2025年02月19日

EIOPAがソルベンシーIIのレビューに関する助言のいくつかを提出-欧州委員会からの要請に対する回答-

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1―はじめに

EU(欧州連合)におけるソルベンシーIIのレビュー(見直し)を巡る動きに関しては、基礎研レポート「EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化-」(2025.1.21)で、「レベル1」のソルベンシーIIの改正指令が最終化したことを報告した。また、そのレポートの中で、「レベル2以下」の委任規則、実施基準、ガイドライン等の改正等についても、欧州委員会やEIOPAにおける検討状況等について報告した。 

EIOPAは1月30日に、欧州委員会からの要請事項のいくつかに対して、助言を提出している。

今回のレポートでは、EIOPAの公表内容に基づいて、その概要を説明する。

2―EIOPAによる助言の内容

2―EIOPAによる助言の内容

EIOPAは、以下の項目に関する助言をまとめ、欧州委員会に提出した。これらの項目は、2024年の7月から8月にかけて、協議文書が公開され、10月下旬まで意見を求めていたものであり、利害関係者から得られたフィードバックを検討して、最終案としてまとめられた。

欧州委員会は、これらの助言に基づいて検討を行っていくことになる。
1|比例性の枠組み
EIOPAは、2025年1月30日に、ソルベンシーIIの新たな比例性の枠組みの実施に関する技術的助言を公表し、欧州委員会に提出した1。この助言は、改正ソルベンシーII指令で概説されているように、保険会社(再保険会社を含む、以下同様)を「小規模かつ複雑でない」と分類する方法論をサポートし、小規模で複雑でないと分類されない保険会社に同様の比例措置を付与するための一連の条件を提示している2。この文書は、2024年4月30日の欧州委員会の助言要請3に対する回答となっている。
 
1 EIOPA provides its advice on Solvency II’s new proportionality framework to the European Commission - EIOPA
2 比例措置は、一定の条件を満たすキャプティブにも認められる。
3 https://www.eiopa.europa.eu/document/download/72d01fa8-ab9e-49d0-bcfe-949b6c6085cf_en?filename=CfA%20-%20European%20Commission%20request%20to%20EIOPA%20for%20technical%20advice%20on%20the%20review%20of%20specific%20items%20in%20the%20solvency%20ii%20delegated%20regulation.pdf
 ここでの3つの助言要請のうち、暗号資産の投資に対する標準式での資本要件については、EIOPAは、2024年10月24日に協議文書を公開している。これを含めた3つの助言の欧州委員会への提出期限は2025年6月30日となっている。
小規模で複雑でない会社
改正ソルベンシーII指令等による改訂された比例性の枠組みは、監督者への簡素化された通知プロセスに続いて、比例措置の恩恵を受ける立場にある、いわゆる「小規模で複雑でない会社」(Small and non-complex undertakings:SNCU)を特定するための明確な基準を設定している。

EIOPAの見解では、提案された分類方法論は明確かつ包括的であり、この段階ではこれ以上の仕様は必要なく、さらなる仕様は国レベルでの枠組みの実際的な実施に依存すると考えており、ソルベンシーII指令の修正の中で対処されるべき、としている。
SNCU以外への比例措置の付与
SNCUに加えて、新しい比例性の制度は、監督当局が、リスクプロファイルが小規模で複雑でないと分類されていないにもかかわらず、何らかの比例措置の使用を正当化する他の保険会社に対しても同様の緩和を付与したり、撤回したりする権限を与えている。

SNCUでない会社への比例措置の付与と撤回に関する監督評価を導くために、EIOPAの助言は、定量的条件と定性的条件の組み合わせを提案している。これらのいくつかは、現在及び将来のリスクに耐える会社の能力、ビジネスモデルの複雑さ、ガバナンス構造、及びバランスシートの規模に関連している。EIOPAは、会社の全体的なリスクプロファイルを評価するための一般的な条件と、(再)保険会社が申請している比例措置の種類に合わせた特定の条件を導入することを提案している。

ソルベンシーIIの新しい比例性の枠組みに関するEIOPAの技術的助言は、リスク管理への慎重なアプローチを維持しながら、欧州の保険セクターの会社に対する規制負担を軽減するための重要な一歩を示している。規制に対して、状況に応じた比例した要素を導入することで、市場の多様性、競争、イノベーションを支援すると同時に、監督当局はリスクプロファイルの高い、より複雑な会社にリソースを効率的に配分することができることになる。
(参考)SNCUに認められる比例措置
SNCUに認められる具体的な比例措置としては、(a)技術的準備金の計算における健全な決定論的評価の使用、(b)流動性リスク管理計画の免除、(c)RSR(定期監督報告)の提出頻度の引き下げ(少なくとも3年ごとではなく、監督当局が認める場合には少なくとも5年ごと)、(d)SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)の貸借対照表の監査免除、(e)ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)の頻度の引き下げ(年1回ではなく、2年毎)や一定の分析の免除、(f)ガバナンスの主要機能の兼務容認、等が挙げられる。
2|標準式におけるCCPs(中央清算機関)への直接エクスポージャーの資本要件の取扱
EIOPAは、2025年1月30日に、標準式における保険会社の適格中央清算機関(CCPs)4への直接エクスポージャーの資本要件の取扱いに関する最終的な技術的助言を公表した5。この文書も、2024年4月30日の欧州委員会の助言要請に対する回答となっている。

EEAの(再)保険会社は最近まで、デリバティブ取引の顧客として(つまり、清算会員の仲介を通じて)間接的にのみCCPsを利用しており、ソルベンシーIIでは、これらの間接的な取り決めに対する具体的な取り扱いを規定していた。ただし、CCPsへの直接的なエクスポージャーは考慮されていないため、この場合には二者間エクスポージャーとして扱われ、結果として資本要件が高くなることになっていた。

しかし、CCPsは、いわゆる「スポンサーモデル」のように、(再)保険会社がCCPsの直接のメンバーになることを可能にするために、アクセスモデルを進化させてきた。

今回の提案では、リスク感応度と直接清算に対する潜在的な阻害要因に関する懸念に対処するため、EIOPAは、間接エクスポージャーの取扱いを直接エクスポージャーに拡大し、デフォルト基金への拠出6の取扱いを自己資本要件規則に基づくリスク感応的なアプローチとさらに整合させることを提案している。
 
4 CCPsは、世界の金融システムにおいて重要な役割を果たす金融機関で、デリバティブ、証券、その他の金融商品を含む取引の決済における仲介者として機能している。清算プロセスを一元化し、二国間のエクスポージャーを相殺することで金融取引を簡素化し、カウンターパーティと決済のリスクを大幅に削減する。
5 EIOPA suggests amending the capital treatment of insurers’ direct exposure to central clearing counterparties - EIOPA
6 全てのCCPsの清算会員は、清算会員が債務不履行に陥った場合に損失補償を行うためのデフォルト基金に拠出する必要があるが、拠出金は相対的なリスクエクスポージャーによって異なっている。
3|自然災害リスクに対する標準式較正
EIOPAは、2025年1月30日に、標準式における自然災害リスクの較正方法の更新の助言を公表7し、欧州委員会に提出した8。これは2023年と2024年に実施された包括的な再評価を受けたもので、EIOPAは、新たな科学的知見、最近の気候データ、高度なリスクモデリングを活用し、特定の地域の洪水、雹、地震、暴風などの危険に対する標準的なリスクファクターを調整するとともに、考慮する国の数を増やすことを提案している。

気候変動により、世界中で自然災害や異常気象が増加しており、それらに関連する損失も増加している。不規則で損害を与える気象パターンが強まる中、保険契約者の継続的な保護とEUの保険市場の全体的な安定性を確保するためには、自然災害の引受リスクに対する保険会社の自己資本要件がNATCAT(自然災害)イベントの影響を適切に反映することが重要となる。

EIOPAは、2018年に前回の「標準式リスクウェイト」が更新されて以来、利用可能になった新しい洞察、データセット、モデルを考慮に入れて、既存のパラメーターを見直し、洪水、暴風、雹、地震、地盤沈下などの自然災害について、24の地域の新しいファクターを提案している。
 
7 https://www.eiopa.europa.eu/eiopa-recommends-new-risk-factors-flood-windstorm-and-hail-risk-insurers-standard-formula-capital-2025-01-30_en
8 ソルベンシーIIレビューは、EIOPAに対し、自然災害リスクパラメータを再評価し、重大な不一致がある場合は、少なくとも5年ごとに再調整することを義務付けている。したがって、EIOPAは、最新のデータと科学的証拠を考慮に入れて、これらのリスクの定期的な再調整を行っている。
新しいファクターの概要
この再評価は、近年気候変動の影響が明らかになっている洪水ハザードについて、最も広範な最新情報をもたらす。3カ国の洪水リスクファクターは、これらの地域で保険引受業務を行う保険会社が直面するリスクにより適合するように再調整された。アイルランド、ルクセンブルク、ノルウェーを含む他の7カ国は、これらの国に重大なエクスポージャーがあることが判明したため、洪水リスクの標準式に含めることが提案される。

同様に、アイスランドやフランスの海外領土の一部を含むいくつかの地域では、暴風雨のリスクファクターが増加する一方で、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク等の国のリスクファクターは雹のリスクとして引き上げられるべきである。沈下リスク、または地盤沈下リスクは、フランスに対して引き上げられるべきであり、ベルギーは、この危険に対する標準式較正でのリスクファクターを付与すべきである。
その他の危険(ハザード)の監視
既に取り上げた5つのリスクファクターに加えて、EIOPAは、標準式に含まれる可能性のある新たな危険についても綿密に監視している。気候変動により特定の危険の頻度と強度が変化するにつれて、EUの保険セクターにとって、以前よりも重要性が高まる可能性がある。そのため、EIOPAは、山火事、沿岸洪水、干ばつなどの自然災害が、標準式較正に含めるのに十分なものであるかどうかを分析している。

3―保険業界団体の反応

3―保険業界団体の反応

今回のEIOPAの欧州委員会への助言の公表を受けて、ドイツの保険業界団体であるGDV(ドイツ保険協会)がコメントしている9。これによると、以下の通りである。

GDVは、ソルベンシーIIの枠組み内での比例ルールの実施に関するEIOPAの現在の提案に批判的であり、GDVのマネージングディレクターのJörg Asmussen氏は、「提案はあまりにも官僚的で、欧州市場の多様性を考慮していない。」と警告している。

協議文書からはいくつかの前向きな変更が行われているにも関わらず、「比較的小規模で複雑性の低い保険会社にとって、複雑な状況は、管理上の負担を大幅に増大させ、官僚主義を削減するという目標と矛盾する。」と述べている。

また、「定性的基準は適切ではない」とし、「合計4つの一般的な基準と13の特定の基準は複雑すぎる。会社のリスクプロファイルに基づいて比例措置による救済を可能にする以前のアプローチは、その価値を証明しており、維持されるべきだ。」と述べている。

さらには、比例措置適用の承認のための固定された臨界値(生命保険セクターでは技術的準備金で120億ユーロ、損害保険セクターでは総収入保険料で20億ユーロ)は、欧州各国の構造的な違いが考慮されておらず、小国では、殆ど全ての保険会社がこれらの制限を下回ったままで、救済の恩恵を受けるのに対して、ドイツでは、これが適用される会社は殆どなくなる。GDVは、相対的臨界値の追加導入により、救済の承認が、それぞれの国内市場の最大20%に制限されることを提案している。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIのレビューに関して、欧州委員会からの要請事項のいくつかに対して、EIOPAが1月30日に公表した助言内容について、その概要を報告してきた。

このうちの「比例性の枠組み」に関しては、欧州の保険業界団体からは、GDVのコメントに見られるように、引き続きさらなる対応を求める意見が示されてきている。これを受けて、欧州委員会がどのような対応を行っていくのかが今後の焦点となってくる。

EUのソルベンシーIIのレビューを巡る動きについては、関係者にとって関心の高い事項となっていることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。

(2025年02月19日「保険・年金フォーカス」)

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