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- ネットにおけるプライバシー権-投稿の削除と損害賠償
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2025年07月16日
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■要旨
2025年4月1日より、情報流通プラットフォーム対処法が施行された。これにより他人の権利を侵害するSNS投稿の削除要請の申出窓口が明示され、また申出から14日以内にSNS提供者は対応について回答をすべきこととなった。本稿では権利を侵害する投稿のうち、プライバシー侵害に該当する投稿について検討を行う。
まず、プライバシー権は、「一人にしておいてもらう権利」として判例上認められてきた法的利益であり、憲法13条(幸福追求権)に根拠を有する。プライバシーを侵害する投稿は、民法の不法行為に該当し、損害賠償の責任を生じさせる。また、判例上、投稿削除を要請する差止請求が可能とされている。
プライバシーには住所・氏名、その他の情報、特に機微情報などが含まれる。ただし、公人、たとえば議員や首長に関しては公職につくことの適否を判断する材料となるため、プライバシーの範囲が狭くなる。また、犯罪行為は逮捕時などに公人・私人問わず報道されるが、相当な期間が経過した場合においては、私人についてはプライバシー侵害に該当するおそれが生じうる。
インターネット検索において、過去の犯罪経歴が検索結果として表示されることから、当該検索結果の削除を請求した事案がある。本事案において最高裁は、検索結果を表示する理由等に比較して「事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」には、検索事業者に対し削除を求めることができるとした。本事案では児童買春であって未だ公共の関心事であることなどから、事実を公表されない法的利益が優越することが明らかとは言えないとして請求を棄却した。
SNSにおいて過去の犯罪に係る記事を転載・引用した投稿が現在も残っていることから、当該投稿の削除をSNS提供者に求めた事案がある。本事案において最高裁は「事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合」には、SNS提供者に削除を請求することができるとした。本事案では建造物侵入の事案であったが、時間の経過につれ公共の利益とのかかわりの程度が少なくなっている等の理由により削除請求を容認した。
プライバシーは時代によりその範囲が変化し、昨今では厳しい見方をされるようになっている。本稿で挙げた判例はプラットフォーム提供者に係るものであるが、他人のプライバシーに属するSNS投稿をした者も損害賠償請求を受けるおそれがある。この点に十分留意をする必要がある。
■目次
1――はじめに
2――プライバシー侵害の法的評価
1|総論
2|プライバシーの具体的内容
3|差止請求
4|違法性阻却事由
5|小括
3――プライバシーの範囲
1|氏名・連絡先
2|住所・電話番号以外(センシティブ情報)
3|犯罪に関する情報
4|小括
4――インターネット検索結果
1|事実関係
2|最高裁決定(総論)
3|最高裁決定(判断部分)
4|小括
5――SNS投稿
1|事実関係
2|最高裁判決(総論)
3|最高裁判決(判断部分)
4|小括
6――検討-投稿にあたって注意すべきこと
1|プライバシーにかかる投稿
2|転載・引用
7――おわりに
2025年4月1日より、情報流通プラットフォーム対処法が施行された。これにより他人の権利を侵害するSNS投稿の削除要請の申出窓口が明示され、また申出から14日以内にSNS提供者は対応について回答をすべきこととなった。本稿では権利を侵害する投稿のうち、プライバシー侵害に該当する投稿について検討を行う。
まず、プライバシー権は、「一人にしておいてもらう権利」として判例上認められてきた法的利益であり、憲法13条(幸福追求権)に根拠を有する。プライバシーを侵害する投稿は、民法の不法行為に該当し、損害賠償の責任を生じさせる。また、判例上、投稿削除を要請する差止請求が可能とされている。
プライバシーには住所・氏名、その他の情報、特に機微情報などが含まれる。ただし、公人、たとえば議員や首長に関しては公職につくことの適否を判断する材料となるため、プライバシーの範囲が狭くなる。また、犯罪行為は逮捕時などに公人・私人問わず報道されるが、相当な期間が経過した場合においては、私人についてはプライバシー侵害に該当するおそれが生じうる。
インターネット検索において、過去の犯罪経歴が検索結果として表示されることから、当該検索結果の削除を請求した事案がある。本事案において最高裁は、検索結果を表示する理由等に比較して「事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」には、検索事業者に対し削除を求めることができるとした。本事案では児童買春であって未だ公共の関心事であることなどから、事実を公表されない法的利益が優越することが明らかとは言えないとして請求を棄却した。
SNSにおいて過去の犯罪に係る記事を転載・引用した投稿が現在も残っていることから、当該投稿の削除をSNS提供者に求めた事案がある。本事案において最高裁は「事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合」には、SNS提供者に削除を請求することができるとした。本事案では建造物侵入の事案であったが、時間の経過につれ公共の利益とのかかわりの程度が少なくなっている等の理由により削除請求を容認した。
プライバシーは時代によりその範囲が変化し、昨今では厳しい見方をされるようになっている。本稿で挙げた判例はプラットフォーム提供者に係るものであるが、他人のプライバシーに属するSNS投稿をした者も損害賠償請求を受けるおそれがある。この点に十分留意をする必要がある。
■目次
1――はじめに
2――プライバシー侵害の法的評価
1|総論
2|プライバシーの具体的内容
3|差止請求
4|違法性阻却事由
5|小括
3――プライバシーの範囲
1|氏名・連絡先
2|住所・電話番号以外(センシティブ情報)
3|犯罪に関する情報
4|小括
4――インターネット検索結果
1|事実関係
2|最高裁決定(総論)
3|最高裁決定(判断部分)
4|小括
5――SNS投稿
1|事実関係
2|最高裁判決(総論)
3|最高裁判決(判断部分)
4|小括
6――検討-投稿にあたって注意すべきこと
1|プライバシーにかかる投稿
2|転載・引用
7――おわりに
(2025年07月16日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/07/16 | ネットにおけるプライバシー権-投稿の削除と損害賠償 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
2025/06/24 | サイバー対処能力強化法の成立-能動的サイバー防御 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
2025/06/16 | 株式併合による非公開化-JAL等によるAGPのスクイーズアウト | 松澤 登 | 研究員の眼 |
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【ネットにおけるプライバシー権-投稿の削除と損害賠償】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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