2025年04月09日

景気ウォッチャー調査2025年3月~現状判断DIは3ヵ月連続の低下~

経済研究部 研究員 佐藤 雅之

文字サイズ

1.景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差0.5ポイント低下の45.1

内閣府が4月8日に公表した景気ウォッチャー調査によると、25年3月の景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差0.5ポイント低下の45.1となり、3ヵ月連続の低下となった。

地域別では、全国12地域中、4地域で上昇、8地域で低下であった。最も上昇幅が大きかったのは北陸(前月差1.2ポイント)で、最も低下幅が大きかったのは中国(同▲3.3ポイント)であった。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連が前月差▲0.1ポイント、企業動向関連が同▲0.5ポイント、雇用関連が同▲3.9ポイントであった。今回の調査結果をふまえて内閣府は基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。先行きについては、緩やかな回復が続くとみているものの、引き続き価格上昇の影響等に対する懸念がみられる。」から「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。先行きについては、賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策への懸念もみられる。」へと現状判断は据え置いたが、先行きについての見方を変更した。
景気の現状判断DI(季節調整値)/現状判断DI(季節調整値)の変動要因

2.人手不足は依然として解消せず

家計動向関連では、小売関連(前月差▲0.3ポイント)や住宅関連(同▲1.9ポイント)は低下した一方、飲食関連(同0.4ポイント)やサービス関連(同0.3ポイント)は小幅に上昇した。コメントをみると、「春の行楽シーズンに突入し、団体旅行を中心に旅行需要は増えている。インバウンドの増加に伴い宿泊料が高騰しているが、それでも客は予約して旅行を催行している。しばらくはこの状況が続く」(東海・旅行代理店)と、インバウンド需要は引き続き好調であることがわかる。一方、「野菜及び米の価格高騰の影響が大きく、買い控えが顕著であり、販売数量は前年を下回っている」(中国・一般小売店[食品])など、食料品価格が高騰していることから消費者の購買意欲が低下しているとのコメントがみられる。

企業動向関連では、製造業(前月差1.0ポイント)は上昇したものの、非製造業(同▲2.0ポイント)が悪化した。コメントをみると、「米国政権の関税政策で自動車メーカーの生産調整があり、関連部品の下請中小企業の受注がずれ込んだり、減少したりしている」(北関東・経営コンサルタント)と、米トランプ政権による関税政策が、自動車業界に悪影響を及ぼしていることがうかがえる。

雇用関連では、「飲食業は例年どおり学生が卒業してアルバイトを辞めるため、新規求人が出ている。卸売業やサービス業、建設業では、慢性的な人手不足が続いており、求人を掛けている。製造業は米国の関税政策の影響で不透明なところがあり、採用活動を見送っているところがある」(東北・人材派遣会社)と、人手不足は依然として解消していないとのコメントがみられる。

下図は、景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状)」のコメントをもとに計量テキスト分析1を行い、共起ネットワーク2を作成したものである。景況感が悪化したと判断した回答者のコメントには、物価高、販売量、消費といった単語が多く含まれていることが読み取れる。
「景気判断理由集(現状)」コメントのテキスト分析
 
1 分析にはKH Coder 3(樋口2020)を使用した
2 共起ネットワークとは、よく一緒に使われる語同士を、線で結んだネットワークのことである

3.景気の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差1.4ポイント低下の45.2

2~3か月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月差1.4ポイント低下の45.2となった。先行き判断DIの内訳をみると、企業動向関連(前月差0.6ポイント)のDIは上昇したものの、家計動向関連(同▲1.8ポイント)や雇用関連(同▲3.2ポイント)のDIは低下した。
景気の先行き判断DI(季節調整値)/先行き判断DI(季節調整値)の変動要因
家計動向関連では、「毎月値上げが行われているが、4月になるとアルコール類の値上げが大幅に行われ、その分買い控えも多くなると予想している」(九州・コンビニ)と、消費者の節約志向は今後も続くとのコメントがみられる。

企業動向関連では、「需要増加が見込まれないなか、米国大統領による自動車関税引上げの影響で輸出量が減少する。受注減少につながり、やや悪くなる」(東海・電気機械器具製造業)など、米トランプ政権による関税政策の先行き懸念のコメントがみられる。一方で、「観光客は増加傾向が続くとみられ、ゴールデンウィーク需要もあいまって食品関連の需要増加を期待している」(沖縄・食料品製造業)と、ゴールデンウィークの需要増加に期待するコメントもみられた。

雇用関連では、「多くの業界で人材不足が続いている状況で、早期化が本格化している新卒採用においても、変わらず苦戦をしている。特に地方の中小企業では、都市圏の大手企業と比較して競争優位性がないため、人員確保が困難な状況が続くとみられる」(四国・求人情報誌)と、3月から2026年卒の新卒採用が本格的に始まったが、人材獲得に苦戦するコメントがみられる。

景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(先行き)」のコメントをもとに計量テキスト分析を行い、共起ネットワークを作成すると、景況感が悪化すると判断した回答者のコメントには、米国、物価上昇、懸念といった単語が多く含まれていた。
「景気判断理由集(先行き)」コメントのテキスト分析
2025年3月調査の結果は、物価が高止まりしていることに加えて、米国の関税政策の影響により、景況感が現状、先行きともに悪化していることを示すものであった。関税政策については先行き不透明であることから、トランプ大統領の言動に注目が集まる。一方、インバウンド需要は引き続き好調であることがうかがえ、ゴールデンウィークに向けて需要拡大が期待できそうだ。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月09日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   研究員

佐藤 雅之 (さとう まさゆき)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2020年4月 株式会社横浜銀行
     2024年9月 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【景気ウォッチャー調査2025年3月~現状判断DIは3ヵ月連続の低下~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

景気ウォッチャー調査2025年3月~現状判断DIは3ヵ月連続の低下~のレポート Topへ