2024年03月05日

2024年度税制改正(主に年金とその周辺)について

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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本稿では、毎年この時期、税制改正大綱をもとに年金制度とその周辺の税制の動きについて、紹介している。税制は予算の一部あるいは前提といえるものなので、最初に2024年度予算1の概要を簡単にみておく。2024年度予算については、112兆5,717億円と対前年度▲1兆8,095億円減少となっている(令和6年能登半島地震への対応としての予備費追加分 5,000億円を含む)。過去最大だった昨年を下回ってはいるが、当初予算としては過去2番目の規模である。主要項目としては、社会保障関係費37兆7,193兆円(+8,506億円 2.3%増加)、防衛費7兆9,172億円(▲2兆2,514億円▲22.1% 昨年度にあった防衛力強化資金3.3兆円は計上せず。それを含まないベースでは、+11,292億円 +16.6%増)。また長期金利が上昇傾向にあることから、国債費が27兆90億円と+7.0%、+1兆7,587億円増加する。これは想定金利を1.1%から1.9%にひきあげたことによるものである。
 
税制改正のほうでは、今回は賃上げ促進税制が最優先課題として取り上げられ、さらには「次元の異なる少子化対策」といったことの関連事項が重要視されている。以下、与党の税制改正大綱の中で、年金あるいはその周辺に関わる主な関係個所を引用して紹介する。
 
(以下引用)
第一 令和6年度税制改正の基本的考え方
3.経済社会の構造変化を踏まえた公平で中立的な税制の見直し
(2)今後の個人所得課税のあり方 
①私的年金等に関する公平な税のあり方
働き方やライフコースが多様化する中で、雇用の流動性や経済成長との整合性なども踏まえ、税制が老後の生活や資産形成を左右しない仕組みとしていくことが、豊かな老後生活に向けた安定的な資産形成の助けとなると考えられる。
例えば、退職金や私的年金の給付に係る課税について、給付が一時金払いか年金払いかによって税制上の取扱いが異なり、給付のあり方に中立的ではないといった指摘がある。
また多様で柔軟な働き方が一層拡大する中、働き方に中立的な税制を構築していくことが重要であるが、退職所得課税については、勤続年数が20年を超えると一年あたりの控除額が増加する仕組みが転職などの増加に対応していないといった指摘もある。
こうした観点から、令和3年度税制改正大綱では、私的年金等の拠出・給付段階の課税について、諸外国の例も参考に給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスも踏まえた姿とする必要性について指摘した。
私的年金や退職給付のあり方は、個人の生活設計にも密接に関係することなどを十分に踏まえながら、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直しが求められる。個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入年齢の70歳への引き上げや拠出限度額の引き上げについて、令和6年の公的年金の財政検証にあわせて、所要の法制上の措置を講ずることや結論を得るとされていることも踏まえつつ、老後に係る税制について、例えば各種私的年金の共通の非課税拠出枠や従業員それぞれに私的年金等を管理する個人退職年金勘定を設けるといった議論も参考にしながら、あるべき方向性や全体像の共有を深めながら、具体的な案の検討を進めていく。         (与党の令和6年度税制改正大綱 p.13 14)
 
第二 令和6年度税制改正の具体的内容(企業年金、退職所得については記載なし。昨年度はここに特別法人税の課税停止適用措置の期限の3年延長があった。)
 
第三 検討事項
1 年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意するとともに、平成30年度税制改正の公的年金等控除の見直しの考え方や年金制度改革の方向性、諸外国の例も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。
2 デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、早期に検討する。                    
(同 p.119)」(引用おわり)
 
年金に関わる事項はほぼ昨年と同様の記載内容であり、「検討事項」にいつも真っ先に掲げられていることをみても、引き続き今後の税制改正の大きな柱である。年金周辺分野にまで目を拡げて見ても、今回大きな改正はないのだが、昨年度決定されたNISAの拡充・恒久化等が、今年から実施されたところであり、銀行・証券の分野でその積極的な普及活動が行われている。
 
さらに年金分野からは離れる事項になるが、生命保険料控除の一部拡充の方向が示された。これは生命保険業界が毎年要望しているもので、所得控除として相当広い範囲に影響がある制度ではあるが、今回は少子化対策の一環として、「子育て世帯に対する遺族保障」についてのみ所得控除枠が拡大される方向などが示された。
 
昨年度は「資産所得倍増」の方針の中でNISAが拡充されたように、そのときどきの重要政策に関連した税制の変更は受け入れられやすい。年金課税はもともと検討事項のトップにある課題であるので、その時点の政権の注力事項に絡めた税制改正要望事項は、さらに認められやすくなるかもしれない。
 

1 国会審議の状況と本稿の出る時期によっては、(案)の段階かもしれないが、そのことは以下省略。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年03月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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