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2025年07月22日

保険ショップの利用実態とその変化~利用目的とチャネル選択にみる役割の変化

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

複数の保険会社の商品を取り扱う保険ショップ(以下、「保険ショップ」とする。)は、対面で説明を受けられることに加え、複数の保険会社の商品を比較できることが消費者に支持され、2000年頃から急速に店舗数を増やしてきた。日常生活の中で、生命保険会社の営業職員と接する機会が少ない消費者にとって、街中で保険ショップに出会うことは、「保険」という商品を知る貴重な機会にもなっている1

この10年ほどは、保険ショップの市場規模の拡大はかつてほどの勢いはなくなってきたが、引き続き一定の支持が得られているようだ。

本稿では、ニッセイ基礎研究所が行っている「生保マーケット調査2」の個票データから、保険ショップの利用動向や利用目的を紹介する。
 
1 井上智紀「保険ショップに死角はないか-求められるサービス品質の維持・向上に向けた取り組み(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/41297_ext_18_0.pdf?site=nli)」ニッセイ基礎研究所 研究員の眼(2014年1月16日)
2 2024年度調査の概要:調査対象を、全国の20~69歳の男女個人(調査会社登録パネル)とするインターネット調査。2024年12月実施。有効回収数6,669サンプル(うち、加入者は4,406サンプル)。

2――保険ショップの利用状況

2――保険ショップの利用状況

図表1 加入検討時に保険ショップを利用した割合 1|保険ショップ利用推移
ニッセイ基礎研究所が毎年行っている「生保マーケット調査」では、直近加入の生命保険について、加入時にどういった行動をとったかを尋ねている。

そこで、調査年を含めて過去2年間に保険に加入した人について、加入時に情報収集に「保険ショップ」を利用した割合を確認した(図表1)。その結果、2009~2010年の加入者以降、保険ショップの利用は増加していたが、2015~2016年の加入者以降はおおむね横ばいで推移していた3
 
3 矢野経済研究所は、新規契約件数や新契約年間残保険料で市場規模を分析している。矢野経済研究所によるレポートサマリー「来店型保険ショップ市場に関する調査を実施:https://www.yanoict.com/summary/show/id/571(2019年10月29日)」と日本経済新聞(2018年6月12日)「矢野経済研究所、2018年度の来店型保険ショップ市場調査結果を発表」によると、市場規模は2017年頃から伸びが鈍化している。その理由として2016年の改正保険業法対応による影響から出店スピードにブレーキがかかったこと、近隣店舗との競合によって不採算店の統廃合が進んだことが指摘されている。
2|保険ショップの利用目的
情報源として保険ショップを利用した人の利用目的をみると、最も高いのが「どのような保険が自分に適しているか教えてもらうため(54.5%)」、次いで「自分に適した保険について提案してもらうため(47.5%)」「生命保険の仕組みや保険の種類毎の目的について教えてもらうため(32.7%)」等が続いた(図表2)。

2014年度調査4と比べると、「生命保険の仕組みや保険の種類毎の目的について教えてもらうため」が15ポイント近く低下していたのをはじめ、多くの項目で同程度か低下傾向にあった。この10年間は、スマートフォンやSNSの普及によって、これまで以上にインターネットを通じて情報を得たり、相談をする人が増えてきた時期であることから、保険に関する基礎的な知識を得ることを中心として、商品を絞り込むまでの情報提供機能の一部はインターネットに置き換えられつつあると考えられる。
図表2 保険ショップを利用した目的(上:2024年調査と2014年調査の比較、下:真性能動的加入者と疑似能動的加入者の比較)
拙稿「保障ニーズを知ることの意義:生命保険 能動的加入者の視点から5」で、主体的に情報を集めて生命保険に加入する能動的加入者が増えていること、能動的加入者には、自分の保障ニーズを認識し、自分で情報を得て加入する保険を絞り込んでいけるタイプ (真性能動的加入者)と、自分で情報を得るが、加入する商品を検討する過程では商品間の差がわからず、どの保険会社のどの商品が自分にふさわしいか、絞り込むことができないタイプ(疑似能動的加入者)の2種類のタイプがあることを紹介した。能動的加入者にとって、保険ショップは情報源の1つとなり得る。

保険ショップを利用した目的を真性能動/疑似能動の別でみると、全体では、「どのような保険が自分に適しているか教えてもらうため」が全体で54.5%と最も高く、次いで「自分に適した保険について提案してもらうため(47.5%)」「生命保険の仕組みや保険の種類毎の目的について教えてもらうため(32.7%)」等が続いた。真性能動的加入者では、疑似能動的加入者と比べて「既に加入している生命保険が自分に適しているか診断してもらうため」と、「保険会社専属の営業担当者や他の保険ショップで受けた説明や自分の理解が正しいか確認するため」の割合が高い。これは、疑似能動的加入者が、自分に適した保険について提案してもらうために利用していると考えられるのに対し、真性能動的加入者は、自分の知識や考え方、商品の選び方について、言わば、"答え合わせ"をしに来ていると考えられる。その保険の加入チャネルをみると、疑似能動的加入者のおよそ6割が、そのまま保険ショップで加入しているのに対し、真性能動的加入者では3割程度で、その他「生命保険会社専属の営業担当者」「インターネット」「その他(保険ショップや独立系FP以外)の保険代理店」等から加入しているケースも多く6、「保険ショップ」を、たくさんある情報源の中の1つとして利用している人もいることの現れだろう。

近年、主体的に情報を得ようとする能動的加入者は増加傾向にあるが、現在のところ、その多くが、自分の保障ニーズと合っているかの判断は自力だけでは難しいという疑似能動的加入者であると考えられる。
 
4 井上智紀「保険ショップ・FPチャネルの動向-利用者の特徴と支持される背景要因(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/42817_ext_18_0.pdf?site=nli)」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2015年10月19日)
5 村松容子「保障ニーズを知ることの意義:生命保険 能動的加入者の視点から(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80906_ext_18_0.pdf?site=nli)」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2025年1月28日)
6 単年調査では、件数が不十分であったため、2022~2024年の3年分の調査を合算すると、「保険ショップ」を情報源として利用した真性能動的加入者、疑似能動的加入者の加入チャネルは以下のとおりだった。
「保険ショップ」を情報源として利用した真性能動的加入者、疑似能動的加入者の加入チャネル

3――おわりに

3――おわりに

保険ショップは、消費者にとって保険との出会いの場、保険商品の比較の場として、一定の役割を果たしてきた。すなわち、従前は、生命保険会社の専属営業職員から基本的な仕組みの説明や商品の説明を受けて加入するケースが多かったが、営業職員と同様に、対面で説明を受けられることに加え、特定の保険会社に依拠しない独立性や、専門性に担保された情報が得られることで、保険ショップが活用されるようになり、特に2010年頃は、店舗数も利用者も増加し、市場全体の盛り上がりを支えてきた。

しかし、スマートフォンの普及やSNSの浸透により、保険に関する基礎的な知識を得ることを中心として、商品を絞り込むまでの情報提供機能の一部がインターネットに代わった可能性が考えられた。また、保険ショップの利用方法は人によって異なる可能性があり、説明を受けてそのまま保険ショップで加入する場とも、対面で話しができるメリットを活かして、自分の知識や考え方が正しいか、抜けはないか、確認する場ともなっていることがうかがえる。これらのことから、保険ショップは、今後も一定程度、支持され続ける可能性が高いと考えられる。

このような保険ショップの動向は、保険を検討しようとする消費者だけではなく、保険の売り手にも大きな影響を与えていると考えられる。たとえば、専属チャネルをもつ会社において、保険ショップとの関係をどう築き、顧客との接点にどう活かしていくかは大きな課題であろう。

少しずつ役割を広げながら発展する保険ショップを引き続き注視したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月22日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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