2024年10月23日

大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計(令和5年調査より)-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並で3億円超

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • まず、生涯賃金推計の前提として女性の就労状況を見ると、女性雇用者の過半数は非正規雇用者である。ただし、近年の「女性の活躍」推進で54歳以下では若いほど非正規雇用率は低下し、出産前後の就業継続率が上昇している。また、第1子出産前後(出生年が2015~2019年69.5%)と比べて第2子(同87.1%)や第3子(同89.5%)の就業継続率は高く、女性の就業継続の壁は第1子出産前後にある様子が見て取れる。
     
  • 大学卒女性の生涯賃金について雇用形態別に復職した場合や出産・子育てで離職をした場合など11のケースを設定して推計した。結果、女性が大学卒業後に直ちに就職し、同一企業等で正規雇用で休職することなく働き続け、60歳で退職した場合の生涯賃金は2億5,183万円(同様の男性では3億0,382万円)となる。
     
  • 一方、2人の子を出産し産育休を各1年間利用し、フルタイムで復職すると2億3,092万円、復職時に時短勤務を子が3歳まで(2億2,296万円)、小学校入学前まで(2億1,550万円)まで利用しても2億円を超える。この差は本人や家庭だけでなく、個人消費や日本経済にも多大な影響を及ぼす。また、女性が出産後も働き続けられる環境の整備は、企業にとって人材確保やコスト削減にも寄与する重要な取り組みと言える。
     
  • また、大企業勤務や65歳で退職、男性並の賃金水準の女性の場合なども推計した結果、60歳より65歳で退職した方が、退職年齢が同じなら大企業の方が、女性より男性労働者の賃金水準の方が生涯賃金は多くなる。結果、大企業勤務・65歳で退職・男性並の賃金水準の場合、2人出産後に時短を活用しても生涯賃金は3億円を超える。近年、少数ながら増加傾向にあるパワーカップルの妻はこの水準を超えるものと見られる。
     
  • 独身の若者では男女ともに仕事と家庭の両立を希望する傾向が強まっている。経済不安というネガティブな要因もあるだろうが、「女性の社会進出/活躍推進」というポジティブな要因が大きく寄与していると考える。近年、仕事と家庭の両立環境は大きく前進しているが、引き続き環境整備が進み、将来世代が希望通りに働きながら子育てを実現できるようになれば、少子化の抑制や日本経済のさらなる発展が期待できる。


■目次

1――はじめに~「女性の活躍」推進から10年余、期待される女性の経済力のさらなる向上
2――近年の女性の就労状況
 ~「女性の活躍」推進効果で非正規雇用率低下、出産後の就業継続率上昇
  1|雇用形態の状況
   ~「女性の活躍」推進効果で若いほど非正規雇用率低下、高年齢層の就業も活発化
  2|結婚・出産前後の就業継続状況
   ~就業継続率は上昇傾向、第1子出産後は69.5%、正規は83.4%
3――大学卒女性の生涯賃金の推計方法
  1|設定した女性の働き方ケース
  2|生涯賃金の推計条件
4――大学卒女性の生涯賃金の推計結果
 ~正社員で2人出産・育休・時短利用でも2億円超
  1|60歳で退職の場合
   ~正社員で2人出産・育休・時短利用で2億円超、パート再就職で約7500万円
  2|大企業勤務かつ65歳で退職の場合
   ~男性並みの賃金水準の女性は2人出産でも復職で3億円超
5――おわりに~多様な働き方と子育て支援策の充実は次世代育成と経済成長の鍵

(2024年10月23日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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