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- 不動産市場と金融市場の価格差を利用したJリートの成長戦略
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2025年05月07日
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Jリート(不動産投資信託)市場は、日本銀行の追加利上げに伴う金利の先高観を背景に、調整局面が続いている。バリュエーション指標の一つであるNAV倍率(株式評価のPBRに相当)をみると、2022年12月以降、一貫して1倍を下回って推移しており、2025年3月末時点では0.81倍と理論上の解散価値であるNAV(Net Asset Value)を大きく下回る水準で取引されている(図表1)。
こうしたJリートの市場価格と、保有不動産の鑑定評価に基づいて算出されるNAVとの乖離は、金利上昇に対する感応度の違いによるものである。2022年12月末から2025年3月末にかけて、10年国債利回りは0.3%から1.5%へ1.2ポイント上昇。この間、Jリートの分配金利回りも1.2ポイント上昇(3.9%→5.1%)し、東証REIT指数は▲11%下落した。Jリートは金融市場において利回り商品として位置づけられており、市場金利の上昇に伴い投資家の要求利回りが高まったことが、価格下落の要因と考えられる。
こうしたJリートの市場価格と、保有不動産の鑑定評価に基づいて算出されるNAVとの乖離は、金利上昇に対する感応度の違いによるものである。2022年12月末から2025年3月末にかけて、10年国債利回りは0.3%から1.5%へ1.2ポイント上昇。この間、Jリートの分配金利回りも1.2ポイント上昇(3.9%→5.1%)し、東証REIT指数は▲11%下落した。Jリートは金融市場において利回り商品として位置づけられており、市場金利の上昇に伴い投資家の要求利回りが高まったことが、価格下落の要因と考えられる。
一方、保有不動産の鑑定評価で用いる還元利回り(以下、Capレート)は、金利上昇の影響を受けることなく、むしろ低下傾向が続いている。2022年末以降、Jリート市場全体の平均Capレートは3.9%から3.8%へ0.1ポイント低下し、鑑定評価額の上昇をもたらしている。さらに、実勢の不動産価格は鑑定評価を上回っている可能性が高い。2024年にJリートが売却した不動産の取引価格は鑑定評価を約10%上回った。これは、鑑定評価が実勢価格に対して遅行性を有すること、またインフレヘッジ機能が期待される実物不動産への投資需要が旺盛であることから、金利が上昇する局面においても高値で取引されている。
それでは、「不動産価格(不動産市場)>NAV(鑑定評価)>Jリート価格(金融市場)」という、現在の市場環境を踏まえ、Jリートが投資主価値の向上に向けて、どのような成長戦略を採るべきか、確かめたい。
第一のステップは、鑑定評価額を上回る価格で保有不動産を売却し、売却差益(売却価額-鑑定評価額)を顕在化させることである。トラックレコードの透明性が高く、管理の行き届いたJリートの運用物件は、富裕層の資産管理会社や外資系ファンド、将来の再開発を見据えた不動産ディベロッパーなどからの取得ニーズが強く、思わぬ高値で取引される事例も少なくない。
第二のステップは、売却差益を活用して自己投資口の取得(および償却)を行うことである。図表2は、売却差益の実現と自己投資口買いによる1口当たりNAVの増加率を示している。売却差益が大きいほど、またNAV倍率が低いほど、自己投資口買いによって1口当たりNAVの増加率は高まる。例えば、NAVの「1%~3%」に相当する売却差益を実現し、現在のNAV倍率「0.8倍」の水準で自己投資口買いを実施した場合、1口当たりNAVは「1.3%~3.8%」増加することになる。
このように、不動産価格(不動産市場)とJリート価格(金融市場)の価格差を利用した裁定取引は、自己投資口買いが可能なJリートに特有の戦略であり、投資主価値の向上に対する投資家の期待は大きい。実際、2024年にはJリート市場全体で売却差益が約680億円、自己投資口買いが約1,000億円に達し、いずれも過去最大の規模となった(図表3)。
Jリート市場はNAV1倍を下回る期間が長期化し、厳しい冬の時代にある。しかし、冬に撒いた種は、やがて花が咲き、実を結ぶ。裁定機会を巧みにとらえ、投資主価値の向上とともに投資家の信認が高まることで、現在の割安なバリュエーションが修正されることを期待したい。
それでは、「不動産価格(不動産市場)>NAV(鑑定評価)>Jリート価格(金融市場)」という、現在の市場環境を踏まえ、Jリートが投資主価値の向上に向けて、どのような成長戦略を採るべきか、確かめたい。
第一のステップは、鑑定評価額を上回る価格で保有不動産を売却し、売却差益(売却価額-鑑定評価額)を顕在化させることである。トラックレコードの透明性が高く、管理の行き届いたJリートの運用物件は、富裕層の資産管理会社や外資系ファンド、将来の再開発を見据えた不動産ディベロッパーなどからの取得ニーズが強く、思わぬ高値で取引される事例も少なくない。
第二のステップは、売却差益を活用して自己投資口の取得(および償却)を行うことである。図表2は、売却差益の実現と自己投資口買いによる1口当たりNAVの増加率を示している。売却差益が大きいほど、またNAV倍率が低いほど、自己投資口買いによって1口当たりNAVの増加率は高まる。例えば、NAVの「1%~3%」に相当する売却差益を実現し、現在のNAV倍率「0.8倍」の水準で自己投資口買いを実施した場合、1口当たりNAVは「1.3%~3.8%」増加することになる。
このように、不動産価格(不動産市場)とJリート価格(金融市場)の価格差を利用した裁定取引は、自己投資口買いが可能なJリートに特有の戦略であり、投資主価値の向上に対する投資家の期待は大きい。実際、2024年にはJリート市場全体で売却差益が約680億円、自己投資口買いが約1,000億円に達し、いずれも過去最大の規模となった(図表3)。
Jリート市場はNAV1倍を下回る期間が長期化し、厳しい冬の時代にある。しかし、冬に撒いた種は、やがて花が咲き、実を結ぶ。裁定機会を巧みにとらえ、投資主価値の向上とともに投資家の信認が高まることで、現在の割安なバリュエーションが修正されることを期待したい。
(2025年05月07日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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