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2025年03月05日
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2023年12月に策定された「資産運用立国実現プラン」では、各アセットオーナーが運用目的や目標を達成し、受益者等に適切な運用成果をもたらす等の責任を果たす観点から、「アセットオーナーの運用・ガバナンス・リスク管理に係る共通の原則」(アセットオーナー・プリンシプル)を策定することが示された。2024年3月には「アセットオーナー・プリンシプルに関する作業部会」が設置され、同年3月から計4回にわたって議論が行われた。これらの議論をふまえ、2024年8月に内閣官房において「アセットオーナー・プリンシプル」が策定された。「アセットオーナー・プリンシプル」では、(1)運用目的に合った運用目標及び運用方針、(2)専門的知見に基づく行動・必要な人材確保などの体制整備等、(3)受益者等の利益の観点から運用方法の選択・適切なリスク管理と利益相反管理、(4)ステークホルダーへの説明責任・運用状況についての情報提供等、(5)スチュワードシップ活動、といった5つの原則が定められるとともに、各原則には複数の補充原則が設けられている。
こうした背景には、「成長と分配の好循環」を実現するために、家計の資金が成長投資へと向かい、企業価値の向上による利益が家計に還元されることで、さらなる投資や消費が促進される資金の好循環を形成することが不可欠であるとの認識がある。そして、このような好循環を生み出すには、アセットオーナーをはじめとするインベストメントチェーンを構成する各主体が、資金の流れの創出に向けてそれぞれの機能を十分に果たす必要がある1。
特に、アセットオーナーは、インベストメントチェーンにおいて、金融資本市場を通じて企業や経済の成長の果実を受益者に還元する重要な役割を担っており、受益者の最善の利益を追求するために、運用目的や財政状況に基づいた明確な目標を設定し、その目標達成に向けて投資先企業や委託先金融機関の選定を厳格に行うことが求められる。このプロセスを通じて、受益者に利益をもたらすだけでなく、投資先企業の中長期的な成長や企業価値向上、委託先金融機関の健全な競争と運用力向上も促進されることが期待される。
アセットオーナーの範囲は、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンド、さらには資産運用を行う学校法人など多岐にわたる。これらのアセットオーナーは規模や運用資金の性格も様々であるが、いずれの主体も受益者の最善の利益を追求する備えが求められる。もちろん、アセットオーナーの多様性と課題の違いを考慮し、「アセットオーナー・プリンシプル」では、詳細な行動規範を示す「ルールベース・アプローチ」ではなく、各アセットオーナーが状況に応じた柔軟な対応を可能とする「プリンシプルベース・アプローチ」が採用されている。そして、法的拘束力は持たず、各アセットオーナーが内容を十分に検討した上で、自らの判断で受け入れるかを決定することが期待されている。また、透明性確保の観点から、政府(内閣官房)は、「アセットオーナー・プリンシプル」の受け入れ表明を行ったアセットオーナーの一覧を公表している。以下の表は、最新(2024年12月末時点)の「アセットオーナー・プリンシプル」の受け入れ状況を示している。
こうした背景には、「成長と分配の好循環」を実現するために、家計の資金が成長投資へと向かい、企業価値の向上による利益が家計に還元されることで、さらなる投資や消費が促進される資金の好循環を形成することが不可欠であるとの認識がある。そして、このような好循環を生み出すには、アセットオーナーをはじめとするインベストメントチェーンを構成する各主体が、資金の流れの創出に向けてそれぞれの機能を十分に果たす必要がある1。
特に、アセットオーナーは、インベストメントチェーンにおいて、金融資本市場を通じて企業や経済の成長の果実を受益者に還元する重要な役割を担っており、受益者の最善の利益を追求するために、運用目的や財政状況に基づいた明確な目標を設定し、その目標達成に向けて投資先企業や委託先金融機関の選定を厳格に行うことが求められる。このプロセスを通じて、受益者に利益をもたらすだけでなく、投資先企業の中長期的な成長や企業価値向上、委託先金融機関の健全な競争と運用力向上も促進されることが期待される。
アセットオーナーの範囲は、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンド、さらには資産運用を行う学校法人など多岐にわたる。これらのアセットオーナーは規模や運用資金の性格も様々であるが、いずれの主体も受益者の最善の利益を追求する備えが求められる。もちろん、アセットオーナーの多様性と課題の違いを考慮し、「アセットオーナー・プリンシプル」では、詳細な行動規範を示す「ルールベース・アプローチ」ではなく、各アセットオーナーが状況に応じた柔軟な対応を可能とする「プリンシプルベース・アプローチ」が採用されている。そして、法的拘束力は持たず、各アセットオーナーが内容を十分に検討した上で、自らの判断で受け入れるかを決定することが期待されている。また、透明性確保の観点から、政府(内閣官房)は、「アセットオーナー・プリンシプル」の受け入れ表明を行ったアセットオーナーの一覧を公表している。以下の表は、最新(2024年12月末時点)の「アセットオーナー・プリンシプル」の受け入れ状況を示している。
企業の従業員や退職者の生活基盤を支える役割を担う存在である企業年金もまた、アセットオーナーである。したがって、その運用方針は、受益者の利益を最優先に考え、長期的な視点から安定した資産運用を行う必要がある。ただし、企業年金の場合、事業主たる母体企業との関係が複雑に絡み合うため、その点において留意すべき点がある。例えば、年金資産運用において、母体企業の利益と受益者の利益が相反するような場合には、適切なガバナンス体制を構築し、利益相反を回避することが求められる。また、年金資産運用に関する専門的な知識や経験を有する人材が不足している企業年金も多くある。そこで、母体企業は、上述の利害相反に留意しつつも、アセットオーナーとしての企業年金の専門性の向上をサポートすることが求められる。
「アセットオーナー・プリンシプル」は、受益者の利益を最大化し、持続可能な運用を実現するという点において、企業年金とその母体企業にとって極めて重要である。母体企業には、その企業年金政策として、利益相反の回避、ガバナンスの強化、リスク管理の徹底に配慮しつつ、長期的な視点から資産運用に取り組む必要がある。これにより、アセットオーナーとしての企業年金の役割向上に加え、企業年金制度自体の信頼性と持続可能性を確保し、受益者の将来の生活を支えるインフラとして貢献することが期待される。
1 アセットオーナーのほか、家計、金融商品の販売会社(銀行や証券会社など)、企業、資産運用業者もまた、インベストメントチェーンを構成する主体である。
「アセットオーナー・プリンシプル」は、受益者の利益を最大化し、持続可能な運用を実現するという点において、企業年金とその母体企業にとって極めて重要である。母体企業には、その企業年金政策として、利益相反の回避、ガバナンスの強化、リスク管理の徹底に配慮しつつ、長期的な視点から資産運用に取り組む必要がある。これにより、アセットオーナーとしての企業年金の役割向上に加え、企業年金制度自体の信頼性と持続可能性を確保し、受益者の将来の生活を支えるインフラとして貢献することが期待される。
1 アセットオーナーのほか、家計、金融商品の販売会社(銀行や証券会社など)、企業、資産運用業者もまた、インベストメントチェーンを構成する主体である。
(2025年03月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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柳瀬 典由
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/03/05 | 「アセットオーナー・プリンシプル」と企業年金 | 柳瀬 典由 | ニッセイ年金ストラテジー |
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