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保険会社の清算に向けた動きの例(2)(欧州)-NOVIS (スロバキア) の状況に応じた、EIOPAから保険契約者へのアドバイスなど

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
2023年6月1日、スロバキア国立銀行(NBS)は、保険会社NOVIS(グル-プ会社を含む)の認可を取り消し、管轄のスロバキアの裁判所に「NOVISを解散し、清算人を任命し、清算手続きを開始すること」を申し立てた。しかし現時点までに、清算人は任命されておらず、事態は進展していない。
こうした状況に対して、可能な限り保険契約者を保護するために、EIOPA(欧州保険・企業年金監督機構)は、2025年1月15日、状況説明と今後の方針についてのアドバイス2を公表した。
1 保険会社の清算にむけた動きの例(欧州)FWUルクセンブルクの清算に関するEIOPAの情報提供(2025.2.21 基礎研レター)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/81221_ext_18_0.pdf?site=nli
2 Policyholders of the insurer NOVIS may face financial losses as no liquidator has yet been appointed Questions and Answers
(EIOPA 2025.1.15)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/f55e4959-aca6-4c57-b1e2-c5aaab7d4c23_en?filename=Q%26A%20-%20NOVIS%20communication%20to%20policyholders%20-%20EIOPA.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――文書の内容
NOVISは、2014年、スロバキアにおいてNBS監督下で設立された生命保険会社である。国内市場に加えて、オーストリア、チェコ、ドイツに支店が設立されて、生命保険募集を行い、その他にフィンランド、ハンガリー、アイスランド、イタリア、リトアニア、ポーランド、スウェーデンにおいても保険に関するサービスを提供してきた。
2023年6月、NBSはNOVISの認可を取り消し、「NOVISを解散し、清算人を任命し、清算手続きを開始すること」を裁判所に申し立てた。
2023年10月、NOVISは裁判所に、「NBSの決定に合法性はない」と異議を唱えた。
現在、NOVISの解散と清算人の選定に関する手続きは一時停止されており、認可の取り消しや関連する法的手続について、裁判所の最終決定が下されていない。
NOVISは現在、EUで保険事業を行う認可を得ていない状態にある。2023年6月以降、NOVISは新規契約を締結できなくなり、保険契約者から保険料を徴収すること、請求に応じて保険金を支払うこと、負債の返済などの活動のみが可能である。またスロバキアの国内法によれば、通常時のような経営状況に関する報告義務はなく、NBSの監視・監督権限が限定されたものになってしまっている。なお、裁判中であることは認可の取り消しとは無関係である。
NOVISは、2018年以降、保険事業にあたって慎重な(プルーデント)活動を行なっておらず、ガバナンス上の深刻な問題を抱え、財務上は、責任準備金不足や資本管理の問題があった。このことが、保険契約者の利益に脅威を及ぼし、財務状況に悪影響を及ぼしていたため、NBSは多くの監督措置を講じ、いくつかの制裁を発動して、認められる重大な欠陥に対処するよう求めてきた。
しかし、これらの措置によってもNOVISの経営には長期的な改善が見込まれなかったため、保険契約者保護の観点から、NBSはNOVISの保険営業認可を取り消すという最も厳しい処分を課した。
NOVISは、認可取り消し後は限定的な監督しか受けない3ため、財務状況や保険料として入ってきた資金が適切に投資されているかどうかについての、信頼できる情報はない。
3 スロバキアの保険業法全文(英語版)へのリンクも記載されているが、量が膨大なため、具体的な条文について筆者は未確認。
管轄権は、ブラチスラヴァ市裁判所である。清算人が登録された時点から清算は開始されるが、その清算人登録には期限が定められていないので、清算に入る見通しは立っていない。
清算人の役割は、NOVISの経営を引き継ぎ保有資産を調査し、破産の必要性や、保険金請求やその他債権者の請求に応じる資産が十分かどうかを判断することである。その後に全ての保険契約者に対し、次のステップについて通知を行うことになる。
NOVISの資産価値が全ての保険金支払請求に対して充分ではない可能性があり、当初の契約通りには給付が支払われない可能性がある、ということをNOVISの保険契約者は理解すべきである。また投資型の保険商品であれば、支払った保険料よりも小さい金額あるいは当初支払われるはずだった運用収益の一部、しか受け取れない可能性があることにも注意が必要である。
全ての保険契約者に損失を被るリスクがあるものの、特に保険料が一時払いではなく(毎月払などの)通常払い込みのケースにおいては、特に不利益となる可能性がある。NOVISの契約条件の下では、保険金請求権も保持される一方で、保険料支払いについても裁判所の決定時まで義務を負う。これはいわば、「清算手続きの可能性があるような(不健全な)保険会社に、資金を投入し続ける」ということであり、そうした保険料については、全額は返金されない可能性がある。
保険契約者は、この問題について意思決定をしたり、行動を起こしたりする前に、保険契約の契約条件を確認し、外部の状況の進展を注視する必要がある。そのためには、仲介業者や弁護士、消費者協会などの専門家の助言を求めることが望ましい。
法的な手続きに進展がみられないことや、NOVISの監督が現在充分行われていないことを考慮すると、保険契約者は、「今すぐ解約するか、それともNOVISが清算されたり契約を放棄したりする時点まで契約を継続するか」を選択する必要がある。
そのためには、保険契約の解約が可能かどうか、可能な場合に解約返戻金額と手数料はいくらか、といった情報を知る必要がある。それを、契約を継続して最終的に会社が清算された場合の返戻金と比較する必要がある。
3――今後の動きについて
EIOPAにおいては、別途、保険会社の破綻処理の統一基準・方法を策定しようとしている動きも数年前から進められているが、こうした事例が今後、実効性のある制度の整備に役立つだろうか。
(2025年03月03日「基礎研レター」)
関連レポート
- 保険会社の清算にむけた動きの例(欧州)-FWU ルクセンブルクの清算に関するEIOPAの情報提供
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
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