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2025年06月09日

米雇用統計(25年5月)-5月の非農業部門雇用者数は市場予想を上回った一方、過去2ヵ月分が大幅に下方修正

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は横這い予想に一致

6月6日、米国労働統計局(BLS)は5月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+13.9万人の増加1(前月改定値:+14.7万人)と+17.7万人から下方修正された前月を下回ったものの、市場予想の+12.6万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.2%、市場予想:4.2%)と前月から横這い、横這いを見込んだ市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.4%(前月:62.6%、市場予想:62.6%)とこちらは前月から▲0.2%ポイント低下し、市場の横這い予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:急激な悪化は回避も労働市場の緩やかな減速が持続

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は5月が市場予想を上回った一方、後述するように過去2ヵ月分の修正幅が▲9.5万人の大幅な下方修正となった。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+13.5万人と過去12ヵ月(24年5月~25年4月)の月間平均増加ペースの+14.9万人に比べて小幅な低下に留まっており、引き続き緩やかなペースでの減速が続いていることを確認した。

家計調査では失業率は小数第1位では前月から横這いを維持したものの、後述するように労働力人口の大幅な減少(▲62.5万人)を伴って小数第2位では4月の4.18%から4.24%に小幅に上昇した。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を上回った。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+3.9%(前月改定値:+3.9%、市場予想:+3.7%)と+3.8%から小幅上方修正された前月に一致した一方、低下を見込んだ市場予想を上回った(図表1)。このため、5月は賃金上昇率の低下は足踏みとなった。

このようにみると、5月の雇用統計は関税政策に伴う景気減速懸念を背景にした非農業部門雇用者数の大幅な減少などはみられていないものの、緩やかな減速が持続していることを確認する結果となった。もっとも、家計調査で労働力人口が大幅に減少したほか、足元で失業保険新規申請件数が増加するなど関税や景気減速の影響が顕在化する動きもみれているため、6月以降にどの程度労働市場が悪化するのか引き続き注目される。

3.事業所調査の詳細:人材派遣業、連邦政府部門の雇用が減少

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+14.5万人(前月:+13.2万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、運輸・倉庫が前月比+0.6万人(前月:▲0.8万人)と前月からプラスに転じたほか、娯楽・宿泊が+4.8万人(前月:+2.9万人)と前月から伸びが加速した。さらに、医療・社会扶助サービスが+7.8万人(前月:+8.5万人)と前月から小幅に鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。一方、人材派遣業が▲2.0万人(前月:+0.3万人)と前月からマイナスに転じたこともあって専門・ビジネスサービスが▲1.8万人(前月:+1.0万人)とマイナスに転じた。また、小売業が▲0.7万人(前月:▲0.3万人)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、前月からマイナス幅が拡大した。

財生産部門は前月比▲0.5万人(前月:+1.4万人)と前月からマイナスに転じた。建設業が+0.4万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが鈍化したほか、製造業が▲0.8万人(前月:+0.5万人)とマイナスに転じて財生産部門全体を押し下げた。とくに、製造業は25年初来で最大の減少幅となった。

政府部門は前月比▲0.1万人(前月:+0.1万人)と前月からわずかながらマイナスに転じた。内訳をみると、州・地方政府は+2.1万人(前月:+1.4万人)と前月から伸びが加速した一方、連邦政府が▲2.2万人(前月:▲1.3万人)と4ヵ月連続のマイナスとなったほか前月からマイナス幅が拡大して政府部門全体を押し下げた。連邦政府職員はトランプ政権による削減の動きが続いており、1月以降の減少数は▲5.9万人となった。BLSは有給休暇や退職金を継続的に受け取っている職員は雇用者数として認識されるとしており、今後も連邦政府職員の減少傾向は持続する可能性が高い。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増加数(改定値)は前月が+14.7万人(改定前:+17.7万人)と▲3.0万人下方修正されたほか、前々月が+12.0万人(改定前:+18.5万人)と▲6.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲9.5万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って6月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+3.7万人(前月改定値:+6.0万人、市場予想:+11.4万人)と+6.2万人から小幅下方修正された前月から減少し、増加を見込んだ市場予想も大幅に下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用の伸びが鈍化した雇用統計と整合的な動きとなったものの、減少ペースは雇用統計が小幅に留まったのに対して、ADP統計は大幅な減少と乖離が大きくなった。
 
5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が36.24ドル(前月:36.09ドル)となり、前月から+15セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.3時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,243.03ドル(前月:1,237.89ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は大幅な労働力人口の減少に伴い3ヵ月ぶりの低下

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で▲62.5万人(前月:+51.8万人)と前月から大幅なマイナスに転じた。内訳を見ると、失業者数が+7.1万人(前月:+8.2万人)と前月から小幅に伸びが鈍化したほか、就業者数が▲69.6万人(前月:+43.6万人)と前月から大幅なマイナスに転じて労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+81.3万人(前月:▲34.3万人)と3ヵ月ぶりにプラスに転じた。

これらの結果、労働参加率は62.4%(前月:62.6%)と3ヵ月ぶりの低下となった(図表5)。

一方プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は5月が83.4%(前月:83.6%)とこちらも前月から▲0.2%ポイント低下した。男女の内訳は、女性が77.7%(前月:77.7%)と前月から横這いとなった一方、男性が89.2%(前月:89.5%)と前月から▲0.3%ポイント低下して全体を押し下げた。
 
失業率は前述のように小数第2位までみると5月が4.24%(前月:4.18%)と小幅に上昇したが、24年5月以降は概ね4.0%~4.2%の狭いレンジでの推移が続いている(前掲図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は145.7万人(前月:167.5万人)と前月から▲21.8万人の大幅な減少となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.4%(前月:23.5%)と前月から▲3.1%ポイントの大幅な低下となった(図表7)。一方、平均失業期間は21.8週(前月:23.2週)と前月から▲1.4週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(155.6万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(462.4万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、5月が7.8%(前月:7.8%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.6%ポイント(前月:+3.6%ポイント)とこちらも前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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