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- 「財源がない」は本当か-「103万円の壁」引き上げを巡って
2025年01月09日
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1―「103万円の壁」引き上げを巡る財源問題
歳出の増加や歳入の減少を伴う新たな政策が打ち出されようとすると、必ずといっていいほど出てくるのが財源の裏付けがないという批判だ。最近では、防衛費増額や少子化対策の財源を捻出するため、増税や歳出削減が議論されてきた。現在は「103万円の壁」引き上げに際して財源の確保が大きな問題とされている。
2―もとから財源はない
そもそも「財源」とは何だろうか。一般会計の歳入を2024年度当初予算で確認すると、租税及び印紙収入(所得税、法人税、消費税等)が61.8%(69.6兆円)、公債金(国債発行)が31.5%(35.5兆円)、その他収入が6.7%(7.5兆円)となっている。これらは全て財源としてもよさそうなものだが、歳出増や歳入減を伴う政策に対して財源の裏付けがないとする人達は、新たに発行する国債は財源にはならないと考えているようだ。
しかし、そうだとすれば、日本は1965年以降、約60年にわたり財源とはいえない国債を毎年発行し続けていることになる。つまり、新たな政策に対する財源を捻出する以前に、既存の支出に対する財源がもとからないのだ。財源の裏付けがない支出はできないというのであれば、一般会計のうち毎年数十兆円規模の歳出を削減しなければならない。
政府の歳出は基本的には歳入に紐づけられていない。政府はしばしば「消費税は社会保障の重要な財源」と説明するが、お金に色があるわけではないので、消費税で集めたお金とそれ以外を区別ができるわけではない。確かに、社会保障・税一体改革により、消費税収は、全て社会保障財源に充てることとされている。しかし、消費税は目的税ではなくあくまでも一般財源である。
家計が収入に見合った借金しかできないことを引き合いに出して、政府もできるだけ借金をせずに収入(税収)に応じた支出に抑えるべきだという意見もあるが、家計の借金と政府の借金は大きく異なる。政府は必要に応じて国債発行により資金調達ができるのに対し、家計は貸し手の審査を通らなければ借金ができない。また、家計は死ぬまでに借金を返済しなければいけないが、政府は半永久的に続くため返済期限がない。国債には期限があるが、償還を迎えたら借換債、あるいは新たに国債を発行することができる。もちろん、野放図な歳出の拡大、国債発行は慎むべきだが、国の重要な政策を実行するための国債発行をためらうべきではない。
新たな政策を導入するかどうかは、あくまでもその政策によって経済が成長するか、国民生活が豊かになるかといった判断基準で決めるべきである。その上で新しい政策に比べて優先度の低い支出の削減や国債の発行によって財源を確保すればよい。
しかし、そうだとすれば、日本は1965年以降、約60年にわたり財源とはいえない国債を毎年発行し続けていることになる。つまり、新たな政策に対する財源を捻出する以前に、既存の支出に対する財源がもとからないのだ。財源の裏付けがない支出はできないというのであれば、一般会計のうち毎年数十兆円規模の歳出を削減しなければならない。
政府の歳出は基本的には歳入に紐づけられていない。政府はしばしば「消費税は社会保障の重要な財源」と説明するが、お金に色があるわけではないので、消費税で集めたお金とそれ以外を区別ができるわけではない。確かに、社会保障・税一体改革により、消費税収は、全て社会保障財源に充てることとされている。しかし、消費税は目的税ではなくあくまでも一般財源である。
家計が収入に見合った借金しかできないことを引き合いに出して、政府もできるだけ借金をせずに収入(税収)に応じた支出に抑えるべきだという意見もあるが、家計の借金と政府の借金は大きく異なる。政府は必要に応じて国債発行により資金調達ができるのに対し、家計は貸し手の審査を通らなければ借金ができない。また、家計は死ぬまでに借金を返済しなければいけないが、政府は半永久的に続くため返済期限がない。国債には期限があるが、償還を迎えたら借換債、あるいは新たに国債を発行することができる。もちろん、野放図な歳出の拡大、国債発行は慎むべきだが、国の重要な政策を実行するための国債発行をためらうべきではない。
新たな政策を導入するかどうかは、あくまでもその政策によって経済が成長するか、国民生活が豊かになるかといった判断基準で決めるべきである。その上で新しい政策に比べて優先度の低い支出の削減や国債の発行によって財源を確保すればよい。
3―恒常的な所得増による消費押し上げ効果は大きい
政府は、基礎控除、給与所得控除の合計を現在の103万円から178万円に引き上げた場合、7.6兆円の減収になると試算している。言うまでもなく、政府の減収は家計にとっては減税であり、可処分所得の増加をもたらす。可処分所得の増加は家計消費の増加、企業の売上、収益の増加を通じて税収の増加にもつながる。政府の試算は減税のプラス効果が考慮されておらず、減収幅が過大である可能性がある。
控除を引き上げて所得を増やしたとしても、その大部分は貯蓄に回ってしまうという反論もあるだろう。確かに、コロナ禍で実施された定額給付金や所得税・住民税減税のような一時的な所得の場合、消費にまわる割合は低い。過去の事例から限界消費性向(所得増に対する消費増の割合)を計算すると、2~3割程度という結果が多い。
しかし、控除の引き上げによって増えた可処分所得は恒常的なものと考えられる。恒常的な可処分所得が消費に回る割合を表す平均消費性向は100%に近い。長い目でみれば控除引き上げに伴う減税分と同額の消費底上げも期待できるだろう。
筆者は、日本経済の一番の問題は個人消費の長期低迷で、その主因は可処分所得の伸び悩みであると考えてきた。国民民主党が掲げる「手取り」を増やす政策は、可処分所得を増やす政策と同義であり、消費が長期低迷から脱するきっかけとなる可能性がある。
2025年度税制改正で「103万円の壁」は引き上げられることとなったが、日本経済活性化のためには今後も様々な策を講じる必要がある。その際に、財源がないことを理由に重要な政策の実施を見送ることがあってはならない。
控除を引き上げて所得を増やしたとしても、その大部分は貯蓄に回ってしまうという反論もあるだろう。確かに、コロナ禍で実施された定額給付金や所得税・住民税減税のような一時的な所得の場合、消費にまわる割合は低い。過去の事例から限界消費性向(所得増に対する消費増の割合)を計算すると、2~3割程度という結果が多い。
しかし、控除の引き上げによって増えた可処分所得は恒常的なものと考えられる。恒常的な可処分所得が消費に回る割合を表す平均消費性向は100%に近い。長い目でみれば控除引き上げに伴う減税分と同額の消費底上げも期待できるだろう。
筆者は、日本経済の一番の問題は個人消費の長期低迷で、その主因は可処分所得の伸び悩みであると考えてきた。国民民主党が掲げる「手取り」を増やす政策は、可処分所得を増やす政策と同義であり、消費が長期低迷から脱するきっかけとなる可能性がある。
2025年度税制改正で「103万円の壁」は引き上げられることとなったが、日本経済活性化のためには今後も様々な策を講じる必要がある。その際に、財源がないことを理由に重要な政策の実施を見送ることがあってはならない。
(2025年01月09日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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