2025年02月27日

中国経済:2024~26年の見通し-米中関係の先行きは依然不透明。3月の全人代で発表される経済政策に注目

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1.中国経済の見通し

中国の2024年10~12月期の実質GDP成長率は、前年同期比+5.4%と、前期(24年7~9月期)の同+4.6%から加速した(図表1)。2024年通年では前年比+5.0%となり、「+5.0%前後」の成長率目標は達成された。もっとも、需要項目別にみると、内需の弱含みと輸出の拡大という傾向に変化はみられない(図表2)。単月の指標をみると、外需の勢いは不安定ながらも強く、内需に関しては、主に政策効果によって小売でわずかながら持ち直しの傾向が続いている(図表3)。

今後を展望すると、前回の見通し時点(24年11月)と同様、下振れと上振れのリスクが併存するとみている。第1の下振れリスクである米国の対中追加関税に関しては、第2次トランプ政権が25年1月に発足して以降、様々な政策が矢継ぎ早に発表されている。対中追加関税の税率は、現時点では10%にとどまっているが、米中間の交渉等を踏まえて今後どのように変化するかは不透明だ。第2の下振れリスクである国内不動産不況に関しては、年末にかけて持ち直しの動きが続いており、地方政府による大手デベロッパー支援本格化の動きも出始めたが、今後の改善ペースや持続性に不安が残る状況に変わりはない。他方、上振れリスクである国内の追加経済対策に関しては、25年3月開催予定の全国人民代表大会で発表される財政政策の規模が24年からどの程度拡大するかが注目点となる。

成長率を左右する米国の対中追加関税と中国の経済対策については、その規模や進展ペースがどうなるか、現時点で依然として不確実性の高い状況が続いていることから、これらについては前回と同様の条件を前提とし、25年から26年にかけて、それぞれ+4.2%、+3.5%と予想する(図表4)。引き続き、情勢の変化に注視が必要だ。
(図表1)実質GDP成長率/(図表2)実質GDP成長率の需要項目別寄与度
(図表3)需要関連の主要指標/(図表4)中国のGDP成長率等の見通し

2.2024年の実体経済

2.2024年の実体経済

(生産・投資・外需)
生産の動向について、前年比の伸び率(実質)をみると、鉱工業部門では、2023年から24年にかけて伸びの拡大が続いた(図表5)。とくに、政策支援や堅調な輸出を背景にハイテク製造業で伸びが高まった。サービス業部門の伸びは、23年から24年にかけて低下した。業種別内訳のデータは発表されてないものの、主に不動産業と小売業が押し下げたと考えられる。

鉱工業部門について、設備稼働率の推移をみると、23年中に改善が続いたが、24年1~3月期には低下した。季節要因も考慮する必要はあるものの、かつて鉄鋼等の過剰生産能力が深刻化した2010年代半ばに近い水準まで低下した(図表6)。もっとも、その後は再び改善した。外需の加速などを受け、需給ギャップは、秋口以降改善が続いているとみられる。

もっとも、PMI調査の結果に関しては、製造業は年を通じて好不況の境目である50前後で推移し、サービス業は50を下回る傾向が続くなど、景況感は振るわない状況であった。需要不足と回答する企業の割合も、23年夏場以降、概ね60%超の状態が続いている。
(図表5)生産/(図表6)設備稼働率
投資の動向について、固定資産投資の前年比伸び率(名目、以下同)は、23年から24年にかけて概ね横ばいで推移した(図表7)。業種別にみると、二極化の状況が続いている。製造業の投資が、政府による設備更新支援の効果により伸びを高めた。設備投資は、23年の前年比+6.6%から24年には15.7%と大きく改善した。また、インフラ投資も財政出動の強化により高水準の伸びを続けた。他方、不動産開発投資は、不動産不況の影響によって22年以降3年連続で前年比減となった。

外需の動向について、輸出(ドル建て)の伸びは、24年に加速した(図表8)。シリコンサイクルの改善や過剰生産能力を背景とする低価格での輸出攻勢のほか、米中摩擦の本格化を前にした駆け込み輸出などが要因と考えられる。国・地域別では、ASEAN向け、日・米・EU向けともに23年から改善した。財別では、主に船舶や集積回路、自動車が高い伸びとなった。輸入(ドル建て)の伸びも、24年に改善したものの、前年比+1.1%にとどまった。貿易収支は、9,922億ドルと過去最高を記録した。
(図表7)固定資産投資(業種別)/(図表8)財輸出入(ドル建て)
(消費・家計)
消費の動向について、小売売上高の伸びをみると、24年は23年から減速し、コロナ禍の期間(20~22年)を除き、過去最も低い伸びとなった(図表9)。

一定規模以上企業を対象にした統計で品目別の動向をみると、選択的支出のうち、化粧品、宝飾品では、24年に前年比減となったほか、衣類等でも伸びが低下した(図表10)。他方、特に年後半に入りテコ入れされた買い替え支援の対象である家電・AV機器は、伸びが顕著に高まった。自動車も買い替えの対象となったが、23年から伸びは低下した。台数の伸びは前年から低下し、過剰生産能力を背景に価格も低下した。不動産関連の財である建築・内装材については、減少幅は縮小したものの、22年以降、3年連続で前年比減となった。
(図表9)社会消費品小売総額/(図表10)社会消費品小売総額(一定規模以上企業、財別)
家計の状況について、都市部の調査失業率は、24年中、概ね5%で推移し、23年から顕著な変化はみられなかったが、16~24歳(在学中の学生を除く)の失業率は、従来同様、卒業シーズンを迎えた7月に高まった後、全体に比べて高水準で推移した。消費性向は、23年から24年にかけて、ほぼ横ばいで推移し、消費マインドは改善しなかった(図表11)。消費者信頼感指数は、22年以降、一時期を除き雇用・所得の先行き、消費意欲ともに、楽観・悲観の境目である100を下回る水準で推移しており、とくに雇用の先行きは24年に前年から悪化した(図表12)。
(図表11)消費性向/(図表12)消費者信頼感指数

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年02月27日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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