2025年02月20日

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1.はじめに

昨今、企業の「物流戦略」は重要な経営課題のひとつに位置づけられている状況を踏まえ、弊社は、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した1

前2回のレポート2では、本調査結果の一部を紹介し、企業の物流戦略の現状と課題について概観した。

本レポートでは、前回に続いて、本調査結果の一部を紹介し、物流施設の所有形態や、エリア別にみた物流施設の利用状況、物流施設に求める立地条件等を概観したうえで、物流施設利用の現状と方向性等について考察する。
 
1 アンケート送付数;日本国内の主要荷主企業および物流企業 4,486社 [荷主企業3,513社・物流企業973社]
・回答数;234社(回収率:5%)
・調査時期;2024年7月~9月  ・調査方法:郵送・E-mailによる調査票の送付・回収
「ニッセイ基礎研究所と三菱地所リアルエステートサービスによる物流に関する共同アンケート調査
「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーの確保が喫緊の課題。
~物流施設の選択では、BCP対応や従業員の健康配慮等を重視。地方都市で拡張意欲が高い~
2 吉田資『アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(1)~「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーおよび倉庫内作業人員の確保が課題に~』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024 年12月19日
吉田資『アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(2)~商慣行見直しやドライバー負荷軽減、共同配送、標準化、物流DXを推進する長期ビジョン・中期計画策定の社会的要請高まる』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2025 年1月15日

2.物流施設の所有形態

2.物流施設の所有形態

これまで、物流施設の所有形態について、各企業が自社で保有し自社で使用する形態が主流であった。しかし、国土交通省の資料によれば、「減損会計の適用や、キャッシュフローを意識した経営等を求められるようになり、企業は資産圧縮を進め、物流施設については、自社保有から賃貸への流れが加速している3」との指摘がある。また、近年、大手デベロッパー等による大規模な賃貸物流施設の開発が活発であり、施設所有の選択肢の幅が広がっている。そこで、本章では、物流施設の所有形態について概観する。

本調査において、現状、賃貸施設を利用している4との回答は、荷主企業では82%、物流企業では87%となった。また、3年後までに利用予定があるとの回答は、荷主企業では84%、物流企業では89%となった。このうち、「100%(全て賃貸施設を利用)」との回答は、荷主企業、物流企業ともに約2割を占めた(図表-1)。荷主企業、物流企業ともに賃貸施設の利用が広く定着していることがうかがえる。

一方、「0%(全て自社保有施設を利用)」との回答は、荷主企業では2割弱(現状18%・3年後16%)、物流企業では約1割(現状13%・3年後11%)を占めた。CBREのレポート5によれば、自社施設のメリットとして「長期で考えると賃貸よりトータルの支出が少ない」や「賃料の値上げ交渉がない」、「建物使用上の制約がない」等の理由が挙げられている。一定数の企業は、上記のメリットなどを比較検討したうえで、物流施設を自社で保有する方針を採用しているものと考えられる。
図表-1 物流施設利用面積に占める賃貸施設の割合
次に、賃貸施設の割合について、現状と3年後を比較すると(図表-2)、荷主企業、物流企業ともに、増やすとの回答(荷主企業17%・物流企業13%)が、減らすとの回答(荷主企業7%・物流企業9%)を上回った。今後も、賃貸施設の利用は緩やかに増加すると見込まれる。
図表-2 賃貸施設の割合(現状と3年後の比較)
賃貸施設の割合を増やす企業にその理由を質問したところ、「貨物量変動への対応」(51%)が最も多く、「移転自由度の確保」(32%)、「建設コストが高い」(32%)、「希望するエリアで用地取得が困難」(25%)、「自社保有倉庫(物流施設)の老朽化」(24%)との回答が上位であった(図表-3)。

「貨物量変動への対応」と「移転自由度の確保」との回答が上位に挙がっていることから、賃貸施設の利用において、ビジネス環境の変化に対して柔軟に対応できる点を高く評価しているようだ。
図表-3 賃貸施設の割合を増やす理由(上位5項目)
また、「建設コストが高い」と「希望するエリアで用地取得が困難」との回答も多かった。建設物価調査会「建築費指数」によれば、「倉庫(東京)」の建築費は、2021年以降、大きく上昇しており、2024年10月には「135.0」(対2020年末比+30%)に達した(図表-4)。加えて、国土交通省「令和6年地価公示」では、「eコマース市場の拡大を背景に、大型物流施設用地等に対する需要が旺盛」と指摘している。建設コストの高騰や物流施設適地の減少等により、自社で物流施設を新設することが困難で、賃貸施設利用を選択する企業が増えているものと考えられる。

「自社保有倉庫(物流施設)の老朽化」に関して、東京都市圏交通計画協議会「第5回東京都市圏物資流動調査」によると、東京圏では1979年以前に建設された物流施設が総ストックの約3割を占める。同調査では、老朽化した施設は近年の物流ニーズに合致していない可能性があり、災害時の安全性も確保できていない懸念があると指摘している。ニーズに合致しない老朽施設が増加しているものと考えられる。
図表-4 「倉庫(東京)」建築コスト(2015年=100)
 
3 国土交通省「物流不動産の隆盛の背景や理由」
4 本調査では、「物流施設利用面積に占める賃貸施設の割合」について質問した。賃貸施設の割合が、「1-20%」,「21-40%」,「41―60%」,「61-80%」,「81-99%」,「100%」との回答の合計。
5 CBRE「自社倉庫と賃貸倉庫の違い│セール・アンド・リースバック取引の概要やメリット」2012年2月14日

(2025年02月20日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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レポート紹介

【アンケート調査から読み解く物流施設利用の現状と方向性(1)~物流効率化・BCP・施設老朽化対応で、利用面積を見直し。賃貸施設利用が進み、地方都市で拡張意欲が高まる。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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