2025年02月12日

貸出・マネタリー統計(25年1月)~定期預金の伸び率が14年半ぶりの高水準に、地銀の貸出が勢いを増す

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:地銀の貸出が勢いを増す

(貸出残高)                                                                  
2月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、1月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.27%と前月(同3.33%)から小幅に低下した(図表1)。伸び率の低下は3カ月ぶりだが、伸び率の水準は自体は3%台でコロナ禍前の2019年(概ね2%台)を上回る増勢が続いている。原材料価格の高止まり等に伴う運転資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが寄与する形で堅調な推移が続いていると考えられる。

業態別では、都銀等の伸びが前年比2.71%(前月は2.92%)と低下したが、地銀(第2地銀を含む)の伸びが前年比3.76%(前月は3.69%)と上昇し、全体の伸びを下支えした(図表2)。都銀等の伸びは方向感を欠いているが、地銀の伸びが8カ月連続で上昇し、増勢が強まっている。日銀の利上げが浸透しつつあり、貸出金利に上昇圧力がかかっているが、今のところ、貸出量という観点では利上げの悪影響は見受けられない。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金

2.マネタリーベース:資金供給量の減少ペースが加速

2月4日に発表された1月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲2.5%と、前月(同▲1.0%)からマイナス幅を拡大した。前年割れは5ヵ月連続で、この間、マイナス幅は拡大傾向となっている(図表5)。

そして、前年割れの主因は、従来同様、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の前年割れである。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年8月から資金供給要因である長期国債買入れの減額を開始し、減額幅を徐々に拡大していることが日銀当座預金の伸び率押し下げに働いている(図表7)。また、1月は共通担保オペ(固定金利方式)が大幅な回収超過となったことも響いた。

さらに、貨幣流通高の伸びが前年比▲1.4%(前月も▲1.4%)、日銀券発行高の伸び率が同▲0.6%(前月も▲0.6%)と現金の伸びがともにマイナス圏で低迷していることも(図表5)、マネタリーベースの前年割れに繋がっている。キャッシュレス化の進展に加え、紙幣ではインフレによるタンス預金の目減り懸念等により、一部で現金離れが進んでいるものと考えられる。

なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、既述の共通担保オペ回収の影響もあり、1月のマネタリーベースは前月比15.1兆円減と、2022年10月以来の大幅なマイナスになっている(図表8)。

今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が緩やかに進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。
(図表5)マネタリーベースと内訳(平残)/(図表6)マネタリーベース残高の伸び率/(図表7)日銀の長期国債買入額と保有残高/(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:定期預金の伸び率が14年半ぶりの高水準に

2月12日に発表された1月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比1.27%(前月は1.34%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同0.76%(前月は0.85%)と、ともにやや低下した(図表9)。M2・M3とも、伸び率の低下は2カ月ぶりであり、昨年夏以降、一進一退の動きで低迷している。貸出(による信用創造)は堅調に推移しているものの、財政赤字縮小や家計の貯蓄率低下・リスク性資産への資金シフトなどが影響しているとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月1.8%→当月1.4%)の伸びが10カ月連続で低下し、全体の伸び率を押し下げた。また、キャッシュレス化やインフレの逆風を受ける現金通貨(前月▲2.7%→当月▲2.6%)の伸びも大幅なマイナスを続け、全体の重石となっている(図表10)。

一方、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比1.3%(前月は同1.0%)と引き続き順調に上昇し、4カ月連続でプラスとなった。伸び率は2010年6月以来、約14年半ぶりの高水準にあたる。判明している昨年12月までの内訳では、一般法人(企業)の伸びが前年比13.3%(前月は13.2%)と伸びを拡大したうえ(図表11)、個人の伸びも前年比▲2.8%(前月は▲3.2%)と、依然マイナスながら、マイナス幅を縮小している。

日銀による金融政策正常化の進捗を受けて、多くの銀行が預金金利の段階的な引き上げに動いた結果(図表12)、定期預金金利の水準が上がったうえ、従来はほぼゼロであった普通預金との金利差も広がったことで、企業や一部家計において、普通預金から定期預金へ資金をシフトする動きが広がりつつあると見られる。

日銀が1月にも追加利上げを実施したことを受けて、銀行は定期預金金利のさらなる引き上げに動きつつあるため、今後とも普通預金から定期預金へのシフトが続く可能性が高い。
(図表9) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表10) 現金・預金の伸び率/(図表11)法人・個人別預金の伸び/(図表12) 店頭表示預金金利(300万円未満)
なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比3.59%(前月は3.72%)と低下した(図表9)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがやや低下したうえ、規模の大きい金銭の信託(前月14.4%→当月14.0%)や、投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月▲2.0%→当月▲2.1%)の伸び率低下が響いた。
 
 

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(2025年02月12日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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