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- ネットと肖像権・パブリシティ権-投稿削除と損害賠償
2025年07月25日
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1――はじめに
今回はネット上における肖像権・パブリシティ権侵害に基づく投稿の削除および損害賠償に関して述べる。これまでネット上での誹謗中傷、ネット上でのプライバシー侵害と述べてきたシリーズの3回目である。
本稿でも裁判例と情報流通プラットフォーム対処法「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を参考にしつつ論じる。
肖像権とは典型的には人物の写真を撮影し、あるいは公開されることについての本人の権利である。肖像権に隣接する概念としてパブリシティ権があり、これも併せて検討したい(パブリシティ権については後述)。
肖像権に関して考えるにあたって、参考となるのがガイドラインのp18の記載である。ここには、以下のようにある。
「写真は、被写体本人が公然見せている容姿や行動をそのまま撮影した場合であっても一瞬を固定することから現実と異なる印象を与える場合もあり、またそうでなくても見る者に強い印象を与えるため、被写体側では掲載について不快感や困惑を覚えることがしばしばある。顔写真については襲撃や誘拐等の犯罪に利用されるおそれもあり、一定の行動・状態を撮影した写真はその内容によりプライバシーを侵害しあるいは名誉を毀損する可能性があり、かつ、写真の掲載によってその程度が高くなることがしばしばある。 他方において、報道や特定の人物やその行動に対する批評においてはその写真を掲載する必要性ないし有用性が相当程度あり、その調整が必要となる。」
これを要約すると、たとえば公道のような公の場所であっても写真に撮られることは①被写体にとって不快・困惑を感じるものであること、②犯罪に利用されること、また③プライバシーおよび名誉を侵害するものであること、他方で写真を撮影・掲載する側にとって、④報道等で利用する必要があることである。
ガイドラインに抵触する投稿については削除が行われることがある。また別途、被写体側(被害者側)が投稿者に対して損害賠償責任を追及する可能性がある。
なお、少なくとも最高裁は肖像権という「権利」が存在するとまでは認定しておらず、肖像に関する人格的利益とだけしている(後述)。他方、下級審判決では権利としての肖像権を認めるものもある。本稿で用いる肖像権という用語は、これら両方を含む広い意味において使用する。
本稿でも裁判例と情報流通プラットフォーム対処法「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を参考にしつつ論じる。
肖像権とは典型的には人物の写真を撮影し、あるいは公開されることについての本人の権利である。肖像権に隣接する概念としてパブリシティ権があり、これも併せて検討したい(パブリシティ権については後述)。
肖像権に関して考えるにあたって、参考となるのがガイドラインのp18の記載である。ここには、以下のようにある。
「写真は、被写体本人が公然見せている容姿や行動をそのまま撮影した場合であっても一瞬を固定することから現実と異なる印象を与える場合もあり、またそうでなくても見る者に強い印象を与えるため、被写体側では掲載について不快感や困惑を覚えることがしばしばある。顔写真については襲撃や誘拐等の犯罪に利用されるおそれもあり、一定の行動・状態を撮影した写真はその内容によりプライバシーを侵害しあるいは名誉を毀損する可能性があり、かつ、写真の掲載によってその程度が高くなることがしばしばある。 他方において、報道や特定の人物やその行動に対する批評においてはその写真を掲載する必要性ないし有用性が相当程度あり、その調整が必要となる。」
これを要約すると、たとえば公道のような公の場所であっても写真に撮られることは①被写体にとって不快・困惑を感じるものであること、②犯罪に利用されること、また③プライバシーおよび名誉を侵害するものであること、他方で写真を撮影・掲載する側にとって、④報道等で利用する必要があることである。
ガイドラインに抵触する投稿については削除が行われることがある。また別途、被写体側(被害者側)が投稿者に対して損害賠償責任を追及する可能性がある。
なお、少なくとも最高裁は肖像権という「権利」が存在するとまでは認定しておらず、肖像に関する人格的利益とだけしている(後述)。他方、下級審判決では権利としての肖像権を認めるものもある。本稿で用いる肖像権という用語は、これら両方を含む広い意味において使用する。
2――肖像権とは
1|刑事手続にて肖像権が認定された最高裁判例(最判昭和44年12月24日)
いわゆる肖像権と称されるものを最初に認めた(ただし、肖像権であると断定していない)判決が最判昭和44年12月24日である1。同判決の事案として、デモ活動に関する京都市条例において、公安委員会の許可を受けることが必要とされ、かつ許可にあたって条件を付けることができるとされていた。本事案のデモ活動が行われた際に、警察がデモ隊の写真を撮影したことについてその適法性について争われたものである。同判決の中で、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」)を撮影されない自由を有する」とし、「これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは憲法13条の趣旨に反し、許されない」とした。
しかし、「警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がある」とする。
そして本事案においては「現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものであって、しかも多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいって、証拠保全の必要性および緊急性が認められ、その方法も一般的に許容される限度をこえない相当なものであったと認められる」として、本人同意がなくとも写真撮影は認められるとした。
本件は写真を撮られたデモ隊の参加者が公務執行妨害及び傷害罪で起訴されたことに対して、その被告側が捜査は肖像権の侵害といった違法なものであったからこれら罪が成立しないと争った中での判断である。刑事手続の中で主張されたものに対する判断であり、警察による撮影が認められる場合として厳格な基準を示したものとして特色を有する。
いわゆる肖像権と称されるものを最初に認めた(ただし、肖像権であると断定していない)判決が最判昭和44年12月24日である1。同判決の事案として、デモ活動に関する京都市条例において、公安委員会の許可を受けることが必要とされ、かつ許可にあたって条件を付けることができるとされていた。本事案のデモ活動が行われた際に、警察がデモ隊の写真を撮影したことについてその適法性について争われたものである。同判決の中で、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」)を撮影されない自由を有する」とし、「これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは憲法13条の趣旨に反し、許されない」とした。
しかし、「警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がある」とする。
そして本事案においては「現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものであって、しかも多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいって、証拠保全の必要性および緊急性が認められ、その方法も一般的に許容される限度をこえない相当なものであったと認められる」として、本人同意がなくとも写真撮影は認められるとした。
本件は写真を撮られたデモ隊の参加者が公務執行妨害及び傷害罪で起訴されたことに対して、その被告側が捜査は肖像権の侵害といった違法なものであったからこれら罪が成立しないと争った中での判断である。刑事手続の中で主張されたものに対する判断であり、警察による撮影が認められる場合として厳格な基準を示したものとして特色を有する。
2|肖像権侵害を理由とする不法行為を認めた最高裁判例(最判平成17年11月10日)
民事訴訟において、肖像権侵害を理由とする不法行為による損害賠償責任を認めた最初の最高裁の判決として、最判平成17年11月10日2がある。ただし、後述の通り、肖像権(肖像に関する人格的利益)は法的利益であるものの、権利とまでは認定していない。本件ではいわゆるカレーライス毒物混入事件の被告を、法廷内で裁判所の許可を得ることなく、写真撮影し、記事として掲載した。このことが肖像権侵害を理由とする不法行為に該当し、損害賠償責任を負うかが争われた。
最高裁は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」として、肖像に関する法的利益の存在を認めた。
そして「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」とする。
また、撮影された写真について「みだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり、人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には、その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は、被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして、違法性を有する」とする。
本件においては「裁判所の許可を受けることなく、小型カメラを法廷に持ち込み、被上告人の動静を隠し撮りしたというのであり、その撮影の態様は相当なものとはいえない。また、被上告人は、手錠をされ、腰縄を付けられた状態の容ぼう等を撮影されたものであり、このような被上告人の様子をあえて撮影することの必要性も認め難い」などとした。結果として、「本件写真の撮影行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害する」そして、「このように違法に撮影された本件写真を写真週刊誌に掲載して公表する行為も、被上告人の人格的利益を侵害するものとして、違法性を有する」と判断した。
民事訴訟において、肖像権侵害を理由とする不法行為による損害賠償責任を認めた最初の最高裁の判決として、最判平成17年11月10日2がある。ただし、後述の通り、肖像権(肖像に関する人格的利益)は法的利益であるものの、権利とまでは認定していない。本件ではいわゆるカレーライス毒物混入事件の被告を、法廷内で裁判所の許可を得ることなく、写真撮影し、記事として掲載した。このことが肖像権侵害を理由とする不法行為に該当し、損害賠償責任を負うかが争われた。
最高裁は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」として、肖像に関する法的利益の存在を認めた。
そして「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」とする。
また、撮影された写真について「みだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり、人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には、その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は、被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして、違法性を有する」とする。
本件においては「裁判所の許可を受けることなく、小型カメラを法廷に持ち込み、被上告人の動静を隠し撮りしたというのであり、その撮影の態様は相当なものとはいえない。また、被上告人は、手錠をされ、腰縄を付けられた状態の容ぼう等を撮影されたものであり、このような被上告人の様子をあえて撮影することの必要性も認め難い」などとした。結果として、「本件写真の撮影行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害する」そして、「このように違法に撮影された本件写真を写真週刊誌に掲載して公表する行為も、被上告人の人格的利益を侵害するものとして、違法性を有する」と判断した。
3|小括
人に対する許可のない撮影行為については、大陸法系の国(ドイツ・フランス)では制定法により肖像権という権利がみとめられている一方、英米法系の国(イギリス・アメリカ)では肖像権の概念がなく、プライバシーの一類型として保護されている3。日本には肖像権を規定した法律がないが、平成17年最判では、肖像に関する人格的利益それ自体を法的に保護に値する利益として承認した。独立した法的利益であるとした点で大陸法系に近い考え方ではある。ただ、権利としての肖像権を認めたわけではない。権利ではないという意味とは、許可のない撮影・公表行為が直ちに権利侵害とは判断されないということである。そして、法的利益であることの意味とは、撮影・公表行為が違法かどうかについては、諸事情を総合考慮したうえで判断されるということである4。
たとえば学校の運動会などの写真をとることは、他のこどもが写りこんでいただけで違法となるものではない。撮影の態様や目的に社会的に相当性が認められるからである。他方、不当な目的による隠し撮りのような行為は肖像権を侵害するおそれがある。
また、平成17年最判では報道のための撮影がなされたものであり、報道の自由と肖像に関する人格的利益との関係が問題とされたケースである。したがって問題とされる報道が違法となるかどうかは、被写体となった人物にとって「社会生活上受忍の限度を超えるもの」であるかどうかが判断基準である。言い換えると報道の自由が制約されるのは、受忍限度を超える場合である。
3 太田晃祥「時の判例」(ジュリスト1323号、2026年11月)p172参照。
4 同上。
人に対する許可のない撮影行為については、大陸法系の国(ドイツ・フランス)では制定法により肖像権という権利がみとめられている一方、英米法系の国(イギリス・アメリカ)では肖像権の概念がなく、プライバシーの一類型として保護されている3。日本には肖像権を規定した法律がないが、平成17年最判では、肖像に関する人格的利益それ自体を法的に保護に値する利益として承認した。独立した法的利益であるとした点で大陸法系に近い考え方ではある。ただ、権利としての肖像権を認めたわけではない。権利ではないという意味とは、許可のない撮影・公表行為が直ちに権利侵害とは判断されないということである。そして、法的利益であることの意味とは、撮影・公表行為が違法かどうかについては、諸事情を総合考慮したうえで判断されるということである4。
たとえば学校の運動会などの写真をとることは、他のこどもが写りこんでいただけで違法となるものではない。撮影の態様や目的に社会的に相当性が認められるからである。他方、不当な目的による隠し撮りのような行為は肖像権を侵害するおそれがある。
また、平成17年最判では報道のための撮影がなされたものであり、報道の自由と肖像に関する人格的利益との関係が問題とされたケースである。したがって問題とされる報道が違法となるかどうかは、被写体となった人物にとって「社会生活上受忍の限度を超えるもの」であるかどうかが判断基準である。言い換えると報道の自由が制約されるのは、受忍限度を超える場合である。
3 太田晃祥「時の判例」(ジュリスト1323号、2026年11月)p172参照。
4 同上。
(2025年07月25日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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