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- 株式投資単位の庶民化が「貯蓄から投資へ」のために必須
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2025年06月04日
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日本には単元株制度があり、上場株の売買は原則100株単位である。1株単位で売買できるアメリカと比較して、日本の制度不備でしかない。現実の日本では、ネット証券会社などを使うことで単元未満でも株式を売買できる。とはいえ、単元未満の株主の場合、配当金は受け取れても、株主総会における議決権などの株主としての重要な権利が与えられない。
個人投資家の場合、配当金への関心が強いものの、配当金さえ受け取れれば満足するわけでないのは当然だ。実際に株式を保有した場合、日々の値動きが大きな関心事項となる。行動ファイナンス的には、株価が下落した場合の損失(ただし売却しないかぎりは評価損、もしくは評価益の減少)が大いに気になる。そこで、日本株1単元を保有する場合の金額と損失の可能性を計算し、それをアメリカと対比した(図表)。投資対象は日米を代表する企業が並ぶ時価総額上位10社とし、その中の1社に投資する場合の平均値を求めた。
個人投資家の場合、配当金への関心が強いものの、配当金さえ受け取れれば満足するわけでないのは当然だ。実際に株式を保有した場合、日々の値動きが大きな関心事項となる。行動ファイナンス的には、株価が下落した場合の損失(ただし売却しないかぎりは評価損、もしくは評価益の減少)が大いに気になる。そこで、日本株1単元を保有する場合の金額と損失の可能性を計算し、それをアメリカと対比した(図表)。投資対象は日米を代表する企業が並ぶ時価総額上位10社とし、その中の1社に投資する場合の平均値を求めた。
図表によって判明する事実の1つは、アメリカの場合、円換算での株価は高いものの、1株単位で売買できるため、5万円程度の資金さえあれば投資可能なことである。一方、日本の場合、1単元すなわち100株単位での売買であるため、50万円程度の資金が必要となる。日本銀行「資金循環」によれば、個人金融資産のうち上場株式は177兆円、投資信託136兆円、合計(以下、株式等への投資金額)が313兆円である。ここから国民1人当りの株式等への投資金額が約260万円と計算できる。とすれば、日本の代表的な企業に50万円追加投資することは、現時点で保有している株式等への投資金額を2割程度増やすことになる。
さらに金融リテラシーの議論の中で推奨される分散投資を目指せば、5社買うだけで株式等への投資金額が倍増する。これに関して、投資信託を買えば分散投資が簡単だとの議論があろう。しかしこの議論は本末転倒である。個人が株式投資を通じて金融リテラシーを高めるには、株式、株主総会、議決権行使などを知り、その上で「応援したい企業」を選ぶのが王道である。この王道を諦め、それを専門家に委ねるのは、結局は個人の金融リテラシーを低位に放置してしまう。
もう1つの事実は、日本の場合は投資金額が大きいから、1日に被り得る最大損失額も大きくなる。過去5年間の株価の最大下落率からは、1日で7万円程度の損失の可能性があると計算できる。アメリカの約0.7万円弱と比べれば10倍以上である。7万円の損失は個人にとって大きな痛手だろう。たとえれば、アメリカの場合はちょっと高級な居酒屋で飲み食いした程度なのに対して、日本の場合は最上級の料亭やレストランでの飲み食いに相当する。さらに国民1人当りの所得を勘案すれば、アメリカの場合の損失は普通の居酒屋程度かもしれない。
大きな下落に遭遇した時、個人は日本株に対してどのように反応するのか。金融リテラシーの重要性や資産運用立国を説いたところで、ネガティブな反応が前面に出て来よう。個人金融資産を「貯蓄から投資へ、株式へ」振り向けようとの過去の政策は失敗続きだった。この根源として「株式が高嶺の花、つまり高値の花だった」ことを指摘できる。
東京証券取引所は昨年10月から「少額投資の在り方に関する勉強会」を開催し、今年4月に報告書を公表した。報告書では、10万円程度で日本株への投資が可能になるようにと、上場企業に株式分割を要請する方針が示された。重要な一歩だと考えていい。
とはいえ10万円では、アメリカ市場との歴然とした差が残り、1日に被り得る最大損失額は1万円を超える。庶民感覚として「日本株は近寄り難い」との思いが消えないだろう。株式を気軽に買い、経営者の行動に注目しつつ、日本企業の発展を願って株主総会に投票する個人投資家を増やすには、単元株という屋上屋的な制度を早急に廃止することが望まれる。
さらに金融リテラシーの議論の中で推奨される分散投資を目指せば、5社買うだけで株式等への投資金額が倍増する。これに関して、投資信託を買えば分散投資が簡単だとの議論があろう。しかしこの議論は本末転倒である。個人が株式投資を通じて金融リテラシーを高めるには、株式、株主総会、議決権行使などを知り、その上で「応援したい企業」を選ぶのが王道である。この王道を諦め、それを専門家に委ねるのは、結局は個人の金融リテラシーを低位に放置してしまう。
もう1つの事実は、日本の場合は投資金額が大きいから、1日に被り得る最大損失額も大きくなる。過去5年間の株価の最大下落率からは、1日で7万円程度の損失の可能性があると計算できる。アメリカの約0.7万円弱と比べれば10倍以上である。7万円の損失は個人にとって大きな痛手だろう。たとえれば、アメリカの場合はちょっと高級な居酒屋で飲み食いした程度なのに対して、日本の場合は最上級の料亭やレストランでの飲み食いに相当する。さらに国民1人当りの所得を勘案すれば、アメリカの場合の損失は普通の居酒屋程度かもしれない。
大きな下落に遭遇した時、個人は日本株に対してどのように反応するのか。金融リテラシーの重要性や資産運用立国を説いたところで、ネガティブな反応が前面に出て来よう。個人金融資産を「貯蓄から投資へ、株式へ」振り向けようとの過去の政策は失敗続きだった。この根源として「株式が高嶺の花、つまり高値の花だった」ことを指摘できる。
東京証券取引所は昨年10月から「少額投資の在り方に関する勉強会」を開催し、今年4月に報告書を公表した。報告書では、10万円程度で日本株への投資が可能になるようにと、上場企業に株式分割を要請する方針が示された。重要な一歩だと考えていい。
とはいえ10万円では、アメリカ市場との歴然とした差が残り、1日に被り得る最大損失額は1万円を超える。庶民感覚として「日本株は近寄り難い」との思いが消えないだろう。株式を気軽に買い、経営者の行動に注目しつつ、日本企業の発展を願って株主総会に投票する個人投資家を増やすには、単元株という屋上屋的な制度を早急に廃止することが望まれる。
(2025年06月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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川北 英隆
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/06/04 | 株式投資単位の庶民化が「貯蓄から投資へ」のために必須 | 川北 英隆 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/06/05 | 買収の潜在的な可能性が高まる日本企業 | 川北 英隆 | ニッセイ年金ストラテジー |
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