2025年01月20日

IMF世界経済見通し-ベースラインは安定成長だが不確実性は高い

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:成長率は24年10月時点の見通しからほぼ変更なし

1月17日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)の改訂版を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
2024年は前年比3.2%だったと想定され、25年1月時点の見通し(同3.2%)と同じ
2025年は前年比3.3%となる見通しで、25年1月時点の見通し(同3.2%)から上方修正
2026年は前年比3.3%となる見通しで、25年1月時点の見通し(同3.3%)と同じ

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:新政権下で経済政策の不確実性が高まる

IMFは、今回の見通しを「世界成長:まちまち、かつ不確実(Global Growth: Divergent and Uncertain)」と題して作成した1

IMFは25年・26年の成長率見通しについて、全体では概ね24年10月時点から変更がなかった。なお、世界成長率見通し(3.3%)はコロナ禍後の潜在成長率とほぼ一致するとしている。ただし、ベースラインの見通しは公表時点の政策を前提としており、特にトランプ政権後に実施・変更されるだろう政策について織り込まれていない点には留意が必要と言える(例えば、ベースラインシナリオでは貿易量の推計値が小幅に下方修正されているが、一過性のものとされている)。
 
成長率見通しを地域別に見ると、主に米国の上方修正が他の主要国の下方修正と相殺される結果となっている。

まず、先進国と新興国・途上国の成長率見通しは(前掲図表2、図表3)、ともに大きな修正はなされなかった(先進国:25年1.8→1.9%、26年1.8→1.8%、新興国・途上国:25年4.2→4.2%、26年4.2→4.3%)。

国別には、先進国において米国の25年の成長率がゲタ効果や労働市場の堅調さ、投資の加速などから大幅に上方修正された(25年2.2→2.7%、26年2.0→2.1%)。

ユーロ圏は地政学的緊張が景況感の低下をもたらし、また製造業の成長が予想を下回り、政治・政策の不確実性が高まっていることなどから、25年の成長率が下方修正された(25年1.2→1.0%、26年1.5→1.4%)。

英国(25年1.5→1.6%、26年1.5→1.5%)や日本(25年1.1→1.1%、26年0.8→0.8%)など、その他の先進国は実質所得の回復による消費の押し上げというプラス要因と貿易政策の不確実性やそれに伴う投資の抑制というマイナス要因が相殺され、見通しはあまり変更されていない。
(図表3)主要国・地域の成長率と実質GDP水準
新興国・途上国においては、中国で11月に公表された財政支援策が、不動産市場の低迷や貿易の不確実性の高まりによる投資の低迷を相殺するとして、25年の成長率が若干上方修正された。また中国では26年の成長率も退職年齢の引き上げによる労働供給の減少抑制の効果などで上方修正されている(25年4.5→4.6%、26年4.1→4.5%)。

インドは見通しの修正はなく、潜在成長率並みの成長が予想されている(25年度6.5→6.5%、26年度6.5→6.5%)。

その他の新興国・途上国では、サウジアラビアが原油減産延長で25年の成長率が大幅に下方修正されている(25年4.6→3.3%、26年4.4→4.1%)。
 
国別の改訂状況を見ると、改訂見通しで公表している30か国中、25年(度)は8か国が上方修正、10か国が下方修正、残りの12か国は横ばいだった2。また、26年(度)は上方修正が7か国、7か国が下方修正、16か国が横ばいとまちまちの結果となった。
(図表4)先進国と新興国・途上国のインフレ率 インフレ率については(前掲図表1・4)、先進国でやや上方修正(25年2.0→2.1%、26年2.0→2.0%)、新興国・途上国でやや下方修正(25年5.9→5.6%、26年4.7→4.5%)、世界全体で下方修正(25年4.3→4.2%、26年3.6→3.5%)となった。なお、総じてディスインフレが継続されると見込まれるものの、国別に見ると米国では2%目標を上回った状況が続き、ユーロ圏ではよりインフレが鎮静化、中国では低インフレが続くと予想されている。
 
IMFは今回の見通しに対するリスクは中期的には下向きに傾いているとした。リスクバランスが下向きに傾いているとの評価は、前回24年10月と同様である。一方、短期的には各国間の乖離が拡大し、米国で上振れる一方で欧州や中国など大半の国では下振れるリスクがあるとも指摘している

こうしたリスク要因として、具体的には「保護主義的な政策の強化」(短期的にも中期的にも下振れリスク)、「米国の財政緩和」(短期的には押し上げ要因だが、長期的には財政健全化が必要になる可能性や金利上昇が他地域の経済活動を押し下げる可能性がある)、「規制緩和」(米国の成長を押し上げる可能性がある一方、ドル高は新興国・途上国からの資本流出リスクを高める。またマクロ金融を安定させるための規制を緩和することで、景気過熱と急後退が発生する可能性がある)、「その他供給制約(移民流入の減少に伴う労働力の混乱など)」を挙げている。これらについては、政策の組み合わせや規模の違いによって各国への影響がかなり異なると見られることも指摘されている。

なお、関税政策に関して、インフレ率への影響は不透明としつつも、近年の高インフレ期を経て期待インフレ率が上昇していることから、上振れリスクが高くなり得る点が指摘されている。また、地政学的な緊張の高まりに伴う商品価格の再高騰も指摘されている。これらは、「高金利の長期化による財政・金融・外的リスクの悪化」になると指摘されている。

一方、成長率への上振れリスクとしては、「各国政権による貿易協定の再交渉と不確実性の早期解消」「構造改革の推進」が挙げられた。
 
1 同日に「一サイクル終え、乖離広がる中で新たなサイクル始まる(As One Cycle Ends, Another Begins Amid Growing Divergence)」との題名のブログも公表している。
2 修正幅が四捨五入して0.0%ポイントの国を横ばいとした。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年01月20日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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