2024年12月27日

わが国の不動産投資市場規模(2024年)~「収益不動産」の資産規模は約315.1兆円(前回比+25.7兆円)。すべての用途が前回調査から拡大

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 宮野 慎也

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(2) NOIの動向
図表-8は、各用途の平均賃料と平均稼働率等を基に算出したNOIの推移を示している。2023年のNOIは、2019年を100 とした場合、「物流施設105(前回102)」、「住宅102(同100)」、「商業施設94(同97)」、「オフィス85(同86)」は前回調査と概ね同水準であった一方、「ホテル111(同54)」は約2倍に増加した。「ホテル」のNOIは、コロナ禍の影響で施設売上高や稼働率が低迷していた前年から大きく回復し、コロナ禍前の水準も上回った。
図表-8 NOIの推移(2019年=100)
(3) キャップレートの動向
日本不動産研究所「不動産投資家調査」によれば、2024年4月時点の期待利回り(東京)について、「オフィス」が3.2%(前年比±0.0%)、「商業施設」が3.4%(同±0.0)、「住宅」が3.8%(同±0.0)、「物流施設」が3.8%(同▲0.1%)、と「ホテル」が4.3%(同▲0.2%)となり、物流施設とホテルが低下、その他の用途は横ばいであった(図表―9)。インバウンド需要の拡大によりNOIが大幅な回復を示すホテルへの高い投資意欲を確認することができる。
図表-9 期待利回り(東京)の推移
この結果、「オフィス」、「賃貸住宅」、「商業施設」はNOIとキャップレートが前回調査と同水準を維持するなか、着工床面積の増加を受けて資産規模が拡大した。

「物流施設」は、キャップレートの低下と着工床面積の大幅な増加を受けて、前年から資産規模が大きく拡大した。

「ホテル」は、着工床面積の低迷が続く一方、NOIの大幅な回復とキャップレートの低下を受けて、資産規模の伸び率が最大となった。
図表-10 資産規模への影響
2-4.立地別にみた商業施設の資産規模
商業施設はその立地環境により施設規模や入居テナントが異なる傾向にあることから、立地別の資産規模を把握することは重要である。

そこで、今回の調査では、商業施設の「収益不動産」及び「投資適格不動産」について、エリア別・立地別の資産規模推計を実施した。立地は、公表資料等に基づき、駅ビルや駅周辺施設、商店やオフィスなどが集積している地域に立地するものを「都心型」、住宅街や、幹線道路・生活道路沿いとその周辺に立地するものを「郊外型」、都心型、郊外型のいずれにも属さないものを「その他」に分類している。

商業施設の「収益不動産(69.7兆円)」をエリア別・立地別にみると、資産規模が最も大きい「関東」とそれに次いで大きい「近畿」では、「都心型」が「郊外型」の市場規模を上回っており、「関東」では「都心型」が約20.1兆円、「郊外型」が約11.8兆円、「その他」が約0.5兆円で、「近畿」では「都心型」が約7.6兆円、「郊外型」が約5.8兆円、「その他」が約0.4兆円となった。他のエリアでは、「郊外型」の資産規模が「都心型」の2~3倍程度となっており、「中部」が約5.7兆円、「北海道・東北」が約4.0兆円、「九州・沖縄」が約3.7兆円、「中国・四国」が約2.7兆円となっている(図表-11)。
図表-11  収益不動産の資産規模(商業施設:エリア・立地別)
次に、商業施設の「投資適格不動産(46.5兆円)」をエリア別にみると、「関東」では「都心型」が約13.4兆円、「郊外型」が約7.9兆円、「その他」が約0.3兆円で、「近畿」では「都心型」が約5.1兆円、「郊外型」が約3.9兆円、「その他」が約0.2兆円となった。エリア別・立地別の資産規模は収益不動産と同様の傾向がみられている(図表-12)。
図表-12 投資適格不動産の資産規模(商業施設:エリア・立地別)
近年、地域を限定して不動産投資を行う「ご当地ファンド」の構想・組成が続いているが、当該ファンドの見通しや運用を評価する上で、各都道府県の「市場ポートフォリオ」を把握することは重要である。また、地域金融機関の不動産投融資のリスク管理等にも参考にもなると考える。

各都道府県の「市場ポートフォリオ」に関し、商業施設の立地別でみると、「郊外型」は秋田県、青森県、山形県といった19の都道府県で最も高いシェア率を占めている(北海道・東北エリア5県、関東エリア1県、中部エリア3県、近畿エリア4県、中国・四国エリア6県)(図表-13)。

上記の都道府県の「市場ポートフォリオ」は全国平均と異なる構成比率であることが分かるが、「ご当地ファンド」の組成や運用にあたっては、投資対象エリアの特性を十分に踏まえた戦略の策定が求められる。
図表-13 都道府県別「市場ポートフォリオ」

(2024年12月27日「不動産投資レポート」)

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金融研究部

吉田 資
(よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 宮野 慎也

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