2025年02月07日

Jリート市場回復の処方箋

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.335]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1―一人負けのJリート市場

Jリート(不動産投資信託)市場の低迷が続いている。2024年は国内外の株式、金価格、暗号資産などリスク性資産が幅広く値上がりした一方で、Jリート市場は▲8.5%と3年連続で下落した[図表1]。過去3年間の騰落率(▲20%)を見ると、パフォーマンス格差はさらに広がり、金融市場の中で一人負けの様相を呈している。

現在、多くの銘柄(54社/57社)が理論上の解散価値であるNAV(Net Asset Value)を下回り、市場全体のNAV倍率(株式のPBRに相当)は0.8倍に沈む。NAV1倍割れは、手間と丹精を込めて作り上げた商品が「原価割れ」の値札をぶら下げて店先に並ぶ姿のようで、市場の未来に暗い影を落としている。

それでは、今後の回復に向けてどのような取り組みが必要だろうか。以下では、Jリート市場の下落要因とその対策について考察したい。
[図表1]資産の沸騰率(2024年、過去3年)

2―価格下落は需給の影響が大きい

一般に、価格下落は(1)市場ファンダメンタルズの悪化、( 2)過大なバリュエーションの修正、( 3)需給悪化、の3つの要因で起きる。しかし、今回の下落理由に(1)ファンダメンタルズと(2)バリュエーションは当てはまらないだろう。不動産賃貸市況はコロナ禍を抜けて回復に向かい、不動産価格も高値を維持しており、1口当たり分配金( 前年比+8%)やNAV( 同+2%)は増加基調にある[図表2]。また、分配金利回り(5.1%)やNAV倍率(0.8倍)は割安感を一段と強めている。
[図表2]東京REIT指数のバリュエーション
一方、( 3)需給は、昨年大きな変化を見せた[図表3]。これまで主要な買い手であった海外投資家とJリート投信(ETFを除く)が売りに転じた。ETFや個人の買い、増資の減少はプラスに働いたものの、従来との比較では▲1800億円の買い手不足に陥っている。このうち、Jリート投信からの資金流出は2024年1月にスタートした新NISAの影響が大きい。新NISAはJリート投信を多く含む「毎月分配型」を対象外とするほか、「つみたて投資枠」では主たる対象資産を株式に限っている。毎月1兆円の資金が新NISAを経由して金融市場に流入するなか、Jリート市場は蚊帳の外に置かれ、強い逆風にさらされている。
[図表3]Jリーロ市場の需給

3―市場回復の処方箋

まず、資金流出の受け皿として「自己投資口買い」の拡大を急ぎたい。昨年は18社が合計1000億円の自己投資口買いを公表したが[図表4]、需給均衡にはまだ遠い。株式市場では、資本効率改善や持ち合い解消などに備えて自社株買いの取得枠が17兆円(時価総額の2%)に達している。これを基準にすると、Jリート市場では3000億円(時価総額14.3兆円×2%)が1つの目安になりそうだ。

次に、制度面では導管性ルールの改正を検討したい。Jリートは利益のほぼ全額を分配する仕組みのため、年間の剰余資金は市場全体で1000億円にとどまる[図表4]。大規模な自己投資口買いの財源を確保するには資産売却が必要となるが、売却益を内部留保し自己投資口買いに活用できる制度が整えば、柔軟な資本政策が可能となり、分配金や市場価格の安定にも寄与することが期待される。

昨年来の需給悪化は構造的変化として長期化する恐れがある。また、NAV1倍割れの常態化は、買収後に解体して鞘取りを狙うアクティビストの標的になりかねない。Jリート各社は「今が有事」との意識を共有し、継続的かつ大胆な自己投資口買いの実行が求められている。
[図表4]自己投資口買いと剰余資金(分配金支払後)

(2025年02月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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