2025年01月31日

ECB政策理事会-見通しに大きな変更なく、連続利下げを決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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(金融・通貨環境)
  • ユーロ圏の市場金利は、12月会合以降に上昇しており、部分的には世界金融市場の金利上昇を反映している
    • 資金調達環境は引き続き制限的だが、我々の利下げは企業や家計の借入コストを段階的に低下させている
 
  • 企業向けの新規貸出平均金利は11月に4.5%となり、市場での負債発行コストは3.6%で維持されている
    • 新規住宅ローンの平均金利は3.5%にわずかに低下した
 
  • 銀行の企業向け貸出は11月の1.0%から12月には1.5%に上昇した
    • 企業による負債性証券発行は前年比3.2%で落ち着いている
    • 住宅ローンは引き続き緩やかに上昇しているが、全体としては低調で、前年比1.1%の伸びとなった
 
  • 最新の均衡貸出調査で示されているように、企業向け貸出基準は4四半期の安定ののち、24年10-12月期には再び厳格化した
    • 再厳格化は主に銀行が顧客の直面するリスクを懸念し、自らがリスクを負う意欲を低下させたためである
    • 企業の借入需要は10-12月期にやや増加したが、総じて弱いままである
    • 住宅ローン向けの貸出基準は3四半期の緩和の後、概ね不変となる一方、住宅ローン需要は主に金利の魅力度が高まったことで大きく伸びた
 
(結論)
  • (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
 
(質疑応答(趣旨))
  • 今後向かう先はどこか。今後の方向性に自信はあるか。シュナーベル委員は金利がどこまで下げられるか議論する地点に近づいていると述べている。本日は議論をはじめたか。また、この点についての見解はあるか
    • 今回は全会一致の決定で、決定が適切かどうかの議論はなかった
    • 金融政策声明文で明確に我々が制限的な点にいることを述べており、現時点では停止すべき点に関する事項は時期尚早であり、議論していない
    • 我々の向かう先は把握している
    • どのようなペースで、どれだけ連続して、どのような規模で行うかは、今後数週間、数か月の間に収集するデータをスタッフによる分析を通じて決定される
    • 3月にはスタッフによる経済情勢を踏まえた見通しも公表される
 
  • 中立金利について。ダボス会議での発言では中立金利の推計レンジが政策理事会での会見時のものと変わっていた。なぜ推計値を変えたのか。なぜ中央値を低下させたのか。もし変更に重要な意味があるのであれば、それは何か
    • 自然利子率については、2月7日にスタッフによる改定推計値が公表されるのでそれを見て欲しい
    • これは我々が議論したものではなく、また、これはレンジであり、指針や目的地を示すものではない
 
  • 経済見通しについて。あなたは経済回復に輸出がプラスの寄与をすると見られると述べた。しかし、世界には不確実性があり、中国の減速やトランプ政権を前提とした場合、どの程度現実的といえるのか
    • 潜在的なリスクとして貿易に伴う不確実性は分析されている
    • (通商政策に関する)噂や声明、仮定はあるものの、明確で具体的でスタッフの分析に織り込めるものはない
    • 我々は細心の数値や統合された情報を注意深く見ていき、スタッフはそれらを勘案して3月の見通し作成をすることになる
    • ただし、3月までに十分な確証を得られるかは分からない
    • 我々は依然として不確定要素に悩まされることになると考えられる
 
  • 経済状況が暗く、ディスインフレ傾向にあり、制限的な金融政策姿勢のなか、どうして0.50%ポイントの引き下げの議論をしなかったのか
    • (明確な回答なし)
    • 0.50%ポイントの議論はまったくなかった
 
  • インフレについて。2%目標の達成は賃金上昇率とサービスインフレが大幅に鈍化するという期待に基づいている。これらはまだ実現していない。サービスインフレは4%付近にある。3月以降も利下げを継続する際には、サービスインフレの鈍化という証拠はどの時点で必要になるか
    • ヘッドラインインフレ率は25年中に中期的な2%目標に持続的に到達すると確信している
    • 財インフレが0.5%ポイントまで低下している際にサービスインフレが2%になると明らかに下振れするのでそこまでを期待はしていない
    • 現在、我々の把握している指標はすべて低下しており、25年の賃金上昇低下への自信を裏付けるものとなっている
 
  • 昨日、あなたのチェコのカウンターパートは彼の組織がビットコインを外貨準備に含めるかの評価を行うと述べ、トランプ米大統領はビットコインの国家戦略準備の考えを支持している。これらの考えについてどう思うか。ECBも検討しているのか
    • 政策理事会(Governing Council)にも、おそらく一般理事会(General Council)にも外貨準備は流動的(liquid)で、障害に強く(secure)で、安全(safe)で、マネーロンダリングやその他の犯罪活動の疑義に悩まされるべきではない、という見解があると考えている
    • 結果として、ビットコインは一般理事会のどの中央銀行の外貨準備にも導入されることはないと確信している
 
  • FRBが利下げを停止している間に利下げを続けることは快適(comfortable)なことか。どのような影響が予想されるか
    • 我々は目標達成が唯一の快適なことである
    • 我々は中期的に2%という持続的なインフレ率を望んでおり、目標達成に必要なことはすべて行うつもりである
 
  • もし関税が課された場合について、金融政策は即時に調整するのか、それとも経済活動への影響が生じるまで待つ必要があるのか
    • 政策決定、数値、範囲、特定品目(custom line items)など現時点で何が検討されている正確に把握できるものはない
    • 関税が課されれば、当然、我々の評価やスタッフによるマクロ経済分析の対象となる
    • しかし、世界全体に課される様々な関税率、貿易経路の変更、報復の有無などに依存し、「インフレかデフレか」「こちらかあちらか」といったものよりはるかに複雑である
 
  • 声明文で逆風について言及していたが、今朝GDPが公表された。特にフランスとドイツで予想を下回った。回復は遅れており、この停滞から抜け出すにはどの程度の時間がかかるのか
    • いまも回復していることをまず念頭に置かなければならない
    • 23年の非常に低い成長率から24年には、成長率がほぼ倍増した
    • 潜在成長率には達していないが、確実に回復している
    • 雇用市場と実質所得の増加を考慮すれば、消費が上向き、予想される回復過程を支え続けるだろうと信じるには十分な理由となる
    • 我々はスタグフレーションについて話したことはない
 
  • 以前、特に国債の売りやEUと米国の経済格差によって、12月以降に長期金利が大幅に上昇していることに言及していた。利回り上昇は懸念事項か、またこの状況をどのように評価しているか
    • 長期金利は主に米国で上昇しているが、世界中に波及しており、ユーロ圏でもそうした波及から免れていない
    • しかし、我々の金融政策のからのかなり大きな伝達は止められない
    • 企業向けの金利や家計の住宅ローン向けの金利低下を見ると、経済に実際に伝達されている
 
  • 自然利子率に関する議論について。ECBはそこに到達したと、どのように決定するのか、見解を教えて欲しい。概念的にスタッフ推計の中央値を使うだけなのか、すでに議論されているのか。また、その水準に近づいた時にはECBの反応関数は変更されるべきなのか。金融政策が実際にどのように機能しているか見極めるために、よりゆっくりと時間をかけて行動するべきなのか
    • 現実をあるがままに見たい。我々は制限的な領域におり、我々は中立金利にはいない
    • これ(中立金利)は完全に時期尚早の議論である
    • そこに近づけば、我々はスタッフの調査論文(research paper)、スタッフによる分析に基づいて金融政策を運営する、そしてそれは我々がどの程度そこに近づいており、どのような金融政策をすべきなのかを決定する助けになるだろう
    • もし、経済を刺激するために中立金利を下回るべきかを質問しているのであれば、それは答えられない
    • 我々は会合毎にデータに基づいて決定しており、特定のペースを確約していない
    • 中立金利という概念的原理にいつ到達するのかは、我々が受け取るデータ次第である
       
  • 火曜日の晩、記憶違いでなければ、初めて夕食にゲストが参加した。フォンデアライエン委員長とどのような会話を交わし、理事会の審議に反映させたのか教えて欲しい
    • 「総裁夕食会」に参加したのは彼女が初めてではなく、ユーログループのドナフー議長も参加したことがあり、他の欧州各地からのゲストと繰り返そうと全ての総裁が感じるような非常に豊かな経験であった
    • 我々は彼女の発言や言及から欧州委員会が焦点をあてている競争力、簡素化、柔軟性を有した目標達成へのアプローチについて、より理解する機会となった
 
  • FRBがNGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)を脱退したことについて。時期は微妙で、トランプ大統領が就任する数日前のことだった。この脱退について重要性や時期の点で驚きとなったか。予想していたことか。中央銀行の世界的な協力関係にとってどのような意味があるのか
    • NGFSは世界中に150以上のメンバーがおり、我々もNGFSのメンバーである
    • 我々は実際に、NGFSや多くのメンバーで利用されているシナリオを提供している
    • 多国間における注釈(notes)の比較、シナリオの比較、リスクの比較、政策の比較に我々は大きな価値を見出している
    • 今の時代、これらの問題を議論、分析できる多国間の場を持つことは大きな価値だと考えている
 
  • 言及された実質所得の上昇について。この過程はコロナ禍前と比較してどの程度進んでいるのか
    • 多くの加盟国ではコロナ禍前の水準に完全に追いついた
    • パンデミック前の水準と異なるのは貯蓄率であり、貯蓄率は上昇している
 
  • ブルガリアについて。ブルガリアは特別収れん報告書(extraordinary convergence report)を求める準備をしている。この過程を緩和するための提案はあるか。特別収れん報告書はユーロ圏に加盟するための技術的な基準に焦点があたるのか、それとも6月に公表されたような政策や立法に関する包括的なアプローチとなるのか
    • ブルガリアについては収れんプロセスがかなり進んでいる
    • 我々はインフレ率の収れん以外には判断を下さず、部分的にしか関与していない
    • しかし私が目にしたものや、ブルガリア当局との議論からこのプロセスが順調に進んでいると確信している
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年01月31日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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