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- 経過措置終了に伴う企業の現状と今後の対応方針~東証市場再編後に残された課題~
2025年03月27日
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4――基準達成に向けた経過措置適用企業の進捗状況
次回の基準日で上場維持基準に適合する見込みであることを既に発表している企業もある一方で、計画期限までに上場維持基準に適合することが困難に見受けられる企業も散見される。特に、未達企業が最も多い流通株式時価総額や時価総額を大きくすることは基本的に業績の拡大とともに、当期利益を継続的に増加させていくこと等が不可欠であり、経過措置の適用終了後の限られた時間のなかで基準を達成することはかなり厳しいのが現実でもあるだろう。
このような状況のなか上場維持基準を満たしていない企業は基準適合に向け引き続き取り組むほか、万が一基準に適合しない場合の上場廃止リスクを避ける選択肢として、市場区分変更や他取引所への重複上場、非公開化といった対応を検討または実施しているようだ。図表6はJPXが公表した経過措置適用企業345社の主な対応方針である。
このような状況のなか上場維持基準を満たしていない企業は基準適合に向け引き続き取り組むほか、万が一基準に適合しない場合の上場廃止リスクを避ける選択肢として、市場区分変更や他取引所への重複上場、非公開化といった対応を検討または実施しているようだ。図表6はJPXが公表した経過措置適用企業345社の主な対応方針である。
市場区分変更は、プライム市場上場企業および時価総額が基準未達であるグロース市場上場企業にとって、基準が緩和されているスタンダード市場への市場区分変更が、現実的な選択肢となっている。実際、筆者が集計した2025年3月14日時点のプライム市場に上場している基準未達企業57社のうち、56社はスタンダード市場の上場維持基準には適合していた。一方で、スタンダード市場の経過措置適用企業については、他市場への区分変更に必要な基準のハードルが相対的に高く、他の取引所への重複上場を選択する企業が多い傾向にある。地方の証券取引所の中には、経過措置適用企業が満たしていないことが多い「流通株式時価総額」の基準が設定されていないケースも少なくないからだ。筆者の集計によれば、2025年3月14日時点において、基準未達の企業のうち他取引所との重複上場を行っている企業は16社確認されており、そのうち14社はスタンダード市場の上場企業である。また、M&AやMBOを通じて株式を非公開化する企業も見られる。2025年1月から3月(3月25日時点)にかけて東京証券取引所を上場廃止した企業30社のうち、経過措置適用企業(適合済みを含む)は14社確認された。その多くは、ファンドや他社(親会社含む)によるM&AやMBOを理由としてあげており、東証改革に伴う新市場区分への移行や上場維持基準の見直しが、非公開化を決定する一因となっているものと考えられる。
5――まとめ
経過措置の終了により、経過措置適用企業は本来の上場維持基準のもとで基準適合を目指すとともに、市場区分の変更や非公開化など、経営戦略上の重要な判断を求められる局面に立っている。筆者の集計によれば、2025年3月末をもって経過措置の適用が終了する企業は103社(プライム21社、スタンダード65社、グロース17社)確認されている。これらの企業のうち、何社が基準に適合し、また基準未達で改善期間に入る企業が今後の1年間でどのように対応していくかが注目されるところである。
確かに、市場区分の変更や他取引所への上場といった対応も選択肢として存在する。ただし、例えば東証から地方取引所への上場市場の移行については、一般に流動性が低下すると考えられる。東京証券取引所は「量から質へ」の移行を進めるなかで、経過措置の再延長は行わない方針を明言しており、経過措置適用企業に限らず、基準にぎりぎり適合している企業にとっても将来的な改善期間入りのリスクは意識せざるを得ない状況にある。
上場企業として、企業価値を高めつつ継続的に株価を上昇させていく過程で上場維持基準に適合していることはあるべき姿といえる。一方で、仮に基準への適合を目的として短期的な対策に偏った取組みが行われた場合、それが持続可能な企業価値向上につながるのかは、あらためて検討する必要があるだろう。
確かに、市場区分の変更や他取引所への上場といった対応も選択肢として存在する。ただし、例えば東証から地方取引所への上場市場の移行については、一般に流動性が低下すると考えられる。東京証券取引所は「量から質へ」の移行を進めるなかで、経過措置の再延長は行わない方針を明言しており、経過措置適用企業に限らず、基準にぎりぎり適合している企業にとっても将来的な改善期間入りのリスクは意識せざるを得ない状況にある。
上場企業として、企業価値を高めつつ継続的に株価を上昇させていく過程で上場維持基準に適合していることはあるべき姿といえる。一方で、仮に基準への適合を目的として短期的な対策に偏った取組みが行われた場合、それが持続可能な企業価値向上につながるのかは、あらためて検討する必要があるだろう。
(2025年03月27日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
2015年 ニッセイ基礎研究所入社
2020年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)
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