2025年06月11日

中国REIT市場の動向と今後の見通し~不動産市場低迷の中で見えてきたREIT市場の成長~

社会研究部 研究員 胡 笳

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4――2025年以降の中国REIT市場の見通し

2024年、中国のREIT市場は政策的支援と制度整備の進展を背景に大きく発展を遂げた。中でもインフラ公募REIT市場は、発行件数・資金調達規模ともに順調に拡大しており、制度としての定着が進みつつある。これを受け、2025年には市場全体がさらに拡大・成熟に向かうと見込まれる。一方で、制度の枠組みや投資家保護に関する課題も依然存在しており、REIT市場の持続的な発展に向けては、政策と市場双方からの対応が求められる。
1|市場拡大の可能性と新たな資産領域の展開
今後の中国インフラ公募REIT市場は、対象資産の多様化が一段と進展すると見込まれている。資産の用途、収益構造の異なるプロジェクトが組み入れられることで、より幅広い投資家層の参入が促される。特に注目されているのは、再生可能エネルギー施設やデジタルインフラ(データセンター、通信施設等)といった、現代社会のインフラ基盤を支える分野である。これらは、安定的な需要と収益性を有すると同時に、中国の産業戦略23とも合致する領域であり、インフラ公募REITとの親和性が高い。その中、2025年3月10日には、中国において初となるデータセンターREITの申請案件が公式に提出された24。データセンターは、クラウドサービスの普及やAI技術の発展を背景に、今後も継続的な需要拡大が見込まれている。今後は、これらの新たな資産クラスの組み入れが制度的に進められることで、REIT市場の裾野が広がり、民間資本の多様なインフラ分野への参入が促進される可能性が高い。
2|投資家保護と情報開示の透明性向上
REIT市場の規模が拡大する中で、投資家保護の強化と市場整備が、今後の重要な課題となっている。特に、REITの健全な運用を確保するためには、情報開示の透明性向上は不可欠である。こうした課題に対応するため、上海証券取引所および深セン証券取引所は、既存の制度の継続的な改善を図る中で、2024年末に「公開募集型インフラ証券投資基金業務指針第6号——年次報告(試行)ガイドライン」の最新版を公表した25。このガイドラインは、REITの年次報告に関する統一的な基準を提示し、投資家に対する情報提供の質と一貫性の向上を図るものであり、実質的な規制としての効果が期待される。今後、同様の制度的枠組みの充実と運用実務の定着が、REIT市場の健全な発展に寄与することが期待される。
3|インフラ公募REITの役割拡大
インフラ公募REITは、安定したキャッシュフローを生み出す長期的な投資対象として、資本市場における存在感を高めつつある。その役割は、単なる金融商品の枠組みを超え、公共インフラの維持管理や持続可能な都市づくりといった社会的課題に対する解決手段としても注目されている。

中国では、老朽インフラの更新や修繕といった公共投資ニーズが今後さらに高まると見込まれるなか、インフラ公募REITが民間資本を呼び込む有効な手段として期待されている。特に、「保障性住宅(中低所得者向けに社会的な保障を備えた住宅)の整備」、「平常・緊急両用の公共インフラ整備」26、「城中村(都市部の中の都市化の過程で取り残されたようなエリア)の再開発」といった「三大プロジェクト」の推進において、長期かつ大規模な資本投入が必要とされているが、これらの事業を政府財政や銀行融資、企業債券といった従来の債務型資金調達手段のみに依存することは、持続可能な投資スキームの構築に限界がある。インフラ公募REITは、これらの課題に対して資産の証券化による新たなエクイティ型の資金調達手段を提供し、既存資産の活用と新規投資の喚起を両立させることで、持続的かつ好循環な投資モデルの形成に寄与すると評価されている。

具体的には、関連する投資主体が、運営実績が安定した関連プロジェクトを対象として、インフラ公募REITを発行し、公募市場から資金を調達する。この資金は、新たな三大プロジェクトの建設における資本金として活用され、民間資本の呼び込みを通じたレバレッジ効果の発揮が期待されている27

また、インフラ公募REITの収益性を確保するため、制度面からの支援も講じられている。中央政府は、都市部における保障性住宅や城中村改造事業について、地方の財政状況や実際の需要に応じて積極的な補助金を支給している。地方政府は特別地方債の発行を通じて、これらの事業を資金面から支援している。民間資本の参入を促す観点からは、政府と民間との連携を強化するため、特許経営(コンセッション)方式の導入やPPP(官民連携)モデルの制度整備が進められている。これにより、公共サービスの提供効率向上と政府財政の負担軽減が期待されている28

保障性賃貸住宅に関しては、過剰在庫となっている分譲住宅を政府が取得・転用する措置が取られているほか、中国人民銀行が総額3,000億元規模の再貸付制度を創設し、金融面からの支援を行っている。平常・緊急両用の公共インフラ整備においては、行政・金融機関・民間企業の三者による連携体制が構築され、資金調達の円滑化が図られている。城中村の再開発については、国家開発銀行および中国農業発展銀行が支援を行っており、これまでに総額1,800億元を超える特別融資が実行されている。加えて、税制上の優遇措置や手数料の減免措置も導入されており、関連法制度の整備も進行中である29
 
26 平常・緊急両用の公共インフラとは、平常時には観光、ヘルスケア、物流などの用途で利用され、緊急時には医療拠点や避難施設、物資の中継拠点として機能する複合型の公共施設である。こうしたインフラの整備は、災害や感染症といった突発的な事態への備えと、平時における都市資源の有効活用の両立を目的としている。
 人民日報「“平急两用”项目建设由点向面快速推进」(2024/7/3)
27 新華網「以基础设施REITs支持“三大工程”建设」(2024/8/2)。
28 中央人民政府「国务院发布!新型城镇化战略五年行动计划一文看懂」(2024/8/1)
29 中央人民政府「抓好“三大工程”建设 构建房地产发展新模式」(2024/6/5)
4|今後の政策動向と制度整備の方向性
国家発展改革委員会は、2025年に向けてインフラ公募REIT市場の拡大と強化を図る方針を示している。具体的には、民間資本の参入を一層促進するため、持続可能な制度設計の構築、および案件情報の継続的な提示による投資機会の創出を重点政策として掲げている。また、REITを通じて民間企業の資金調達負担を軽減し、より多くのインフラプロジェクトへのアクセスを可能にすることで、投資環境の底上げを図ることを目指している30。これらの施策を通じて、中国REIT市場の投資環境のさらなる改善が進むと見込まれる。

一方で、中国REIT市場のさらなる発展に向けては、法制度の整備が依然として重要な課題となっている。現時点REIT市場では「証券法」や「証券投資基金法」など既存の法体系が準用されているものの、REITに特化した包括的な法体系は未整備のままである。こうした状況を受けて、2023年、中国証券監督管理委員会(証監会)は「不動産投資信託基金管理条例」の立法作業を本格化させ31、2024年に制度の策定を進める方針を示していた32が、2024年末時点においても、具体的な制度の公表や進捗は確認されていない。2025年に向けた制度整備の見通しとしては、「重点的に検討を進め、適切な時期に公表すべき制度」として3件の法案が挙げられており、その中には「公開募集不動産投資信託の監督管理に関する暫定措置」の制定が含まれている33。今後、この法整備が進むことで、市場の透明性が高まり、投資家の信頼が一層向上することが期待される。

税制面においては、日米におけるREIT制度は、収益の90%超を分配するなどの一定の要件を満たすことで法人段階での課税を回避し、不動産企業への直接投資と比べて、REITによる配当利回りにおける税制面の有利性を確保している。しかし、中国のインフラ公募REITでは、日米のような税制面の優位性はなく、税制面の措置に関する取り組みはまだこれからである。

2022年1月26日、中国財政部は「インフラ分野における不動産投資信託基金(REITs)パイロットプロジェクトの税制に関する公告」34を公表したが、インフラ公募REITの運用や収益分配に関わる税務処理については、既存の税法および関連法令に則って課税が行われることが明記されているため、スキーム全体に対する法人税の包括的な免除措置は、現行制度下では実現されていない。なお、同公告では、インフラ公募REIT設立段階における資産移転に関する法人税の特例措置が明示された。オリジネーターが保有するインフラ資産を、インフラ公募REIT組成のために新設されたプロジェクト会社に移転し、その対価として当該会社の株式を取得する場合、譲渡益は発生しなかったものとみなされ、法人税は非課税という特例が認められている。また、REITの設立段階において株式譲渡によって資産価値の増加が生じた場合についても、資金調達を完了し、株式譲渡代金を支払った時点までの法人税の繰延べが可能とされている。

中国REIT市場の本格的な拡大と持続的な発展を実現するためには、法人段階での非課税措置を整備することが重要な課題であり、今後の税制改革の方向性とその具体的な制度設計については、引き続き注視が必要である。
 
30 国家発展改革委員会「从三方面精准发力提高投资效益」(2025/1/3)。
31 中国証券監督管理委員会「证监会印发2023年度立法工作计划」(2023/4/14)。
32 中国証券監督管理委員会「证监会印发2024年度立法工作计划」(2024/4/12)。
33 中国証券監督管理委員会「中国证监会印发2025年度立法工作计划」(2025/5/9)。
34 中国財政部「税务总局关于基础设施领域不动产投资信托基金(REITs)试点税收政策的公告」(2022/1/26)

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(2025年06月11日「基礎研レポート」)

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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

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