2025年03月24日

パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2|パワーカップル世帯数の推移~10年で2倍、2024年で45万世帯、66.7%は子のいるパワーファミリー
次に、夫婦共に年収700万円以上のパワーカップル世帯に注目する。パワーカップル世帯は近年、増加傾向にあり、過去10年で約2倍に増え、2024年では45万世帯に達する(図表4)。なお、共働き世帯に占める割合は2.9%である。

冒頭で触れた通り、パワーカップルは世帯数としては僅かではあるが、消費のけん引役として注目されている。また、企業が商品・サービスの提供を考える場合、夫婦それぞれの年収だけではなく、世帯年収に広げて見ても、高消費層として位置付けることができるだろう。参考までに、パワーカップルに近しい世帯として、夫婦の合計年収が1500万円前後・以上(図表3(c)の水色より上)を見ると、66~206万世帯で、総世帯の1.21~3.78%、共働き世帯の4.25~13.26%を占める。100万世帯を超えてくると、消費市場として一定の魅力があるのではないだろうか。

なお、夫婦の合計年収が2千万円以上の世帯は19万世帯で、総世帯の0.35%、共働き世帯の1.22%を占める。よって、先に見た通り、年間所得2千万円以上の世帯は59万世帯であるため、このうち共働き世帯は約3割を占めると見られる。

視点を図表4の夫婦共に年収700万円以上のパワーカップル世帯数の推移に戻すと、労働市場が深刻な影響を受けたコロナ禍を経ても、おおむね増加傾向が続いている。過去の分析7において、コロナ禍では、非正規雇用者より正規雇用者の方が、正規雇用者の中では管理職等の高収入層ほど悪影響を受けにくい傾向があり、パワーカップルはコロナ禍など社会変化の悪影響を受けにくい層が多いと見られる。

また、パワーカップル世帯の内訳を見ると、以前から「夫婦と子」から成る核家族世帯が過半数を占めて最も多いが、その割合は上昇傾向にあり、2024年では64.3%を占める。次いで「夫婦のみ」世帯(33.3%)が多い。

なお、「夫婦と子」と「夫婦と子と親」世帯をあわせた子どものいる世帯(パワーファミリー)はパワーカップル世帯の66.7%にのぼる。つまり、高収入の共働き夫婦と言うと、DINKS(Double Income No Kids)との印象も強いかもしれないが、実際にはDEWKS(Double Employed With Kids)の方が圧倒的に多い。
図表4 世帯類型別に見たパワーカップル(夫婦共に年収700万円以上)世帯数の推移
 
7 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化-約4分の1で収入減少、収入補填と自由時間の増加で副業・兼業も」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/4/20)など。
3|夫の収入別に見た妻の就労状況~年収1500万円以上の夫でも62.30%の妻は就業
日本では昔から、夫の収入が高いほど妻の労働力率が下がる傾向が見られてきた(「ダグラス・有沢の法則」)。
図表5 夫の年収階級別に見た妻の労働力率の変化 あらためて夫の年収階級別に妻の労働力率を見ると、2024年でも、夫の年収が400万円以上では妻の労働力率は低下する傾向がある(図表5)。とはいえ、夫の年収によらず、全体的に妻の労働力率は上昇しているため、年収1500万円以上の高収入の夫でも、妻の62.3%は就業しており、10年前と比べて1割以上上昇している(2014年48.8%に対して+13.5%pt)。

出産・子育て期における就業継続の環境が整備され、若い世代ほど共働きが増える中で、夫が高収入であれば専業主婦という、これまでの価値観は弱まっていると見られる。

なお、夫の年収によらず、フルタイムで働く妻も増えており(図表略)、年収1,500万円以上の夫では、2014年から2024年にかけて、週35時間以上就業する妻の割合は14.6%から19.7%(+5.1%pt)へ、世帯数は6万世帯から12万世帯(+6万世帯)へと2倍に増えている。なお、夫の年収が700万円以上の世帯に広げて見ても、妻の労働力率は17.4%から25.0%(+7.6%pt)へ、世帯数は78万世帯から151万世帯(+73万世帯)へと2倍に増えており、このうち約3割がパワーカップルと見られる。

4――おわりに

4――おわりに~パワーカップルはしばらく増加傾向、女性の正規雇用者率に伸長の余地あり

本稿では、統計の最新値を用いて、世帯の所得分布やパワーカップル世帯数の動向について分析した。その結果、夫婦ともに年収700万円以上のパワーカップルを含む所得1,200万円以上の世帯は総世帯の約7%を占め、南関東など都市部に多く居住している傾向が見られた。

また、共働き夫婦の年収の関係を分析しところ、夫婦の年収はおおむね比例関係にあり、妻の年収が700万円以上の場合、約7割の世帯で夫の年収も700万円以上であった。一方、相対的に妻の年収が低いほど夫の年収も低くなる傾向があり、過去から指摘されてきた世帯間の経済格差の存在があらためて確認された。

また、近年、パワーカップル世帯数は増加傾向にあり、2024年では45万世帯に達し、過去10年で2倍に増加していた。総世帯に占める割合は約1%、共働き世帯では約3%と限られた層ではあるが、夫婦それぞれでの年収ではなく、世帯年収に広げて見ると100万世帯を超えており、消費市場として一定の魅力を持つ層であると言える。

さらに、夫の年収階級別に妻の労働力率を分析しところ、年収1500万円以上の高収入の夫であっても妻の6割超が就業しており、その割合は過去10年で1割以上上昇していた。若い世代ほど、出産・子育て期における就業継続の環境が整い、男性の育児休業取得も進んでいることから8、夫婦ともに子育てをしながら働くという価値観が強まっている。その結果、夫が高収入であれば専業主婦という、これまでの価値観は弱まっているだろう。

また、近年ではパワーカップルの中でも子のいるパワーファミリーが増加しており、2024年には約7割に達していた。具体的な消費の話題については別のレポートで述べる予定だが、すでに不動産や教育、旅行、家具、家電製品といった比較的高額な商品がラインナップされている市場では、パワーカップル・ファミリーは消費のけん引役として注目されており9、今後も活発な消費が期待される。

では、今後、パワーカップルは増えるのだろうか。そして、増えるべきなのだろうか。

短期・中期的にはパワーカップル・ファミリーは増加すると考えられる。その理由として、若い世代ほど出産・子育期を含め、キャリア形成に励むことのできる環境が整い、機会も拡大している点が挙げられる。また、40代以下の世代は女性の大学進学率が短大進学率を上回り(図表6)、上の世代と比べて女性も男性と同様に進学先や就職先を選択する機会が増えた世代だ。よって、若い世代ほど女性自身のキャリア形成意識も強まっていると見られる。加えて、夫婦ともに育児に積極的に関わろうと考える層が増え、夫も妻のキャリア継続や成長を支援しようとする意識が強まっていると考えられる。

長期的には少子化の影響も無視できないが、現状では大学進学率と比べて正規雇用者率における男女差が大きいことを踏まえると、大半が正規雇用者夫婦と見られるパワーカップル・ファミリーの裾野を広げる余地は十分にある。例えば、大学進学率の男女差は2014年で8.9%pt、2009年で11.7%ptである一方、正規雇用者の割合は25~29歳で11.0%、30~34歳で20.7%の差がある。この状況は女性の管理職比率の向上や男女の賃金格差是正を考える上で大きな課題だ。

なお、足元で、大手企業では初任給が大胆に引き上げられ、若手社員を中心に賃上げが進んでいるため、近い将来、夫婦ともに年収700万円以上との本稿における定義を見直す(上げていく)必要もあるだろう。
図表6 大学・短大進学率の推移/図表7 雇用者に占める正規雇用者の割合
パワーカップルが増えるべきかどうかについては、まず、パワーカップル・ファミリーが増えやすい環境を整えられることが重要だと考えられる。近年の若者のライフコースの希望を見ると、共働きを望む割合が増えており、現在では3割を超えて最も多い選択肢となっている10。また、女性の生涯賃金を推計すると、正規と非正規では2倍程度の差がある11。共働きをしやすい環境がさらに整い、将来を担う世代の経済基盤が安定することは、個人消費の拡大や日本経済の活性化にも直結する。また、高齢化が一層進み、単身世帯が増加する中では、仕事と生活の両立環境の改善や経済基盤の安定化が図られることは、社会の安定化にも寄与すると考えられる。

なお、次稿では、パワーカップルの年代や就業形態などの属性、および消費動向についての分析する予定である。
 
8 久我尚子「男性の育休取得の現状(2023年度)-過去最高の30.1%へ、中小や非正規雇用が多い産業でも上昇」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2024/8/15)
9 「特集-パワーファミリーの研究 年収1500万円世帯、消費の新主役-PROLOGUE-あなたの街にもパワーファミリー 小田原駅前のタワマン完売 子育て環境求め、続々移住」、日経ビジネス(2024/4/29)など。
10 国立社会保障人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(独身者調査)」によると、女性の理想のライフコースでも男性 
がパートナー望むライフコースでも「両立コース」が上昇傾向で、首位(女性34.0%、男性39.4%)を占める。
11 久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計(令和5年調査より)-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並で3億円超」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2024/10/23)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年03月24日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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