2025年03月05日

2025年度税制改正(主に年金とその周辺)について

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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本稿では、毎年この時期、税制改正大綱をもとに年金制度とその周辺の税制の動きについて、紹介している。来年度に想定される税収は、税制改正が承認されることが前提となるため、予算の重要な要素の一つである。
 
最初に2025年度予算1の概要を簡単にみておく。2025年度予算総額は、115兆5,415億円と対前年度+2兆9,698億円増加と、過去最大の規模となっている。主要項目としては、社会保障関係費38兆2,778億円(+5,585億円 1.5%増加)、防衛費8兆6,691億円(+7,519億円 +9.5%増加)。また長期金利が上昇傾向にあることから、国債費が増加し28兆2,179億円(+1兆2,089億円 +4.4%)となっている。これは、国債の発行残高が増加することに加え、利払い費の想定金利を1.9%から2.0%に引き上げたことが要因である。
 
税制改正のほうでは、今回は政治の動きも相まって、いわゆる「103万円の壁」の引き上げが注目されている。以下では、与党の税制改正大綱の中で、年金あるいはその周辺に関わる主な関係個所を引用することで、紹介する。
 

(以下引用)
「第一 令和7年度税制改正の基本的考え方
3.経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し
(1)個人所得課税のあり方 
①私的年金等に関する公平な税制のあり方
働き方やライフコースが多様化する中で、税制が老後の生活や資産形成を左右しない仕組みとしていくことが、豊かな老後生活に向けた安定的な資産形成の助けとなると考えられる。
こうした考えの下、勤務先の企業が企業年金を設けているかどうか、企業年金の形態がどうであるかといった違いにかかわらず、継続的に、かつ、平等に資産形成をできる環境の整備を進めるため、iDeCoの拠出限度額について、「穴埋め型」による引上げを行う。
さらに、豊かな老後生活に向けて、公的年金を補完し、老後に向けた資産形成を支援するという私的年金の役割を踏まえ、賃金上昇の状況を勘案し、確定拠出年金の拠出限度額について7,000円の引上げを行う。また公的年金による保障が相対的に限定的な個人事業主のiDeCo等の拠出限度額についても、同様の引上げを行う。確定拠出年金については、加入率が3分の1以下にとどまる、拠出限度額の近くまで拠出している者の割合が低い、高所得者ほど利用者が多く拠出額も多いといった実態もある。今後、こうした実態を踏まえ、拠出限度額の考え方について、各国の制度も参照しながら、次期年金制度改革までに検討し、結論を得る。
包括的所得課税の下では、拠出時に所得控除の対象とされる、私的年金を含む年金については、給付時において相応の課税がなされることが原則と考えられる。しかしながら、現行の年金課税や退職所得課税の下では、私的年金の給付時課税が限定的となっており、給付時課税のあり方を検討する必要がある。
また、退職金や私的年金等の給付に係る課税について、給付が一時金払いか年金払いかによって税制上の取扱いが異なり、給付のあり方に中立的ではないといった指摘がある。
退職所得課税については、勤続年数が20年を超えると1年あたりの退職所得控除額が増加する仕組みが転職の増加等の働き方の多様化に対応していないといった指摘もある。
退職金や私的年金等のあり方は、個人の生活設計にも密接に関係すること等を十分に踏まえながら、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直しが求められる。例えば、各種私的年金の共通の非課税拠出枠や従業員それぞれに私的年金等を管理する個人退職年金勘定を設けるといった議論も参考にしながら、あるべき方向性や全体像の共有を深め、具体的な案の検討を進めていく。
(与党の令和7年度税制改正大綱 p.10 11より抜粋)

第三 検討事項
1 年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意するとともに、平成30年度税制改正の公的年金等控除の見直しの考え方や年金制度改革の方向性、諸外国の例も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。
2 デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、総合的に検討する。
(同 p.106より抜粋)」 (引用おわり)


今回は、例えば以下のように、企業年金に関わる具体的な改正点も明記されている。

(企業型確定拠出年金)
・マッチング拠出の、加入者掛金が事業主掛金を超えることができない、とする要件の廃止
・拠出限度額の引き上げ(5.5万円から6.2万円に)

(iDeCo)
・加入可能な年齢の引き上げ(60歳以上70歳未満の加入者範囲の一部拡大)
・拠出限度額の引き上げ
 国民年金第1号被保険者は、6.8万円→7.5万円 第2号被保険者は6.2万円に、など。

(国民年金基金)
・拠出限度額の引き上げ(6.8万円から7.5万円に)
 
毎年、「検討事項」の最初の項目として掲げられていることをみても、年金課税は、引き続き今後の税制改正の大きな柱である。
 
 
1 国会審議の状況と本稿の出る時期によっては、(案)の段階かもしれないが、そのことは以下省略。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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