2025年01月28日

保障ニーズを知ることの意義:生命保険 能動的加入者の視点から

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――生命保険加入行動の変化

1|自ら調べた情報をもとに会社や商品を比較・検討して、加入する消費者の増加
近年、金融・保険取引の中で「自ら調べた情報をもとに会社や商品を比較・検討し、加入する消費者」が増加してきている。

ニッセイ基礎研究所では、生命保険の購買行動を観察する中で、2000年頃から、営業職員から勧められるまま加入するのではなく、自らパンフレットやインターネットの情報をもとに検討を進めるといった能動的な加入者が増えてきていることを確認し、従来の加入者(「受動的加入者/顧客」と呼ぶ。)と区別して、「能動的加入者/顧客」と呼んできた1。また、この能動的加入者には、加入する商品を検討する過程で、インターネットで保険会社のホームページや保険比較サイトを調べる、FPに相談する、書籍や雑誌記事を参考にする等、自分で情報を得て加入する保険を絞り込んでいけるタイプ(「真性能動的加入者」と呼ぶ。)と、生命保険の加入動機を持ち、自分で情報を得るが、加入する商品を検討する過程では商品間の差がわからず、どの保険会社のどの商品が自分にふさわしいか、絞り込むことができないタイプ(「疑似能動的加入者」と呼ぶ。)の2種類があることが観察された。

能動的加入者の増加は、インターネットの普及により金融機関や金融商品の選択時に必要な情報を集める環境が整ったことや、高齢期に向けて自助努力による資産形成の必要性が高まり金融商品・サービスの消費経験を積んだ人口が増加したことなどがその主な理由と考えられたことから、さらに増加することが見込まれ、その動向に注目してきた。

本稿では、現在の能動的加入者、および真性・疑似能動的加入者のボリュームを確認し、その特徴を紹介したうえで、今後のより納得できる生命保険加入における示唆を得たい。
 
1 栗林敦子・井上智紀・村松容子「金融マーケティングにおけるセグメンテーション -生保加入時の能動的行動に注目して-」2009年3月25日ニッセイ基礎研究所 所報(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/38114_ext_18_0.pdf?site=nli
2|定量調査における「能動的加入者」「受動的加入者」の定義
定量調査における「能動(真性能動、疑似能動)」と「受動」の定義は以下のとおりとした。

まず、「能動的加入者」は、生命保険加入時に自ら情報を収集し、会社や商品を比較検討を行うため、以下の条件I、IIのいずれかに該当するケースを「能動的加入者」とし、それ以外を「受動的加入者」とした。

I.他社比較・検討の有無
2つ以上の保険会社の生命保険について比較検討した人

II.主体的な情報探索の有無
加入時に利用した情報源として、自ら収集した情報を利用した人
 
次に、「真性能動的加入者」と「擬似能動的加入者」の違いは、自分に必要な保険ニーズをいくつかの情報に照らしあわせ、徐々に絞り込むことができるかどうか(自分で保険を選択・決定できるかどうか)にある。そのためにはまず、自分のニーズに関する知識が必要であると考えられる。そこで、下記のIIIの条件によって「真性能動的加入者」と「擬似能動的加入者」を分類した。

III.自分自身のニーズに関する知識の有無
「自分の保障ニーズ」について「よく知っている」から「まったく知らない・用語がわから ない」まで5段階で聞いているが、これに対して「よく知っている」と回答した人を「真性能動的加入者」、「少し知っている」「どちらともいえない」「ほとんど知らない」「まったく知 らない・用語がわからない」と回答した人を「擬似能動的加入者」とした。
 
各セグメントの特徴、および定量調査における定義の根拠等については、前述の「金融マーケティングにおけるセグメンテーション-生保加入時の能動的行動に注目して-」をご参照いただきたい。

2――能動的加入者の増加

2――能動的加入者の増加

ニッセイ基礎研究所が毎年実施している「生保マーケット調査」では、直近加入の生命保険について、加入年と加入時の検討プロセスを尋ねている。上述の定義に基づいて、加入者を加入検討プロセスと保障ニーズの認識から3つのタイプに分類し、加入年別に構成をみた(図表1)。

1997年以前の加入者の78.3%が受動的加入者だったのに対し、受動的加入者は徐々に減少し、2023年加入者においては47.4%と半数以下となっていた。それに代わって、能動的加入者は、真性能動、疑似能動を合わせて1997年以前は21.5%だったのが、2023年には51.3%と増加していた。真性能動的加入者についてみると、1997年以前の加入者では4.5%で、2011年頃までは大きな増加はなく横ばいで推移してきたが、2011年頃以降、増加しており、2023年の加入者では、12.4%にまで上昇しており2、当初は疑似能動的加入者の増加が目立ったが、最近では真性能動的加入者の増加も確認できた。
図表1 能動的加入者のボリュームの推移(生命保険に加入した年別)
 
2 2020年加入者は、疑似能動的加入者の割合が特に高く、受動的加入者の割合が特に低い。図表1では割愛したが、2019年と2021年と比べても疑似能動的加入者が特に多かった。これは、コロナ禍で、受動的加入者の主な情報源である営業職員との接触を避けた消費者が多かったことや、外出機会が減り、自身で保険について調べる時間があった加入者が多かった可能性が考えられる。

3――能動的加入者の特徴

3――能動的加入者の特徴

図表2 性・年齢別能動的加入者 1|性別、年齢別の特徴
2023年調査で、能動的加入者の割合を性別にみると、能動的加入者全体の割合は男女による差はほとんどないが、女性で疑似能動的加入者の割合が男性よりやや高い(図表2)。

年齢別による差は顕著で、能動的加入者全体の割合は40歳代以下で高いが、40歳代以下では疑似能動的顧客の割合が高く、真性能動的加入者は50歳代以上で高い。自ら情報を集め、商品を比較し、加入を決めるといった行動は、比較的若い人で多いが、若いうちは、自分自身の保障ニーズの見極めが難しい可能性がある。
2|満足度の特徴
加入した生命保険に対する総合的な満足度をセグメント別にみると、満足計(「満足している」と「まあ満足している」の合計)の割合は、真性能動的加入者では84.2%、擬似能動的加入者でも72.3%と、受動的加入者の60.4%を大きく上回る。ところが、「満足している」に限定してみると、真性能動的加入者の42.5%に対して、疑似能動的加入者と受動的加入者では同程度にとどまる。

加入経路(方法)に対する満足度も、満足計の割合は、真性能動的加入者、疑似能動的加入者、受動的加入者の順に高く、「満足している」に限定してみると、真性能動的加入者が疑似能動、受動を大きく上回るという特徴は総合的な満足度と同様となっている。しかし、総合満足度と比べると、加入経路(方法)の「満足している」は疑似能動の17.9%が受動の15.8%を上回っていた(10%有意水準)。

加入経路(方法)については、加入検討時に、自ら情報を収集したり、会社や商品を比較検討を行ったことで、受動的加入者よりも満足している割合が高いものと考えられる。総合的な満足度においても、満足計の割合は受動と疑似能動で大きな差があるものの、「満足している」だけに限定すれば、自分自身の保障ニーズを知っていることが重要となりそうだ。自分自身の保障ニーズを認識できていないと、どういった保険商品が自分自身の保障ニーズに合っているか、保険商品について調べても判断できないため、不安が残るものと考えられる。ここでは詳細は割愛するが、真性能動的加入者では、疑似能動的加入者、受動的加入者と比べて、継続意向や、他者への推奨意向も高く、加入者自身にとっても、保険会社にとっても良好な状態であることが窺える。
図表3 セグメント別 総合満足度/図表4 セグメント別 加入経路(方法)満足度

4――保障ニーズを検討することが重要

4――保障ニーズを検討することが重要

以上みてきたとおり、生命保険加入者を加入検討プロセスにおける行動の主体性および自身のニーズ認識をキーとして生命保険加入者を3つのタイプに分類し、その動向に着目してきた。能動的加入者は、2023年に生命保険に加入した人の半数程度にまで増加していた。能動的加入のうち、当初は疑似能動的加入者の増加が目立っていたが、最近では真性能動的加入者が増加していることが確認できた。自分の保障ニーズと照らし合わせて、その保険が自分に合っているかどうか判断できる消費者が増えていると考えられる。ただし、今でも、疑似能動的加入者数が真性能動的加入者を上回り能動的加入者の大多数を占める。特に、年齢による差は顕著で、自ら情報を集め、商品を比較し、加入を決めるといった行動は、比較的若い人で多いが、若いうちは、自分自身の保障ニーズの見極めが難しい可能性があった。

図表3、4で示したとおり、真性能動的加入者の加入した生命保険への満足度は高い。疑似能動的加入者は、「まあ満足している」は高いものの「満足している」は、真性能動的加入者を下回り、受動的加入者と同程度にとどまる。加入した保険に「満足している」と感じるためには、自分の保障ニーズを知ることが重要だと考えられた。自分自身の保障ニーズを認識できていないと、どれだけ詳細に保険商品について調べても、その保険商品が自分のニーズを満たしているか判断できないため、不安が残るものと考えられる。

2000年頃と比べて、インターネット等を介して、保険商品については、商品の特徴を調べたり、似た商品と比較しやすくなってきている。また、個人が発する情報も増え、利用者の口コミ、会社や担当者の対応に関する評判等を含めて多くの情報を集めることができる。しかし、生活スタイルがますます多様化し、人々が抱えるリスクも多様化してきていると考えられ、自分の保障ニーズを判断することは難しくなっている可能性がある。商品についての情報を得るだけでなく、自分自身の生活設計を行い、自分が必要としている保障を考えることが大切だろう。

(2025年01月28日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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