が今の若者の祖父母ならびに両親が若かったころの回答である。現在50代後半から上の世代は、男性の4割、女性の約3人に1人が専業主婦世帯か再就職世帯(再就職妻:女性が子育て期にいったん仕事を辞めて、子育てが終わったら仕事をする)を理想のライフコースと回答しており、妻が子育て期もずっと働きつづける夫婦2馬力の支持者は、男性では1割、女性でも2割弱であった。

しかし今の若者は、男性の4割、女性の3人に1人以上が、子育て期も夫婦2馬力のライフコースを理想としており、専業主婦世帯に関しては、若い男性も女性も1割の支持に過ぎない。つまり、親や祖父母世代と今の若者は、理想の人生像が大きく異なっている。ちなみに、結婚したくない、しても子どもを持たないという理想は、男女とも2割に満たない。

結婚もしたいし、子どもも持ちたいという希望を多くもつという点では祖父母や親世代と変わらないが、そもそも論、なりたい夫婦(2人)の姿が違うのである。

図4は全国平均の値であるが、地方からの20代人口の就職期移住増加が止まらない東京都に在住する若者のデータでみると、今の若者の理想のライフコースのトレンドがより強くうかがえる。

図4の全国平均の結果は2021年の結果であるが、東京都若者の結果は2024年の結果であることから、この東京の結果が今後のトレンドを示唆しているともいえる。今後も両立妻世帯を理想とする若者が増加するトレンドが続くと予想できる。
【図5:東京都在勤18歳から34歳の女性の理想のライフコース】
【図6:東京都在勤18歳から34歳の男性が結婚相手やパートナーに選んでほしいライフコース】

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月01日「基礎研レター」)

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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向


    【委員歴/ご依頼順(現職優先)】

    1.政府
    ・【総務省統計局】
    「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】
    「若い世代視点からのライフデザインに関する検討会」構成員(2025年度)
    「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
    「令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員」(2023年度)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】
    「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【内閣府男女共同参画局】
    「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府】
    「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~2018年)
    「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)

    2.自治体
    ・【富山県】
    「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    「富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員」(2022年)
    ・【高知県】
    「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
    「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
    ・【三重県】
    「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
    ・【愛知県豊田市】
    「豊田市総合計画推進会議 有識者委員」(2025年度~)
    ・【石川県】
    「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【長野県伊那市】
    「伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般」(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】
    「子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー」(2021年)
    ・【愛媛県松山市】
    「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会・結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)

    3.民間団体
    ・【東京商工会議所】
    東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【愛媛県法人会連合会】
    えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】
    「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
    ・【中外製薬株式会社】
    「ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会(通称:研究倫理委員会) 委員」(2020年~)
    ・【主宰研究会】
    地方女性活性化研究会(2020年~)


    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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