2025年01月23日

グローバル株式市場動向(2024年12月)-米国金利上昇や欧州の政治的混乱により下落

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――米国金利上昇や欧州の政治的混乱により下落

2024年12月、グローバル株式市場は下落した。米国でのインフレ懸念の再燃による金利の上昇(10年国債利回り)、ドイツでの連立政権崩壊やフランスでの内閣総辞職といった欧州での政治的混乱などが下落要因となった。一方で、中国では政府による景気刺激策の強化が公表され上昇した。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2024年12月▲2.5%、過去1年(2024年1月-2024年12月)では+15.7%となっている(図表1)。

先進国・新興国ともに下落となった。先進国(MSCI World Index)が▲0.3%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が▲0.3%となった(図表2)。
図表1 世界株指数の推移/図表2 先進国・新興国指数の推移
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が+0.4%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が▲5.4%とグロース優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が▲2.0%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が▲5.1%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が▲5.4%と大型株の騰落率が高かった(図表4)。
図表3 グロース・バリュー指数の推移/図表4 企業規模別指数の推移
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別に見ると、下落した国が多かった(図表5)。主要国について見ると、米国(▲2.7%)、中国(+2.6%)、ドイツ(▲1.1%)、日本(▲0.9%)となった。騰落率が高かった国・地域はパキスタン(+13.6%)、アラブ首長国連邦(+9.1%)、ギリシャ(+6.5%)だった。一方で、デンマーク(▲13.8%)、ブラジル(▲9.9%)、オーストラリア(▲8.2%)の騰落率が低かった。

米国では前月にトランプ次期大統領による減税・規制緩和などの政策への期待から上昇していたが、12月はFOMC(米連邦公開市場委員会)の政策金利見通しにおいて2025年の利下げペース減速が示唆されたことなどから反落した。

日本では、日銀による利上げが遅れるとの見方と米国の利下げ鈍化の予想から円安が進行した。これにより輸出関連銘柄を中心に上昇した。ただし、円安によりドル建てでは下落となった。

中国では、共産党指導部が政治局会議において景気刺激策の強化を表明したことから上昇した2。不動産と株式市場を安定化させる方針が示されたことにより株式市場や国債が上昇した。また、下落が続いていた中国新築住宅価格は1年半ぶりに前月比横ばいとなった3

パキスタンでは、国際通貨基金(IMF)が同国への70億ドルの支援を承認したことが株価上昇につながった4。同国はコロナ禍や2022年の豪雨被害などにより、経済が低迷し欧米企業の撤退が相次ぐ状況となっていた。しかし、同国のシャリフ政権は経済再建に向けた取組みを行い7月にはIMFによる支援の暫定合意に達した。こうした経済再建に向けた取組みの進展により、同国の株式市場は上昇基調が続いている。

デンマークでは、同国の主要企業である製薬大手ノボ・ノルディスクが下落したことでヘルスケア関連銘柄などが下落した影響から株式市場は下落した5
図表5 各国の株式市場の騰落率
業種別に見ると、自動車・自動車部品(+10.4%)、メディア(+3.8%)、テクノロジー・ハードウェアおよび機器(+3.2%)の騰落率が高かった。一方で、不動産(▲8.2%)、素材(▲8.0%)、運輸(▲7.3%)の騰落率が低かった(図表6)。
図表6 グローバル株式市場の業種別騰落率
 
2 Bloomberg、「中国、2025年の刺激策強化示唆-トランプ氏との貿易戦争再燃に備え」、2024年12月10日
3 ロイター通信、「中国新築住宅価格、12月は1年半ぶり前月比横ばい 刺激策受け」、2025年1月17日
4 日本経済新聞、「パキスタン政府「IMFが1兆円支援を承認」 地元報道」、2024年9月26日
5 ロイター通信、「欧州株式市場=続落、 ヘルスケア株大幅安」、2024年12月21日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価はまちまちとなった (図表7)。時価総額上位30位までの企業では、ブロードコム(+43.4%)、トヨタ自動車(+17.4%)、テスラ(+17.0%)のリターンが高かった。一方で、ノボ・ノルディスク(▲18.9%)、ユナイテッドヘルス・グループ(▲16.8%)、オラクル(▲9.8%) のリターンが低かった。

12月12日、米国の半導体大手ブロードコムは2024年8-10月期の決算を発表、売上高が前年同期比51%増と大幅増収となったことから株価が上昇した6。AI向け半導体として利用される同社のカスタムAI半導体(ASIC)事業の成長期待が背景となっている。AI向け半導体としてはエヌビディアが得意とするGPUが注目されていたが、専用設計で用途が限られるが電力消費量が少ないといった利点があるASICの利用が広がりつつあり注目が高まっている。AI向け半導体関連銘柄としてはこれまでエヌビディアへの資金流入と株価上昇が続いてきたが、今後の動向が注目される。

12月20日、ノボ・ノルディスクは開発中の肥満治療新薬「カグリセマ」が、患者の体重を平均22.7%減少させる効果があったと発表した7。しかし、これは同社が当初予想していた25%の減量効果には届かなかったことから株価は下落した。
図表7 世界の主要企業の株価動向
 
6 日本経済新聞、「AI半導体の新スター・ブロードコム NVIDIAと戦えるか」、2024年12月14日
7 Bloomberg、「ノボ・ノルディスクの次世代薬、減量効果が予測に届かず-株価急落」、2024年12月20日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

12月のグローバル株式市場は、米国での長期金利の上昇や欧州の政治的混乱などにより前月の上昇から下落に転じた。

12月4日、経済協力開発機構(OECD)は最新の世界経済見通しを発表した8。OECDは、世界経済の成長率(実質GDP伸び率)について2024年は3.2%、2025年と2026年については3.3%と予測、世界経済は堅調を維持するとの見方を示した。インフレ率は多くの国で中央銀行の目標に戻りつつある点や世界の貿易は回復基調にあると指摘した。

ただし、保護主義の高まりによるサプライチェーンの混乱と消費者物価の上昇が世界経済の成長に悪影響を及ぼすリスクを警告した。米国では中国をはじめ諸外国に対する関税の引き上げを主張するトランプ氏が大統領に就任し、今後の見通しが不透明となっている。

世界経済は物価上昇や景気減速が懸念される中で堅調さを保ってきたが、貿易の混乱などによる物価上昇の再燃や金利上昇が懸念される。米国では、政策金利が引き下げられる一方で、10年国債利回りは上昇しており、インフレへの警戒感が高まっている。

トランプ氏の政策は規制緩和や減税などが株価上昇要因となる一方で、関税引き上げや移民規制など株価下落要因となる両面があり、今後の政策の実施内容がグローバル経済と株式市場を左右すると考えられ、引き続き注目される。
 
8 Organisation for Economic Co-operation and Development, “OECD Economic Outlook, Volume 2024 Issue 2”, 4 December 2024
 
 

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(2025年01月23日「基礎研レター」)

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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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