- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 資産運用・資産形成 >
- 資産運用 >
- これからの資産形成、加速のカギは「金融リテラシー・ギャップ」か-「貯蓄から投資へ」の20年間…日本人に足りなかったのは「自信」
これからの資産形成、加速のカギは「金融リテラシー・ギャップ」か-「貯蓄から投資へ」の20年間…日本人に足りなかったのは「自信」
基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.334]
生活研究部 研究員 西久保 瑛浩
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1― はじめに~リスク資産の普及は好調。粘り強い政策展開の成果か。
2―米国との比較から見えてくる課題~ポイントは金融リテラシーではなく「自信」
しかし、金融知識に関する正誤問題の正答率は、日本が47%に対し米国が50%と、僅か3ポイントの差しかない。つまり、日本人の客観的金融リテラシーは米国と比して大きく劣ってはいないのである。ところが、「金融知識に自信がある人の割合」は、日本が12%に対し米国が71%と、極めて大きな差がついている。
ここから、日本においてリスク資産への投資が大きく普及しない要因に、自らの金融リテラシーに対する「自信のなさ」が大きく関係していることが予想される。
* 金融広報中央委員会(2022)『金融リテラシー調査(2022年)のポイント』
3―金融リテラシー・ギャップとは~「自信」が金融行動に与える影響
次に、金融リテラシーに関する客観的評価と自己評価の傾向の違いを確認する。客観的評価と自己評価について、それぞれ全体平均を100とした指数とその差を層別に表したのが図表4である。
次に、「金融教育を受けた人」と「金融教育を受けていない人」を比較すると、金融教育を受けた人ほど両指数ともに高く、金融教育の効果が見てとれる。指数の差に着目すると、「金融教育を受けていない人」(1.3ポイント)より「金融教育を受けた人」(-16.9ポイント)のほうが負に大きいことから、金融教育が客観的リテラシーの向上だけでなく、むしろ自信の向上に大きく寄与している可能性が示唆されている。
最後に、投資行動についてみると、「株式・投信・外貨等に投資している人」は両指数ともに高く、主観・客観を問わず金融リテラシーと投資行動の関連性がが改めて確認できる。また、投資行動の有無による指数ごとの差に着目すると、客観的評価指数の差(38.1ポイント)より自己評価指数の差(65.4ポイント)の方が明確に大きく、客観的リテラシーよりも自信の方が投資行動との関連性が強いことがわかる。ただし、投資行動に関しては、自信との相互作用が想定される。
考えてみれば、私たちが投資行動の判断材料として自身の知識や判断力を考慮したとしても、それはあくまで自己評価に過ぎない。その前提に立てば、能力という観点で投資行動の有無に直接的に影響を与えうる要因はまさに「自信」であり、金融教育の経験や客観的リテラシーはその裏付けにすぎないともいえる。
以上の分析および米国との比較から、現状日本では自信不足が資産形成の促進における1つのボトルネックとなっていると考えられる。それを改善しなければ、単に客観的リテラシーを向上させたとしても、その投資行動への効果は非効率に留まってしまうといえる。
4―金融リテラシー・ギャップの解消 に向けて~「教育」と「経験」に注力
1つは、金融教育が自信を向上させる効果を活用することである。前述のとおり、日本ではまさに金融教育が本格実施され始めたところであるが、少なくともその内容には、「自身の金融リテラシーのレベルを正しく認識する」という要素を組み入れる必要があるだろう。
もう1つは、投資行動(=経験)と自信との相互関係を利用することである。小規模かつ手頃な投資経験であっても、それが自信を向上させ、その自信がさらなる投資行動を生む相乗効果は存在すると考えられる。NISAや確定拠出年金はまさにその意味で効果が期待される。また、東京証券取引所が推進している投資単位の引き下げや、従業員に対する福利厚生制度としての資産形成支援なども、投資経験の獲得を促進する効果が期待される。
加えて、金融教育において投資に近しい経験を得られる実践的な手法を取り入れることは、金融教育の直接的な自信向上効果と、経験の獲得による相乗効果の両者が期待できる極めて効果的な手段であるといえる。実際米国では金融教育用のゲーム教材の効果が報告されているが、日本でも金融教育に関する実践的な教材や出前授業は民間団体等により提供されているため、教育現場における広範な活用、あるいはそれを後押しする体制を構築することは有効策となり得るだろう。
一方で、過度な自信は必要以上のリスクテイクや金融犯罪への接近を招く恐れがあることには当然注意が必要だ。
以上を総括すると、今日本で求められているのはまさに「金融リテラシー・ギャップ」の解消であるといえる。これまで金融リテラシーの向上に焦点を当てた施策は様々実施されてきたが、その自信を適正化するための取組みはあまり行われてこなかった。
日本が「投資大国」を目指すうえで、金融リテラシー・ギャップの解消は重要な論点になるだろう。
(2025年01月09日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ
03-3512-1795
- 【経歴】
2018年 日本証券業協会 入職
2024年 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
【加入団体等】
・日本マーケティング・サイエンス学会
西久保 瑛浩のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
| 2025/06/12 | 職域における金融経済教育の進展に向けて-人的資本経営における戦略的意義と普及に向けた提言 | 西久保 瑛浩 | 基礎研レポート |
| 2025/05/30 | 高齢者向け「プラチナNISA」への期待と懸念 | 西久保 瑛浩 | 研究員の眼 |
| 2025/05/23 | 「気になるけれど始めない」躊躇する潜在投資家-NISA“意向”者への理解を深める | 西久保 瑛浩 | 基礎研レポート |
| 2025/03/27 | ファイナンシャル・ウェルビーイングについて(2)-金融行動との関係性…保険商品に着目して | 西久保 瑛浩 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年11月04日
今週のレポート・コラムまとめ【10/28-10/31発行分】 -
2025年10月31日
交流を広げるだけでは届かない-関係人口・二地域居住に求められる「心の安全・安心」と今後の道筋 -
2025年10月31日
ECB政策理事会-3会合連続となる全会一致の据え置き決定 -
2025年10月31日
2025年7-9月期の実質GDP~前期比▲0.7%(年率▲2.7%)を予測~ -
2025年10月31日
保険型投資商品の特徴を理解すること(欧州)-欧州保険協会の解説文書
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【これからの資産形成、加速のカギは「金融リテラシー・ギャップ」か-「貯蓄から投資へ」の20年間…日本人に足りなかったのは「自信」】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
これからの資産形成、加速のカギは「金融リテラシー・ギャップ」か-「貯蓄から投資へ」の20年間…日本人に足りなかったのは「自信」のレポート Topへ







![[図表1]家計金融資産に占める株式等+投資信託の割合の推移](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80656_ext_15_0.jpg?v=1736240413)
![[図表2]日米欧の家計の金融資産構成(2024年3月末現在)](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80656_ext_15_2.jpg?v=1736240413)
![[図表3]金融リテラシーの自己評価と正誤問題の正答率](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80656_ext_15_4.jpg?v=1736240413)
![[図表4]金融リテラシーに関する相対的評価指数](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80656_ext_15_5.jpg?v=1736240413)



