2025年02月20日

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3.物流施設の利用状況

(1)物流施設利用の現状
本章では、エリア6別にみた物流施設利用の現状と今後の利用方針について概観する。

「物流施設の現在の利用状況」について荷主企業に質問したところ、利用施設がある7との回答は「福岡・佐賀エリア」(48%)が最も多く、次いで「愛知エリア」(46%)、「北海道・東北地方」(44%)の順に多かった(図表-5)。

物流企業では、「関西圏湾岸エリア」(58%)が最も多く、次いで「愛知エリア」(51%)、「関西圏内陸エリア」(49%)の順に多かった。

また、荷主企業では、利用面積が「10,000m2以上」との回答割合が10%を超えたエリアはなかった。一方、物流企業では、「九州・沖縄地方(福岡・佐賀エリアを除く)」を除く「13」エリアで、回答割合が10%を超えた。

物流企業は、配送効率向上等のスケールメリット獲得を目的とし、数多くの貨物を扱う。また、インターネット通販市場の拡大等を背景に、多頻度かつ迅速な入出荷対応等を求められており、1フロアあたりの面積の広さと、多数のトラックバースを備えた施設の利用ニーズが強い。こうした背景から、物流企業では、大規模物流施設の利用が特に進んでいると考えられる。
図表-5  物流施設利用の現在の利用状況
 
6 エリア区分の定義は、P12-13「エリア区分の定義」を参照されたい。
7 「物流施設の現在の利用(面積)」について、利用面積が「5,000m2未満」、「5,000m2以上10,000m2未満」、「10,000m2以上」との回答の合計
(2)物流施設利用の今後の予定
「物流施設利用(面積)の今後の予定(3年後)」について荷主企業に質問したところ、いずれのエリアも「現状維持」との回答が最も多かった(図表-6)。各エリアの物流施設の拡張意欲を把握すべく,「物流利用面積DI8」を作成した(図表-7)。物流利用面積DIをみると、「圏央道エリア」(11%)が最も大きく、次いで、「16号線沿線エリア」(7%)と「関西圏内陸エリア」(7%)が多かった。首都圏および関西圏のこれらのエリアでは、荷主企業の施設拡張意欲が高いと考えられる。

物流企業でも同様に、いずれのエリアも「現状維持」との回答が最も多かった(図表-6)。物流利用面積DIをみると、「愛知エリア」(25%)が最も大きく、次いで、「福岡・佐賀エリア」(23%)が多かった。10%を超えたエリアは「10」に上った(図表-7)。物流企業は、首都圏や関西圏以外の地域でも、施設拡張意欲が高いことがうかがえる。
図表-6  物流施設利用(面積)の今後の予定(3年後)
図表-7 「物流施設利用DI」
図表-8に「新規供給率9」を縦軸、「物流施設利用DI10」を横軸にした散布図を示した。多くのエリアで、「新規供給率」と「物流施設利用DI」は近い水準であった。デベロッパーは、テナント企業のニーズを踏まえたうえで物流施設を開発しているといえよう。

このうち、「圏央道エリア」は、「物流施設利用DI」が15%と高位であるのに対して、「新規供給率」は8%となっている。「圏央道エリア」の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年第4四半期、CBRE調査)は現在14.8%と高水準だが、今後は拡張ニーズ等に支えられて、需給バランスが改善に向かう可能性がある。

また、「関西内陸エリア」は、「物流施設利用DI」が13%と高位であるものの、「新規供給率」は23%と主要エリアの中で最も高い。今後、需給環境が緩和する可能性もあり、注視が必要であろう。
図表-8 新規供給率と物流施設利用DIの関係 
 
8 「物流利用面積DI」の算出式;「増加」-「減少」[単位は回答割合(%)]
値が大きいエリアほど、物流施設の拡張意欲が強いと判断される。
9 「新規供給率」の算出式;(「2025年から2027年に供給予定の物流施設面積」÷「2024年の物流施設総ストック面積」)÷3
10 荷主企業と物流企業の平均値
(3)利用面積を見直す理由
「利用面積を見直す理由11」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに「取引物流量増減への対応」(荷主企業67%・物流企業64%)が最も多く、次いで「物流の効率化(共同配送など)」(荷主企業59%・物流企業36%)が多かった(図表-9)。本調査の「物流2024年問題への対策(物流業務)」に関する質問で、「共同配送による積載率の向上」との回答は上位にあがっており(荷主企業48%・物流企業41%)、共同配送等の物流効率化の取り組みとともに、物流施設利用を見直す企業が多いことがうかがえる。

「保管拠点の分散配置の必要性」との回答も上位にあがった(荷主企業23%・物流企業11%)。東日本大震災等の自然災害時に物流の停滞が発生した経験から、「止まらない物流」への取り組みを行う企業は多い12。本調査の「物流業務における課題」に関する質問でも、「物流に関連したBCP(事業継続計画)の作成」との回答は多く(荷主企業30%・物流企業21%)、BCP対応の一環として物流施設利用の見直しが進んでいるようだ。

また、「保管コストの削減(荷主企業23%・物流企業14%)」や「施設の老朽化(荷主企業18%・物流企業25%)」との回答も多くあがった。
図表-9 利用面積を見直す理由
 
11 いずれかのエリアで、3年後に利用面積を増やす(減らす)予定と回答した企業が対象。
12 東洋経済ONLINE「大震災受け物流分散化に動く流通企業、調達力を求め業界再編の加速も」(2011年6月2日)

(2025年02月20日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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