コラム
2025年05月28日

複素数について(その2)-複素数と方程式-

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

(参考)カルダノの公式

さて、三次方程式の解法はいくつかあり、解の公式も知られている。あまり簡明な式とはいえないが、ここでは「カルダノの公式」と呼ばれているものを簡単に紹介しておく。

三次方程式について考える。
Ai=ai/a3 として、x=y-A2/3 と変数変換を行うと二次の項が消えて、
変数変換
ここで、p=

となる。この三次方程式の解は、ωを1の虚立方根の1つ(即ち、)として
三次方程式の解
となる。よって、最初の方程式の解は、このyからA2/3 を差し引いたものとなる。

ところで、このカルダノの公式によれば、の時に負の数の平方根が現れる形になる。一方で、これは先に述べた三次方程式の判別式D>0の場合に相当していることから、相異なる3個の実数解を持つ条件に合致していることになる。即ち、実数解しかないにもかかわらず、カルダノの公式では「負の数の平方根」が現れてくることになる。

実際に前回の研究員の眼で紹介したラファエル・ボンベリ(Rafael Bombelli,)は、1572年に出版した著書『L'Algebra(代数学)』の中で、という方程式を例に挙げた。この方程式はx=4 を解に持っているが、カルダノの公式によれば、
カルダノの公式
が解となっている。ボンベリは、負の数の平方根の演算規則を与えた上で、
負の数の平方根の演算規則
であることを示して、元の方程式が x = 4 を解に持つことを説明している5
 
5 因みに、虚数単位iの知識がある今日の我々であれば、上式の左辺が右辺となることについては容易に確認できる。
また、因数分解を行うことで、残りの2つの解がという実数解となることが確認できる。

四次方程式の解

四次方程式は、代数学の基本定理より、4つの複素数解を持つ。

四次方程式の解法もいくつかあり、解の公式も知られているが、これらについては三次方程式よりもさらに複雑な式となるので、ここでは紹介しない。ただし、それを導くためには、まずは上記のカルダノの公式での手法と同様に、変数変換を行って3次の項を消去して、以下の形の方程式とすることが行われる。
変数変換
例えば、これを変形することで2次方程式として解く手法(フェラーリの解法)等が知られている。

なお、四次方程式
四次方程式
についても、判別式等が存在して、その状況によって、4つの複素数解の状況(実数解と虚数解、解の重複度等)が異なってくる。

五次以上の方程式

n次方程式は、代数学の基本定理より、n個の複素数解を持つ。ただし、五次以上の一般の方程式に対する代数的解法は存在しない6。即ち、一般の五次方程式に対して代数的な解の公式は存在しない。これは、ノルウェーの数学者ニールス・アーベル(Niels Henrik Abel)7とイタリアの数学者パオロ・ルフィニ(Paolo Ruffini)らによって示され、「アーベル–ルフィニの定理(Abel–Ruffini theorem8と呼ばれている。

また、フランスの数学者エヴァリスト・ガロア(Évariste Galois)は、群や体の概念を使用することで、その証明を大幅に簡略化するとともに、方程式が代数的に解ける条件を裏付けている(現代において「ガロア理論(Galois theory」と呼ばれる新しい数学の概念を導入している)。
 
6 五次方程式も(代数的ではないが)楕円関数等を用いた解の公式は存在している。
7 顕著な業績をあげた数学者に対して贈られる「アーベル賞」(2001年にアーベルの生誕200年を記念して創設された)にその名が冠せられている。数学における賞としては「フィールズ賞」が有名だが、これは4年に1回、40歳以下の数学者のみが対象となるのに対して、アーベル賞は、1年に1度で、年齢は問わず、賞金額も高額で、フィールズ賞よりもノーベル賞に近いものになっている。映画『ビューティフル・マインド』で描かれた米国の数学者ジョン・ナッシュ(John Forbes Nash Jr.は、ゲーム理論の経済学への応用に関する貢献で、1994年にノーベル経済学賞を受賞しているが、さらに非線形偏微分方程式論とその幾何解析への応用に関する貢献で、2015年にアーベル賞を受賞している。なお、2025年には柏原正樹京都大学名誉教授が日本人として初めてアーベル賞を受賞している。
8 パオロ・ルフィ二の証明は完全ではなく、アーベルが初めて正確な証明を与えたとされているが、ルフィニは方程式の問題を群論の問題としてアプローチした先駆者として、重要な貢献をしている。

その他の性質等

実数係数のn次方程式に関して,zが解なら、その共役複素数も解となる。

これは、前回の研究員の眼で紹介した共役複素数の性質に基づけば、容易に証明できる。

最後に

虚数及び複素数を巡る話題について、複数回に分けて報告することにしているが、今回は、複素数が数学の世界において、どのように有効に利用されているのかということで、方程式に関係するトピックについて説明した。

複素数の存在によって、代数学の世界が飛躍的に進展してきたことになる。

次回は、虚数や複素数が日常生活の中等でどのように使用されているのかについて報告する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月28日「研究員の眼」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【複素数について(その2)-複素数と方程式-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

複素数について(その2)-複素数と方程式-のレポート Topへ