2025年07月25日

ネットと肖像権・パブリシティ権-投稿削除と損害賠償

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4――パブリシティ権

1|権利としてのパブリシティ権を認めた最高裁判決
著名人(主に芸能人)の肖像権の利用については、パブリシティ権が問題となる場合がある。パブリシティ権とは著名人の画像等に商品の販売を促進する力があり、これを本人が排他的に利用できるとする権利のことである。

最高裁判決で最初にパブリシティ権を認めたのが、最判平成24年2月2日6である。本事案では週刊誌にあるダイエット法が解説されているところ、無断で歌手を被写体とする写真が数多く掲載されていた。

同判決では「人の氏名、肖像等(以下、肖像等)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する」とし、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」として人格権由来の権利としてのパブリシティ権を認めた。肖像権が法的利益とされている一方で、パブリシティ権は明確な「権利」として認められている。

ただし、「肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」であることから、「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害する」とパブリシティ権侵害に該当する場合を列挙した。

本件においてはダイエット法の紹介に「付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって、読者の記憶を喚起するなど、本件記事の内容を補足する目的で使用されたもの」であり、「被上告人(出版社)が本件各写真を上告人(歌手)らに無断で本件雑誌に掲載する行為は、専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえ」ないとした。
2|パブリシティ権侵害による賠償責任を最初に認めた地裁判決
ここではパブリシティ権の侵害による損害賠償を初めて認めた地裁判決として、東京地判昭和51年6月29日を挙げる。本事案は英国籍の子役俳優であるAの肖像について、その出演映画の一シーンを切り取って菓子メーカーBのCMに転用したものである。

「俳優等の氏名や肖像を商品等の宣伝に利用することにより、俳優等の社会的評価、名声、印象等が、その商品等の宣伝、販売促進に望ましい効果を収め得る場合があるのであって、これを俳優等の側からみれば、俳優等は、自らかち得た名声の故に、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させうる利益を有しているのである。ここでは、氏名や肖像が、(プライバシー権といった)人格的利益とは異質の、独立した経済的利益を有することになり(右利益は、当然に不法行為法によって保護されるべき利益である。)、俳優等は、その氏名や肖像の権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、右経済的利益の侵害を理由として法的救済を受けられる場合が多い」とした。

そして「本件コマーシャルの放映は、「原告Aの承諾の範囲を超えて、違法に同原告の氏名及び肖像を被告Aの製品の宣伝に利用した」たものであって、CM放映に至った行為が「一個の不法行為を構成する」として損害賠償責任を認めた。

同判決ではパブリシティ権という用語は用いていないが、経済的利益を認めたという側面において、パブリシティ権を認めたものと解される7

なお、ガイドライン(p24)では、「有名人の顧客吸引力を利用しているといえる場合には、パブリシティ権が認められ、損害賠償が認められることがありうる」としている。
 
7 菊池浩明「パブリシティ権についての裁判例の分析(上)」(判例タイムズ1346号、2011年7月)p26参照。
3|小括
著名人はプライバシー権の範囲が限定される8。同時に上記3の2の通り、肖像権も制限されている。他方で、自身の氏名や肖像を商業的利用することについて排他的な権利を有する。これがパブリシティ権である。最判では肖像権が人格的利益とされてたのに対して、パブリシティ権は権利と認められている。すなわち、著名人は自己の氏名や肖像に関して、タレントカードやポスターといった肖像そのものを楽しむ写真等、あるいは肖像を広告として利用する場合における排他的権利を有するとされている。

パブリシティ権に関する上記最判では「顧客吸引力」という用語を用いている。逆に言うと、顧客吸引力を利用しないような使い方、すなわち、同判決ではダイエット法の紹介の際の参考として利用することはパブリシティ権を侵害しないとされた。この意味では、たとえば一般に公開されている著名人の肖像画像を単に添付しただけのSNS投稿は原則としてパブリシティ権を侵害するものとはいいがたい。ただ、著名人の名誉を著しく傷つけるような内容である場合には、精神的苦痛を受けるがゆえに人格的利益を毀損し違法となるおそれがある。
 
8 本文で述べた東京地判では俳優等において「(プライバシー侵害による)損害賠償を求め得るのは、その使用の方法、態様、目的等からみて、彼の俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合、その他特段の事情が存する場合(例えば、自己の氏名や肖像を商品宣伝に利用させないことを信念としているような場合)に限定される」とする。

5――検討

5――検討

1|私人の肖像権
「インスタ映え」という言葉があるように、現在、写真を中心としたスマートフォンによる情報交換プラットフォームが盛んに利用されている。一般に自身の休暇の様子などを切り取った写真をSNS上にアップロードすること自体には当然だが何ら問題がない。自分の写真を写す際に、他人が写りこんでもそれだけでは違法にはならない。ただし、繁華街や観光地の写真に写りこんだ人が勤務中である場合など不快に感じることはあるだろうから、肖像権を侵害するかどうかにかかわらず、他人の顔が映らないようにする、あるいはモザイクを付すなどの配慮は必要と思われる。

他方、他人をアップして写し、公開することは、一般人が心理的な負担を覚え、撮影されることやウェブサイトに掲載されることを望まない性格を有するものであれば肖像権の侵害となるおそれがある。たとえば他人とトラブルになり、その他人を撮影してSNSに投稿することなどは、その他人が公表について不快感を覚えるものであろうから、肖像権の侵害とされるおそれがある。
2|公人の肖像権・パブリシティ権
公人の肖像についてSNSに投稿すること自体あまり多くはないだろうが、ファンとして自身と一緒に撮影した写真をSNSに投稿しても、それだけでは問題にならない。公人は肖像権で保護される撮影・公表の範囲が狭いうえに、この場合は同意があることが多いであろう。

ネット上にアップされている公人の肖像を何らかの文章とともにSNSに投稿することはどうか。応援する文章や正当な批判の範疇における文章とともに投稿するのは肖像権の侵害とならないことが多いであろう。他方、誹謗中傷に相当するような文章とともに投稿するのは、名誉毀損に該当するおそれがあるとともに、肖像権の侵害となるおそれがある。

公人(特に芸能人)の画像を自身のビジネスに利用することはパブリシティ権侵害となるおそれがある。一般の個人が著名人の顧客吸引力を利用すると評価されるケースは、実際には多くないであろう。ただ、いわゆるユーチューバーの動画編集において、著名人の肖像画が専ら動画再生稼ぎのために利用されるような場合にはパブリシティ権を侵害するおそれがある。

近時では、AIによる画像生成が盛んである。中には、特定の著名人をモデルにしたであろう画像が投稿されているものも見かける。上記のユーチューバーの事例などにおいてAI画像を利用した場合を考える。投稿者が、AI画像が著名人に似ていることを認識(特にAIに著名人をモデルにするよう指示した場合など)したうえで、その顧客吸引力を利用したのであれば、パブリシティ権を侵害するおそれがあると思われる(肖像権に関するものであるが、上記3の3を参照)。

ところで、ユーチューバーが映画批評をするようなチャンネルでは、著名人を映画の一シーンとして映し出すことがある。この場合、映画の批評自体を目的として、かつ批評として正当な範囲にとどまる場合においては、上記最判で示す三つの方法により顧客吸引力を行使したとはいいがたく、したがってパブリシティ権を侵害しないと考えられる。

6――おわりに

6――おわりに

ここでは本稿で述べたところのまとめで「おわりに」に代えたい。

肖像権、すなわち平成17年最判によると肖像に関する人格的利益は、法的に保護される利益として、憲法13条の人格権に基づいて認められている。私人の肖像をネット投稿する場合には、本人が自身で行うか、あるいは本人の同意を得て(黙示の同意も含む)行わなければならない。公人の肖像をネット投稿する場合には、本人同意まではいらないものの、その撮影の態様や公表の手段などを総合考慮して本人の受忍限度を超えないことが必要である。

公人(特に著名人)は人格権の一つであるパブリシティ権を有する。こちらは権利であるために、パブリシティ権を侵害する利用は権利侵害になる。権利侵害かどうかの判断にあたり本人が不快に思うかどうかは関係がない(利用の態様によっては肖像権を侵害する場合はある)。ただ、パブリシティ権を侵害する行為は、著名人の肖像の「顧客吸引力」を利用するものである必要がある。最判では、肖像それ自体を楽しむことや肖像を商品の広告として利用するなどが「顧客吸引力」の利用に該当するとする。

これら法的利益あるいは権利を侵害しないように投稿を行う必要がある。SNS投稿は匿名で行われることが多く、また大勢のアカウントが大量の投稿を行うことでいわゆる「荒れる」ことがある。最初の投稿が無難な内容であっても、返信がつくことで個人の利益・権利を侵害することもある。

肖像権、パブリシティ権の侵害の効果は差止および損害賠償である。パブリシティ権の損害賠償例では1000万円を認容した判決もある9。ネットでは勢いに任せて投稿してしまい、損害賠償訴訟に巻き込まれるおそれもある。このあたり十分注意する必要があろう。
 
9 東京地判平成17年3月31日

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月25日「基礎研レポート」)

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保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月 取締役保険研究部研究理事
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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