2025年04月15日

患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

医療の状況を見るうえで、患者の動向を把握することは欠かせない。日本では、厚生労働省が3年ごとに「患者調査」を行い、その結果を公表している。昨年末には、2023年に行われた調査の結果が公表された。

この調査には、高齢化の進展をはじめとする社会の変化、画期的な医薬品・医療機器の開発や導入の状況、健康増進や疾病予防対策の普及、医療のデジタル化など、さまざまな要因が医療にもたらした影響が、患者の動向としてあらわれている。今回は、公表された統計データをもとに、その影響を見ていこう。

2――今回の患者調査の実施時期

2――今回の患者調査の実施時期

まず、今回の調査の概要について簡単に見ていこう。
1|調査は2023年9月、10月に行われた
患者調査は、統計法(第2条第4項)に基づく基幹統計の1つで、3年に1回調査を行うこととされている。調査の対象は、全国の医療施設を利用する患者だ。具体的には、医療施設を層化無作為抽出し1、その施設を利用した患者を客体として調査が行われる。

調査の時期は、入院患者と外来患者については、10月の3日間のうち医療施設ごとに定める1日。退院患者については、9月1日~30日までの1か月間とされている。

今回の調査に先立って厚生労働省から出された調査協力依頼によると、調査の期日は、病院の入院・外来患者は10月17日(火)~19日(木)の3日間のうち、厚生労働省が病院ごとに指定した1日。一般診療所と歯科診療所の入院・外来患者は、10月17日(火)、18日(水)、20日(金)の3日間のうち、厚生労働省が診療所ごとに指定した1日とされている2
 
1 500床以上の病院については、悉皆(しっかい)調査(全数調査)となる。
2 一般診療所や歯科診療所は、木曜日を休診や午後休診としている場合もあるため、調査期日から除外しているものとみられる。
2|今回の調査では、コロナ禍の影響は、前回よりも小さくあらわれるものと考えられる
前回(令和2年)の調査が行われた時期には、新型コロナウイルス感染症の第2波が過ぎ、第3波の到来に向けて新規感染者数が徐々に増加していた。この時期には、まだ新型コロナのワクチンは開発されておらず、3密の回避3、咳エチケット、石鹸による手洗い等の感染拡大防止策の徹底が促されていた。人々の間で感染への不安感が高まり、患者の医療施設での受診に影響をもたらしているとみられる時期でもあった。その結果、患者数で見ると、入院は大幅減少、外来は微減。受療率(人口10万人当たりの推計患者数)で見ると、入院は大幅低下、外来は若干低下。平均在院日数で見ると、コロナ禍と調査票の元号記載の要因も加わったため4増加となった。

今回の調査は、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行してから数か月後に行われた。このため、コロナ禍の影響は、前回よりも小さくあらわれるものと考えられる。
 
3 換気が悪い密閉空間、人が多数集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面を避けること。
4 調査票の入院年月日の記入箇所で、令和に○を付すべきところを平成に○を付したために、入院期間が30年以上として処理されたケースが混入したことが考えられる。詳細は、「入院は大幅減少、外来は微減-2020年の「患者調査」にあらわれたコロナ禍の影響」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 基礎研レター, 2022年9月27日)を参照いただきたい。

3――患者数

3――患者数

これ以降は、公表された統計データを概観していく。まず、患者数の動向から見ていこう。
1|患者数 : 入院は減少、外来は増加
公表された推計入院患者数と推計外来患者数を見てみよう。いずれも、調査日当日に、病院、一般診療所、歯科診療所で受療した患者の推計値だ。

2020年は、推計患者数は入院117.5万人、外来727.5万人であった(万人未満四捨五入)。推計入院患者数は、2020年よりも減少した。入院患者の数は、長らく120万人以上で推移しており、この水準を下回るのは1970年代以来となる。コロナ禍の影響が残っているものとみることができる。一方、外来患者については、2011年以降微減傾向であったが、2023年には反転して増加となった。
図表1. 推計患者数の推移
2|主な疾患で総患者数の増加傾向が続いている
つぎに、患者数の多い主な疾患別に、その推移について見てみよう5。総患者数は、調査日当日には受療しなかった再来の外来患者も含めた、患者の総数の推計を表している6

傷病分類別に、総患者数のランキングをとると、次のようになる。循環器系の疾患と消化器系の疾患でいずれも2000万人を超えている。消化器系の疾患は前回から+20.3%と大きく増加した。また、腎尿路生殖器系の疾患は、前回から+29.6%と大きく増加して、ランキングを2つ上げた。
図表2. 傷病分類別の総患者数ランキング
上位4つの疾患について、総患者数の推移を見てみよう。循環器系の疾患、消化器系の疾患、内分泌, 栄養及び代謝疾患は、2011年以降、いずれも増加傾向にある。特に、消化器系の疾患の伸びは大きい。一方、筋骨格系及び結合組織の疾患は2023年にやや減少した。
図表3. 主な疾患の総患者数の推移
 
5 傷病の分類は、「疾病、傷害及び死因の統計分類(基本分類)(ICD-10(2013年版)準拠)」(2011年と2014年は「疾病、傷害及び死因の統計分類(基本分類)(ICD-10(2003年版)準拠)」)をもとに行っている。
6 総患者数の推計には推計患者数、平均診療間隔、調整係数が用いられる。このうち、平均診療間隔は、診療間隔が極端に長い場合は継続的に医療を受けているとせず、再来ではなく初診とみなす方が適当であるとの考え方により、推計の対象となる「前回診療日から調査日までの日数」に算出上限を設けている。この算出方法は、集計開始当時の受療状況を加味して設定されたが、近年の疾病構造の変化や医療技術の向上などにより診療状況に変化が生じていることを踏まえ「患者調査における『平均診療間隔』及び『総患者数』の算出方法等の見直しに関するワーキンググループ」(厚生労働省)において検討され、2017年調査まで算出上限日数を30日(31日以上は除外)と設定していたものについて、2020年調査以降は、算出の上限日数を98日(99日以上は除外)とする見直しが行われた。図表3は、2011年、2014年、2017年の数値についてもこの見直しを適用して算出したものとしており、各年の比較のベースを揃えている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年04月15日「基礎研レター」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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