- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 資産運用・資産形成 >
- リスク管理 >
- 生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか
生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
こうした体験のなかで思い至ったのが、「生成AIとは情報のデリバティブ(派生物)である」という比喩である。金融分野の人間からすると、生成AIの構造を金融商品に例えると理解が深まる場面が多い。この構造は、金融の世界における「デリバティブ(金融派生商品)」と非常によく似ている。
デリバティブの構造と役割
たとえば、将来の金利上昇リスクに備える企業が金利スワップを用いる場合、それは「金利」という原資産の動きに基づいて損益が決まる商品を売買していることになる。デリバティブそれ自体は直接的な価値を持たず、あくまで基盤となる原資産の動きに依存して価値が形成される。ゆえに「派生商品」と呼ばれ、原資産との連動性が確保されてはじめて合理的な意味を持つ。
生成AIと情報の派生性
重要なのは、ここで言う「原資産」がいわゆる一次情報(観察、取材、統計データ等の未加工情報)だけではなく、二次情報(解説記事、要約、報道)や三次情報(SNSの感想、AIの出力内容など)も含まれている可能性があるという点である。学習の過程で、これら異なる層の情報が区別されるわけではない。したがって、生成AIは「一次情報のデリバティブ」というよりも、膨大な情報群を圧縮し再構成した「複合的デリバティブ」と見るほうが妥当であろう。
ファクトチェックという「裁定取引」
同様に、生成AIの出力が事実から乖離している場合、それを是正する行為、すなわち「ファクトチェック」こそが、情報環境の健全性を維持する裁定機能といえる。もちろん、情報の正しさは単純な数式で測れるものではないが、その差を埋めようとする営みの重要性において、両者は通じるものがある。とりわけ生成AIは、文体の整った出力を返す能力に長けているが、それが事実と異なっていても一見すると説得力を持って見える。この「もっともらしさ」が、誤情報の潜在的リスクとなる。
技術の価値は設計と運用に宿る
生成AIもまた、適切な使い方をすれば極めて強力な支援ツールとなる。重要なのは、それを過信せず、「裏付けのある一次情報」への意識を常に持ち続けること、そして出力された情報の真偽を検証する姿勢を失わないことである。
原資産の健全性に求められる倫理
だからこそ、「ファクトチェックという裁定取引」が必要であり、情報空間における真偽の調整の役割を果たす必要がある。これは、生成AIと共に生きる社会において、ユーザーに求められる最も本質的な情報リテラシーの姿であろう。
(2025年08月15日「研究員の眼」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
福本 勇樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/08/15 | 生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか | 福本 勇樹 | 研究員の眼 |
2025/07/08 | 家計はなぜ破綻するのか-金融経済・人間行動・社会構造から読み解くリスクと対策 | 福本 勇樹 | 基礎研マンスリー |
2025/06/24 | 日本国債市場における寡占構造と制度的制約-金利上昇局面に見られる構造的脆弱性の考察 | 福本 勇樹 | 基礎研レポート |
2025/06/12 | 金融技術革新の4類型とその波及効果-キャッシュレス化にみる「制度から始まるイノベーション」の形 | 福本 勇樹 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年08月15日
グローバル株式市場動向(2025年7月)-米国と日欧の関税大枠合意により安心感が広がる -
2025年08月15日
生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか -
2025年08月15日
QE速報:2025年4-6月期の実質GDPは前期比0.3%(年率1.0%)-トランプ関税下でも輸出が増加し、プラス成長を確保 -
2025年08月15日
地方で暮らすということ-都市と地方の消費構造の違い -
2025年08月15日
英国GDP(2025年4-6月期)-前期比0.3%でプラス成長を維持
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのかのレポート Topへ