2025年03月21日

資金循環統計(24年10-12月期)~個人金融資産は2230兆円と前年比86兆円増加も実質では前年割れ、定期預金が純流入に

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

1.個人金融資産(24年12月末):前期末比50兆円増

2024年12月末の個人金融資産残高は、前年比86兆円増(4.0%増)の2230兆円となり1、2四半期ぶりに過去最高を更新した。年間で見た場合、資金の純流入が22兆円あったほか、内外株高や円安が進んだことで時価変動2の影響がプラス63兆円(うち国内株式等がプラス28兆円、投資信託がプラス18兆円)発生し、個人金融資産残高を押し上げた。
 
次に四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年9月末)比で50兆円増と、大きく増加した。例年、10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金の純流入が進みやすい傾向があり、今回も20兆円の純流入となった。賞与増加の寄与とみられるが、純流入の規模(20兆円)は昨年同期(12兆円)を大きく上回り、直近10年平均(18兆円)もやや上回った。さらに、この間に国内株価が上昇し、円安が大きく進んだことで、時価変動の影響がプラス31兆円(うち国内株式等がプラス14兆円、投資信託がプラス8兆円)発生し、資産残高を大きく押し上げることとなった(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計金融資産残高の伸び率(名目・実質) ただし、昨年12月にかけても物価の高い伸びが続いたため、その分個人金融資産の実質的な価値(購買力)は目減りしている。一年間の物価上昇の影響を加味した実質ベースの個人金融資産の伸びは前年比0.2%減と2四半期連続で前年の水準を割り込んでいる(図表5)。日本の個人金融資産はゼロ・低金利の現預金が全体の過半を占めているため、物価上昇に弱い構造にある。
(図表6)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産(グロス)は、既述のとおり10-12月期に50兆円増加したが、この間に金融負債も4兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は9月末比で46兆円増加の1834兆円となっている(図表6)。
 
足元の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年、資金の純流出が進む傾向がある。さらに、12月末以降、円高が大きく進んだことから(図表4)、時価変動の影響もマイナスに働いているものと推測される。

従って、3月末にかけて株価やドル円が足元に対して横ばい圏で推移すれば、3月末時点の個人金融資産残高は12月末時点の残高をやや下回る可能性が高い。
 
1 今回、2024年7-9月期の計数が改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.家計の資金流出入の詳細:定期預金が9年ぶりの純流入に、リスク性資産への流入も継続

昨年10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表7)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が大幅な純流入(17.9兆円)となった。純流入の規模は前年同期(14.4兆円)や一昨年同期(16.6兆円)を上回っている。

現預金の内訳としては、まず現金への純流入(2.8兆円)はじわりと鈍化してきている(図表8)。決済におけるキャッシュレス化の進行、インフレによる価値の目減り懸念に加え、7月からの新紙幣発行を機にタンス預金の一部が取り崩されたためと推測される。

また、流動性預金(普通預金など)からの純流入(14.5兆円)も鈍化傾向にある。現金同様、インフレによる価値の目減り懸念を受けて、より金利の高い定期預金や個人向け国債、リスク性資産などへの資金シフトが生じたためだ。日銀による7月末の追加利上げを受けて、9月以降、普通預金金利が引き上げられたものの、金利水準が定期預金や個人向け国債を大きく下回っているため、資金シフトが促されたようだ。

一方、定期性預金(定期預金など)は小幅ながら純流入(0.2兆円)となった。純流入となるのは2015年10-12月期以降9年ぶりのこととなる。利上げの浸透などによって定期預金金利の水準が上昇したことを受けて、現金や流動性預金から一部資金が流入したり、満期到来分が再び定期預金として預け入れられたりしたことが純流入の背景にあるとみられる。
(図表7)家計資産のフロー(各年10-12月期)/(図表8)現・預金のフロー(各年10-12月期)
(図表9)家計資産のフロー(4四半期累計フロー)/(図表10)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債等のフロー
次に、リスク性資産等への投資フロー(時価の変動は含まない)を確認すると(図表7)、まず代表格である株式等が1.4兆円の純流出となった。年末にかけて株価が持ち直したことを受けて、利益確定売りが優勢になったと推測される。

一方、投資信託は2.0兆円の純流入となった。純流入の規模は10-12月期としては2006年以来の高水準にあたる。円安・株高を受けた利益確定目的の解約も一定程度出たとみられるが、新NISAの普及を追い風に堅調な純流入が続いている。トレンドを見るために4半期累計フローを確認した場合でも(図表9)、投資信託への資金流入拡大が鮮明になっている。

その他資産では(図表10)、確定拠出年金内の投資信託(0.4兆円の純流入)で堅調な純流入が続いているほか、国内預金よりも金利水準が高い国債(0.5兆円の純流入)や外貨預金(0.4兆円の純流入)への資金流入が目立つ。

新NISAの普及や長引くインフレが追い風となり、家計のリスク性資産等に対する前向きな投資スタンスが維持されていると考えられる。

3.その他注目点:家計の資金余剰は回復、日銀の国債保有割合は緩やかに低下

(図表11)部門別資金過不足(季節調整値) 昨年10-12月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表11)、民間非金融法人(企業)の資金余剰が1.3兆円と7-9月期の2.6兆円から縮小した。一方で、家計部門の資金余剰は4.8兆円と7-9月期の1.2兆円から増加し、2023年7-9月期以来の高水準となった。物価上昇が引き続き圧迫要因になったものの、冬の賞与増加が寄与したものと考えられる。

政府部門は1.3兆円の資金余剰となった。政府部門が資金余剰となるのは、現行統計で遡れる2005年以来では初めてのことだ。詳細な理由は不明だが、法人税や消費税などの税収増加が影響した一時的な動きである可能性が高い。

なお、海外部門は7.9兆円の資金不足(7-9月期は8.0兆円の資金不足)と引き続き大幅な資金不足であった。
(図表12)国債保有シェア 12月末の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1213兆円と、9月末(1224兆円)から減少した。当統計は時価評価のため、この間の国債利回り上昇(債券価格下落)が15兆円分残高の目減りに働いた。

最大保有者である日銀の国債保有高は12月末時点で561兆円と9月末から11兆円減少した。ただし、この間に金利上昇に伴う時価下落が7兆円発生しているため、時価の変動を除いたベースの保有高圧縮は4兆円に留まる。この結果、日銀の保有シェアは46.3%と9月末(46.7%)を若干下回った(図表12)。日銀の保有シェアは2023年末をピークとしてごく緩やかな低下基調にある。ただし、このうち1年超の長期国債に限った場合の日銀のシェアは52.0%(9月末は52.6%)となっており、引き続き全体の過半を日銀が保有している点は変わらない。

日銀は昨年7月末に公表した計画に基づいて、国債買入れの減額を続けていくとみられる。日銀の国債保有高が減少を続けていくなかで、他のどの投資家がどれだけ肩代わりをしていくのかが引き続き注目される。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月21日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【資金循環統計(24年10-12月期)~個人金融資産は2230兆円と前年比86兆円増加も実質では前年割れ、定期預金が純流入に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

資金循環統計(24年10-12月期)~個人金融資産は2230兆円と前年比86兆円増加も実質では前年割れ、定期預金が純流入にのレポート Topへ