2025年03月13日

雇用を支える外国人労働者~受入れ拡大に備え、さらなる環境整備が求められる~

経済研究部 安田 拓斗

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図表18 在留資格別労働災害発生率(2023年) 3高い労働災害発生率
技能実習および特定技能外国人は他の在留資格や日本人に比べて労働災害発生率が高い。2023年では、日本人を含む全労働者が0.24%なのに対し、技能実習が0.41%、特定技能が0.43%とおよそ2倍となっている(図表18)。原因としては、前述の実習実施者による安全基準違反のほかに、言語が異なることによる作業に伴う手順や安全衛生上の留意の理解の不足などが考えられる。

2023年4月から始まった第14次労働災害防止計画において、「外国人労働者の死傷年千人率15を2027年までに全体平均以下とする。」とアウトカム指標が定められている。アウトカム達成のためには、実習実施者への取り締まり強化や言語の違いに配慮した安全衛生教育が求められる。

政府は、母国語に翻訳された教材・視聴覚教材を用いる等外国人労働者に分かりやすい方法で労働災害防止の教育を行っている事業場の割合を2027年までに50%以上にする目標をたてている。また、外国人労働者に対し、安全衛生教育マニュアルを活用する等により安全衛生教育の実施や健康管理に取り組む。技能実習及び育成就労や特定技能外国人の受入れを拡大し、長期的に働いてもらうために、労働災害を減らしていくことは必須だろう。
 
15 1年間の労働者1,000人当たりに発生した死傷者数の割合
4受入れ企業にかかる手間とコスト
2023年の外国人雇用実態調査によると、企業が外国人を雇用する理由として「労働力不足の解消・緩和のため」が64.8%で最も多かった。次いで、「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待して」が56.8%となった(図表19)。外国人労働者に対して日本人以上の期待を寄せている企業も多い。
図表19 外国人を雇用する理由(2023年)
一方で、外国人を雇用するデメリットもある。外国人雇用実態調査では、外国人雇用の課題として、「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」が44.8%で最も多かった(図表20)。コミュニケーションについては、育成就労制度にて段階的に日本語能力を向上させる仕組みが設けられる。次いで、「在留資格申請等の事務負担が面倒・煩雑」が25.4%と2番目に多い。他にも「生活環境の整備にコストがかかる」(17.9%)、「受け入れた職場での負担が大きい」(17.1%)、「採用・定着にコストがかかる」(14.7%)など、受入れ側の負担の大きさが明らかとなった。加えて、育成就労制度への移行に伴い、外国人労働者が送出機関に支払う手数料や渡航費を企業が一部負担することとなった。日本人を雇用するよりも外国人を雇用する方が手間やコストがかかるため、中小零細企業の中には外国人労働者を雇うコストを負担できない企業も少なくないだろう。

外国人雇用の拡大のための在留資格の変更に政府は積極的に取り組んでいるが、雇用する企業への補助は手薄になっている。手続きの簡略化や明瞭化など受入れの手間や、生活環境の準備などのコストを軽減する仕組みづくりが求められる。
図表20 外国人雇用の課題(2023年)

5――まとめ

5――まとめ

日本は少子高齢化による労働力不足に直面しており、その対応として外国人労働者の受入れを拡大してきた。特に、技能実習や育成就労、特定技能に関する受入れの仕組みは継続的に改善されており、単に人手不足を補うためだけでなく、育成を通じて労働生産性を向上させる仕組みへと進化している。

しかし、長年のデフレに加え円安が進行したことで、外国人からみた日本の賃金の優位性は相対的に低下している。また、失踪者数の増加や高水準の労働災害率といった課題への対応も求められている。外国人労働者が長期的に働き続けられる環境を整備するとともに、受入れ企業の手間やコストの負担を軽減することに加え、外国人労働者を単なる労働力として扱うのではなく、同じ社会の一員として受入れることが重要である。そのためには、受入れ企業だけでなく、政府や自治体、地域社会が連携し、住環境整備や日本語教育支援などを強化する必要がある。

3月11日には、政府が育成就労制度について運用の基本方針を閣議決定し、外国人材受入れのルールが新たに示された。この基本方針に従い、外国人労働者に日本が選ばれるためのさらなる環境整備が求められる。

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(2025年03月13日「基礎研レポート」)

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安田 拓斗

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