2025年03月13日

雇用を支える外国人労働者~受入れ拡大に備え、さらなる環境整備が求められる~

経済研究部 安田 拓斗

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1――はじめに

日本では、深刻な人手不足が問題となっている。日銀短観の雇用人員D.I.(「過剰」-「不足」)では、コロナ禍で一時的に人手不足が解消されたものの、社会経済活動の再開とともに製造業・非製造業ともに人手不足が深刻化している(図表1)。

背景には少子高齢化の進展による15歳から64歳の生産年齢人口の減少がある。日本の生産年齢人口は、1995年の8,716万人(人口比69%)から2023年には7,395万人(同59%)に減少した。また、2040年には6,213万人(同55%)、2070年には4,535万人(同52%)とさらに減少する見通しである(図表2)。
図表1 雇用人員D.I./図表2 年齢別人口の推移
人手確保が急がれる中で、労働力の供給元として外国人に注目が集まり、受入れが進んできた。厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」によると、2024年10月末時点で、外国人労働者数は230万人となり、届出が義務化された2007年以降、過去最多を更新した。また、雇用者全体に占める外国人労働者の割合も、2008年の0.9%から2024年には3.8%に上昇した(図表3)。

2024年現在、日本で働く外国人労働者は、(1)特定技能を含む専門的・技術的分野で就労する人(31.2%、うち特定技能9.0%)、(2)技能実習(20.4%)、(3)資格外活動で働く人(17.3%)、(4)身分に基づき在留する人(27.3%)、(5)特定活動の対象者(3.7%)の5つに分類される(図表4)。

外国人労働者数は年々増加しており、受入れに向けた環境のさらなる整備が求められる。政府は2019年に特定技能制度を開始したほか、2027年までには技能実習制度を廃止し育成就労制度を創設するなど、外国人材の受入れ拡大に注力している。本稿では、人手不足を補うために注目が集まる在留資格の技能実習及び育成就労と特定技能について解説し、これらの在留資格を持つ外国人が日本経済に与える影響を分析する。
図表3 外国人労働者数の推移/図表4 外国人労働者数の内訳(2024年10月末)

2――労働力の貴重な供給源である技能実習と特定技能

2――労働力の貴重な供給源である技能実習と特定技能

図表5 技能実習外国人数の推移 1|技能実習制度の概要と現状
技能実習制度は、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年)に限り受入れ、OJTを通じて、日本で培われた技術やスキルの移転を図る制度で、1993年に開始された。2010年には在留資格「技能実習」が創設され、2017年に「外国人材の技能実習の適正な実務及び技能実習生の保護に関する法律(以下、技能実習法)」が施行されたことで現行の制度となった。技能実習には1号から3号があり、段階的に技能向上を目指す。

直近の状況を確認すると、技能実習外国人数は2024年10月現在、47万人となっている。新型コロナウイルスの感染拡大によって2021年、2022年は前年比で減少したが、2023年以降は2年連続で過去最高を更新した。また、雇用者に占める割合は上昇しており、2024年10月末には0.8%となった(図表5)。技能実習外国人は労働力の貴重な供給源になりつつある。
2技能実習制度の課題
技能実習制度の趣旨は技術移転による国際貢献である。これは制度が開始された1993年から一貫しており、技能実習法には基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)と記されている。しかし、実態としては技能実習外国人が日本国内の重要な労働力として受け止められている面もあり、目的と実態の乖離が課題である。
図表6 監督指導実施事業場数と違反事業場数 さらに、在留資格「技能実習」は人材育成等の観点から原則として本人の意向による転籍ができないことや、2024年6月末現在で98.3%の技能実習外国人の受入れを担う監理団体1による監理・支援が十分でない場合があることなどが、人権侵害や法違反の背景・原因になっている旨の指摘がされてきた。実際に厚生労働省が公表している実習実施者(技能実習外国人が在籍している事業場)の監督指導実施事業場数2と違反事業場数3をみると、2023年は監督指導実施事業場数が10,378件、違反事業場数が7,602件といずれも過去最多となっている(図表6)。また、実習実施者数に占める監督指導実施事業場数と違反事場業数の割合はそれぞれ10%台半ばと10%台前半で推移している(図表7)。実習実施者は1割以上が労働基準関係法令に違反しており、劣悪な労働環境下にいる技能実習外国人も少なくない。
2023年の違反事項の内訳をみると、「使用する機械等の安全基準」が23.6%、「割増賃金の支払」が16.5%、「健康診断結果についての医師等からの意見聴取」が16.2%と上位となった(図表8)。使用する機械等の安全基準を違反する実習実施者が多いことは、後述する技能実習外国人の労働災害が多い原因の一つだと考えられる。
図表7 技能実習実施者の監督指導と違反の割合/図表8 主な違反事項(2023年)
 
1 事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体
2 労働基準関係法令の違反が疑われる技能実習実施者に対して労働基準監督署等が行う
3 違反には技能実習外国人以外の労働者に関する違反も含まれる
3育成就労制度の創設
技能実習制度における課題を解決するために、新たに育成就労という在留資格が創設された。育成就労制度は現在の技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度で、2027年までに開始される。技能実習制度からの主な変更点は下記の通りである(図表9)。

在留期間の上限は3年間4で、その期間の育成を通じて、特定技能1号と同水準の技能を獲得してもらう。技能実習制度では、国際貢献の趣旨から受入れ見込数は設定されていなかったが、育成就労制度では受入れ対象分野ごとに受入見込数(上限数)5が設定される予定である。受入れ対象分野は、現行の技能実習制度の職種等を機械的に引き継ぐのではなく新たに設定し、特定産業分野(特定技能対象の16分野6)に限定している7。また、人権侵害や法違反の原因を解消するため、一定の条件下8での転籍が認められるほか、外部監査人の設置の義務化等による監理団体の適正化が図られる。

さらに日本語教育が強化される。現行の制度では、技能実習外国人は日本語試験が課されず、技能実習2号を良好に終了して特定技能1号となる際や特定技能2号となる際にも、日本語試験が課されない。一方、育成就労制度の場合、育成就労開始前に日本語能力試験N5等に合格又は相当の日本語講習の受講が必要である。さらに特定技能1号移行時には日本語能力試験N4等の合格、特定技能2号移行時には日本語能力試験N3等の合格が要件とされた。
図表9 技能実習制度と育成就労制度の主な違い
 
4 特定技能1号への移行に必要な試験等に不合格となった場合、最長1年間の在留継続が認められる
5 受入れ見込数=5年度の人手不足数―(生産性向上+国内人材確保)
6 「介護」、「ビルクリーニング」、「工業製品製造業」、「建設」、「造船・舶用工業」、「自動車整備」、「航空」、「宿泊」、「自動車運送業」、「鉄道」、「農業」、「漁業」、「飲食料品製造業」、「外食業」、「林業」、「木材産業」
7 育成就労産業分野(特定産業分野のうち就労を通じて技能を習得させることが相当なもの)に限定
8 同一の機関で就労した期間が1~2年超(分野によって異なる)かつ、技能検定・日本語能力試験等合格かつ、転籍先が適正と認められる場合

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(2025年03月13日「基礎研レポート」)

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