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2025年05月13日

景気ウォッチャー調査2025年4月~現状判断DIは22年2月以来の低水準~

経済研究部 研究員 佐藤 雅之

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1.景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差2.5ポイント低下の42.6

内閣府が5月12日に公表した景気ウォッチャー調査によると、25年4月の景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差2.5ポイント低下の42.6と、4ヵ月連続の低下となり、22年2月(37.4)以来の低水準となった。

地域別では、全国12地域中、2地域で上昇、10地域で低下であった。最も上昇幅が大きかったのは沖縄(前月差4.3ポイント)で、最も低下幅が大きかったのは北陸(同▲9.7ポイント)であった。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連が前月差▲2.8ポイント、企業動向関連が同▲1.7ポイント、雇用関連が同▲1.9ポイントであった。今回の調査結果をふまえて内閣府は基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。先行きについては、賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策への懸念もみられる。」から「景気は、このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策の影響への懸念が強まっている。」へと下方修正した。
景気の現状判断DI(季節調整値)/現状判断DI(季節調整値)の変動要因

2.インバウンド売上は減速か

家計動向関連では、飲食関連(前月差0.5ポイント)は小幅に上昇したものの、小売関連(同▲3.5ポイント)、サービス関連(同▲1.7ポイント)、住宅関連(同▲3.8ポイント)が大きく低下した。コメントをみると、「米国の追加関税による先行きの不透明感からか、これまで堅調に推移してきた富裕層による高額品の購入にブレーキが掛かっている。また、円高傾向の影響で、今まで好調だったインバウンドの売上も低迷しているため、ダブルパンチで厳しい状況となっている」(北陸・百貨店)と、足もとの円高傾向によりインバウンド売上の減速がうかがえる。

企業動向関連では、製造業(前月差▲1.6ポイント)、非製造業(同▲2.0ポイント)がともに悪化した。コメントをみると、「米国の関税政策の影響を受け、案件の後倒しや計画中止が出てきている」(東北・一般機械器具製造業)や「現在、米国の関税政策により、景気が大変悪化している。特に、自動車関連の充電バッテリーや機械組立ての企業は、大変な不況である。」(四国・電気機械器具製造業)など、米トランプ政権による関税政策の影響が出始めていることが分かる。

雇用関連では、「新卒採用が2月から4月にかけて本格的に実施されたが、地元の中小企業にとっては、厳しい結果となっている。求人での条件面では、初任給を含む賃上げや福利厚生の充実が難しい地元企業にとっては、大手企業との格差を埋めることができず、大手と中小、都市圏と地方との間で格差が拡大している」(四国・求人情報誌)と、地元の中小企業は採用に苦戦しているとのコメントがみられる。

下図は、景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状)」のコメントをもとに計量テキスト分析1を行い、共起ネットワーク2を作成したものである。これまでインバウンドという単語は、景況感が改善したと判断した回答者のコメントに多く含まれていたが、4月においては景況感が悪化したと判断した回答者のコメントにも含まれていることが読み取れる。
「景気判断理由集(現状)」へのコメント
 
1 分析にはKH Coder 3(樋口2020)を使用した
2 共起ネットワークとは、よく一緒に使われる語同士を、線で結んだネットワークのことである

3.景気の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差2.5ポイント低下の42.7

2~3か月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月差2.5ポイント低下の42.7となった。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差▲2.1ポイント)、企業動向関連(同▲4.1ポイント)、雇用関連(同▲2.0ポイント)のすべてのDIが低下した。
景気の先行き判断DI(季節調整値)/先行き判断DI(季節調整値)の変動要因
家計動向関連では、「ガソリンや米の価格上昇に対する先行き不安、米国の関税政策等で、なかなか景気の先行きが読めない。大きなお金は使いたくないようで、客は消費に慎重である」(甲信越・百貨店)と、家計の消費にとってマイナス要因が多いとのコメントがみられる。

企業動向関連では、「米国の関税政策により製造業の客の輸出意欲が急速に冷え込んでいる。2~3か月後の新規の業務も見通せないため中止となっている」(中国・輸送業)など、先行きを見通すことができずに、新しい事業を諦めているとのコメントがみられる。

雇用関連では、「今のところ具体的な事象はないものの、米国関税の影響により自動車関連企業は何らかの予算抑制方向に動く懸念があり、そうなると自社の引き合いも減少する」(東海・人材派遣会社)と、関税政策が雇用にも影響を与える可能性があるとのコメントがみられる。

景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(先行き)」のコメントをもとに計量テキスト分析を行い、共起ネットワークを作成すると、景況感が改善すると判断した回答者のコメントには、ゴールデンウィーク、関西万博、インバウンドといった単語が多く含まれていることが読み取れる。大阪・関西万博に関するコメントをみると、「10 月までの大阪・関西万博の開催期間中は、来客数が高水準で推移することが期待される。各商品の値上げの動きとあいまって、売上は好調な推移となりそうである」(近畿・コンビニ)など、万博への期待が高まっていることが分かる。
「景気判断理由集(先行き)」へのコメント
2025年4月調査の結果は、米国の関税政策が家計、企業、雇用すべてに悪影響を及ぼし、景況感は現状、先行きともに大きく悪化していることを示すものであった。4月13日から開催されている大阪・関西万博は、5月11日時点で総入場者数が300万人を突破したものの、万博協会の想定を下回るペースとなっている。万博については一部にポジティブなコメントがみられるが、近畿の景気の判断DIは現状が44.3(前月差▲0.4ポイント)、先行きが44.1(同▲3.9ポイント)となっており、現時点では景況感の押し上げには至っていないようだ。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月13日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   研究員

佐藤 雅之 (さとう まさゆき)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2020年4月 株式会社横浜銀行
     2024年9月 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

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