2025年06月11日

中国REIT市場の動向と今後の見通し~不動産市場低迷の中で見えてきたREIT市場の成長~

社会研究部 研究員 胡 笳

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3――インフラ公募REIT市場の動向

インフラ資産のみに投資対象を限定したインフラ公募REITは、安定的な収益の確保を実現しており、投資対象としての注目度が着実に高まりつつある。その背景には、政府による政策的支援と制度整備の進展があるほか、対象となる道路・物流・エネルギー施設などが、実需に根ざした安定的なキャッシュフローを生むという資産特性がある。

まず制度面において注目されるのは、中国政府がインフラ公募REIT市場の育成を国家戦略の一環として明確に位置づけている点である。2025年3月に発表された「2024年国民経済と社会発展計画の実施状況および2025年計画草案に関する報告」の中では、インフラ公募REITの常態化発行に向けた制度整備の推進が明確に示された。同報告では、REITを活用した民間資本のインフラ分野への参入促進が重要な政策目標として示されており、あわせて、PPP(官民連携)スキームの規範化、重点プロジェクトの情報公開の強化、および投資環境の整備といった具体的方策の推進も盛り込まれている。これらの施策は、インフラ公募REITを通じた民間資金の呼び込みと、公共インフラ整備の効率化を同時に図る制度的基盤として機能している12

インフラ公募REITの安定性を支えるもう一つの要素が、実需に根ざした安定的なリターンが期待できる収益構造である。インフラ資産は、消費・生産・流通など日常的な経済活動の根幹を支える存在であり、かつ長期契約に基づく利用形態を取っていることから、将来的なキャッシュフローの予測精度が高い。また、インフラへの投資は、景気後退局面においても一定の需要が維持される傾向にあるため、収益の変動幅が相対的に小さく、長期に安定した収益を求める投資家にとっては魅力的である。
1|時価総額の推移とグローバルなREIT市場における位置付け
インフラ資産を対象とした公募型REITの試行は、2021年に正式にスタートした。この結果、これまで政府や国有企業が担ってきたインフラ分野への投資に、民間資本の参加が可能となった。インフラ公募REITの対象とされたのは、高速道路、産業園区(産業団地)などの、安定したキャッシュフローが見込まれることに加え、公共性の高い資産である。これらの資産は、市場変動に対する耐性が相対的に高く、リスク管理が比較的しやすいため、REIT制度の初期段階における市場の信頼形成につながった。政府の導入方針と段階的なルール設計が、投資家の安心感を支える重要な要素となっている。

2024年にはインフラ公募REITの市場開始から4年目を迎えた。この間、パンデミックや経済低迷といった数々の外的要因があったにもかかわらず、市場は急速に拡大を遂げ、安定した発展を見せている。2024年には、新たにインフラ公募REIT 27銘柄が上場し、総銘柄数は52銘柄に達した。2024年の年末時点では、インフラ公募REITの時価総額は約1,368億元(約2.8兆円)となった(図表6)。

2024年末時点に組成され、投資家からの資金募集が始まっているインフラ公募REITの銘柄は2件、承認済の銘柄は4件、審査中の銘柄は11件、審査受付済の銘柄は3件となっている。今後も投資家の関心は高まり、着実な市場の成長が期待される。
図表6 インフラ公募REITの時価総額と年別上場の推移
日本のJ-REIT市場は2024年12月時点で57銘柄、その時価総額は約14.29兆円に達している13。その中で、中国のインフラ公募REITの対象資産となり得る「物流施設特化型REIT」は8銘柄であり、これらの時価総額は約2.44兆円14である。規模感からすると、これは中国のインフラ公募REIT市場の時価総額と概ね同水準である。

世界的に見ると、オーストラリアや欧州諸国も一定の市場規模を有しているが、アメリカは依然として世界最大のREIT市場である。2025年4月時点においては、同国に197銘柄のREITが上場しており、その時価総額は1兆4,190億ドル(約200兆円)15に達し、世界2位の日本のREIT市場を大きく上回っている。株式会社グローバルREITリサーチ社16によれば、2024年3月末時点での中国本土のインフラ公募REIT市場は、時価総額で13位に位置している。中国のインフラ公募REITはグローバルなREIT市場の中で一定の存在感を示しつつあるが、依然として先進市場と比較すると未だ規模は小さいといえる。
 
13 一般社団法人不動産証券化協会「J-REIT時価総額・上場銘柄数の推移」。
14 不動産投信情報ポータル、2025年6月2日時点データ。
15 NAREIT「REIT Industry Monthly Data for April 2025」、2025年6月2日時点データ。
16 株式会社グローバルREITリサーチ社は、一般社団法人不動産証券化協会「不動産証券化ハンドブック」の「世界のREIT市場」の章の作成を担当している。
2|保有不動産の用途別割合と分配金利回り
保有不動産の用途別割合をみると、高速道路が全体の34.1%を占め、最も高い割合を示している。次いで、産業園区が17.3%、消費型インフラ(アウトレット、ショッピングモールなどの商業施設、農産物直売市場など)が16.4%、環境エネルギー(太陽光発電、風力発電、汚水処理場など)が14.0%と続いている(図表7)。2024年、中国のインフラ公募REIT市場では、対象となる資産の種類がさらに増加し、商業施設、水利施設、農産物市場など、新しいインフラ資産が次々に承認され、上場された。その中でも、2024年11月に上場された全国初の水利施設インフラ公募REITは発行時に、機関投資家からの申し込み倍率が106倍、個人投資家からは235倍17という高い倍率を記録し、また、上場後の二次市場でも良好な成績を収め、市場の関心を集めた。
図表7 インフラ公募REIT保有不動産の用途別比率(2024年年末)
年ごとの上場額からみる、中国のインフラ公募REIT市場における保有不動産の用途別比率は、2021年から2024年にかけて大きな変化している。特に2024年には「消費型インフラ」の割合が大幅に増加し、市場の多様化が進んでいることがわかる(図表8)。これらの動きは、政府の政策によるREIT市場の方向転換を反映していると言える。
図表8 インフラ公募REIT保有不動産の用途別比率の推移(年別上場額割合)
2024年年末時点で、中国のインフラ公募REITの平均分配金利回りは6.37%であり、J-REITの分配金利回り(2024年12月時点で5.15%)18をやや上回る水準である(図表9)。特に、環境エネルギー分野の平均分配金利回りは11.55%と非常に高い水準を示している。この背景として、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー資産は、電力供給量が自然環境に大きく影響される19一方で、中国政府が掲げている脱炭素目標(2030年までにCO2排出をピークアウト、2060年までにカーボンニュートラル)に基づく補助金などの政策支援20が収益の安定性を支えているものと考えられる。
図表9 インフラ公募REIT保有不動産の用途別分配金利回り(2024年年末時点)
高速道路は安定した収益を生み出す資産として評価され、電力や水道などの生活インフラも、地域社会にとって不可欠なサービスであり、需要の安定性が収益を支える要因となっている。これらのインフラ資産は、長期的な安定した収益を提供する可能性が高い。

一方、商業施設などの消費型インフラは顧客の集客力が収益に直結し、景気や消費動向の影響を受けやすい資産である。特に、新型コロナウイルス感染症が収束後、中国において消費の回復が鈍化し、この経済低迷が商業施設の収益構造に影響を与えている。加えて、世界最大の電子取引(EC)市場を有する中国では、EC化率が48.0%に達し21、このような消費者の購買行動の変化により、商業施設の収益性は引き続き厳しい状況にあると言える。
 
17 経済参考網「全国水利REITs首单!银华绍兴原水水利REIT正式上市」(2024/11/8)。
このダム事業は、給水を主目的としながら、防災や灌漑の機能もあわせ持つ水利インフラであり、総貯水容量は2億3,500万立方メートルにのぼる。紹興市の越城区・柯橋区・上虞区および慈溪市の一部地域に原水を供給しており、各地域は年間の取水量に応じて分担金を拠出している。また、水利インフラ維持管理費の補助制度も整備されており、地方・中央双方による財政的支援の下で運営されている。収益の安定性が高く、景気変動の影響を受けにくい点において、インフラ公募REITに求められる資産特性と高い親和性を有する案件と位置づけられる。
 中央人民政府「水利部关于做好中央财政补助水利工程维修养护经费安排使用的指导意见」(2016/2/6)
 紹興市人民政府「关于印发汤浦水库和平水江水库生态补偿资金提升方案的通知」(2019/1/9)
18 一般社団法人不動産証券化協会「J-REIT分配金利回り(10年間)」。
19 例えば、中信建投国家電投REITは洋上風力発電を主力事業としており、季節的な風況の変動や天候の影響を受け、発電量や送電量が不安定になる場合がある。「中信建投国家电投新能源封闭式基础设施证券投资基金2024年第3季度报告」(2024/9/30)。
20 2024年度の再生可能エネルギー発電プロジェクトに対する補助金総額は54億元(約1,080億円)である。
 中国能源報「可再生能源补贴金额今年略降」(2024/7/1)。
21 経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」(2024/9/25)。
3|インフラ公募REIT指数
インフラ公募REIT指数22は、2021年9月に発表されてから2022年前半に急上昇し、120を超える水準に達した。2023年以降は緩やかな下降傾向を示しつつも、2024年には比較的安定した動きを見せている。これに対し、不動産株価指数は全体的に下降傾向を示し、最近では一定の回復傾向を見せているものの、依然として高い変動性を伴う状況が続いている(図表10)。この背景には、景気の停滞が投資家の投資意欲に影響を与え、不動産市場に対する信頼感が十分に回復していないことが挙げられる。今後、インフラ公募REITが安定的な収益源としての地位を維持する一方で、投資家の間では、不動産株式市場に対する慎重姿勢が継続しており、その回復には時間がかかる可能性がある。
図表10 インフラ公募REIT指数と不動産株価指数の比較
 
22 インフラ公募REIT指数(中証REIT指数)は、上海証券取引所及び深セン証券取引所に上場している、上場期間が 3 カ月以上のインフラ公募 REIT を対象とし、その市場価格(取引価格)に基づいて算出される時価総額加重型の指数である。

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(2025年06月11日「基礎研レポート」)

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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

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