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2025年05月13日

家計はなぜ破綻するのか-金融経済・人間行動・社会構造から読み解くリスクと対策

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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■要旨
 
  • 自己破産は近年再び増加に転じており、2023年は前年比10%増であったが、個人再生は横ばいか微減であった。再建よりリセットを選ぶ傾向が強まっている。
     
  • 自己破産は資産を失うリセット型、個人再生は住宅等を維持する再建型であり、制度選択には住宅の有無や家族構成が大きく関与する。
     
  • 家計破綻の類型には、「住宅ローン返済困難型」「無担保債務累積型」「ライフイベント対応型」「高齢期資金枯渇型」などがある。
     
  • 家計破綻リスクへの耐性を高めるには、フロー(収入-支出)やストック(資産-負債)の両面から対処していく必要がある。
     
  • 退職までに得られる将来収入をいかにして金融資産や実物資産に転換して、資産バッファを厚くするかが重要になる。
     
  • 資産形成を安定させるには、借入金利(負債コスト)を上回る資産運用利回りの確保が重要となる。
     
  • 他にも、日本の金融リテラシーの水準、行動バイアスといった要因も家計破綻リスクに影響する。
     
  • 実質賃金が長期的に低迷しており、近年のインフレ環境からフローの悪化を通じて、資産バッファの構築が困難化している。
     
  • 長期的に家計債務が上昇傾向にあり、49歳以下の世帯では純金融資産が恒常的にマイナスになっている。
     
  • 収入が高い層の方が相対的に純金融資産が増えておらず、収入の高さが必ずしも資産バッファの形成につながっているとはいえない。
     
  • 資産形成にはフローの確保に加え、親族からの資金援助や相続・贈与といった外部サポートの有無が家計の耐久力を左右する要因となっている。
     
  • 家計破綻リスクを本質的に低減させるには、フローとストックの両面から支える「備えられる社会」「報われる社会」を構築する必要がある。
     
  • 官民の連携や多様な主体の協働、制度の再設計、教育の底上げを通じて、すべての人が自立の努力を行える環境づくりと、努力が資産形成に結びつく社会インフラを整備することが急務である。


■目次

1――日本の家計破綻リスクの現状と特徴
  1|家計破綻リスクの現状:「増加に転じた自己破産」と「個人再生の減少傾向」の併存
  2|主要な家計破綻経路とその社会経済的背景
2――家計破綻リスクを読み解くための金融論的アプローチ
  1|過去の研究成果:国内外の研究の紹介
  2|家計のバランスシート理論
  3|日本における金融リテラシーの状況と金融教育の効果
  4|行動ファイナンスによる知見
3――実質賃金低下によるフロー悪化と資産バッファ脆弱化の悪循環
  1|実質賃金の低迷
  2|生活コストの上昇
  3|フロー悪化に伴う資産バッファ脆弱化の悪循環
4――まとめ:家計破綻リスクを軽減させていくには
  1|金融理論から得られる主な示唆
  2|家計リスク管理の実践ポイント
  3|家計破綻リスクの最小化に向けた社会的・政策的支援体制

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月13日「基礎研レポート」)

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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

経歴
  • 【職歴】
     2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
     2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
     ・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)

    【著書】
     成城大学経済研究所 研究報告No.88
     『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
      著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
      出版社:成城大学経済研究所
      発行年月:2020年02月

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