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サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(1)-踊り場に立つサステナビリティの社会認知と、2030年への課題

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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次に、年代別(表2)・世帯類型別(表3)の認知率では、全般的に認知率が高いのは、60~70代の男女や、既婚で高校生以上の子どもがいる世帯となった。これは2023年調査とも共通した傾向だ。
より詳しく見ていくと、若年層(20代)は、環境・エコロジー分野の「3R/4R」(男性24.9%,女性30.2%)が男女と問わず上位だが、同分野の「再生可能エネルギー」(男性37.8%、女性41.2%)、「フードロス」(男性32.6%、女性37.9%)、「カーボンニュートラル」(男性28.5%、女性29.4%)など、ビジネス寄りのキーワードは、他の世代と比べて低めにとどまった。
また、社会問題・人権・多様性分野、健康・生き方分野のキーワードをみると、若年層(20代)は、多様性やジェンダー、自己実現や精神的な豊かさに関連するキーワードの「LGBTQ+」(男性31.1%、女性34.6%)、「ウェルビーイング」(男性11.4%、女性8.8%)で高めだが、それ以外は全体的に低めとなり、特に「健康寿命」(男性27.5%、女性30.2%)、「ヤングケアラー」(男性22.8%、女性29.7%)、「地方創生」(男性21.2%、女性19.8%)、「ワーケーション」(男性10.4%、女性8.8%)など、若年層とは、やや距離感が感じられるキーワードは、全体と比べて10pt以上低めとなった。2017年・2018年の文部科学省新学習指導要領改訂12で「持続可能な社会の創り手」育成の方針が示された後、義務教育課程では、SDGsや気候変動問題の基礎学習が本格的に進められている。本調査のみからの言及は難しいが、そのような「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)13」の成果が、若年層に着実に浸透している結果とも受け取れる。
しかし、それ以外のキーワードは男性と女性で異なる特徴も見られた。たとえば、男性では「カーボンニュートラル」(57.1%)、「マイクロプラスチック」(36.1%)、「スマートシティ」(36.5%)、「生物多様性」(32.8%)など、気候変動や海洋汚染といったマクロな環境問題についての認知率が高い。
一方、女性は「フードロス」(64.3%)、「ヤングケアラー」(60.9%)など、生活に密接する社会問題についての認知率が高く、性別で傾向差があるキーワードも見られた。
次に、世帯年収(表3)や個人年収、世帯金融資産(表4)の傾向を層別に詳しく見ていく。全般的に認知率が高いのは、個人年収800万円以上、世帯年収1000万円以上、世帯金融資産1000万~2000万円以上の層となり、この傾向は2023年の調査結果と概ね一致している。
ビジネスを軸に関心が絞られる高年収層と、分野を超えて幅広い関心を持つ金融資産形成層の間で、サステナビリティについての情報接触や向き合い方の違いが伺える結果である。
12 文部科学省は2017年3月に幼稚園教育要領および小・中学校学習指導要領を、2018年3月には高等学校学習指導要領を改訂し、これらの前文や総則において「持続可能な社会の創り手」の育成を掲げている。各学校・教育機関では指導要領に基づき、各教科や総合的な学習の時間などを通じて、持続可能な社会の構築に向けた教育が推進している。
13 持続可能な社会に向けて、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことで、問題の解決に繋げる社会の創り手を育む教育の考え方。2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で日本が提唱し、SDGsの目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯教育の機会を促進する」のターゲット4.7に位置付けられている。国内では2016年12月に発表された中央教育審議会の答申に基づき、2017年・2018年に改訂された小中学校・高校の学習指導要領にその内容が反映されている。
14 西尾ちづる (2017). 社会的課題解決へのマーケティング対応 ― 地球環境問題を中心として. 企業と社会フォーラム学会誌, 6, 43-60.
持続可能な社会の推進に向けて、サステナビリティに関する知識を社会全体に広く浸透させていくことは重要な命題であるが、これをサステナブル・マーケティングの課題として捉えた時、キーワードの認知率向上に影響している要因を的確に把握することは大切な初手となる。
そこで、これらのキーワードの認知数に影響を与える属性(性別、年代、世帯類型、個人年収、世帯年収、世帯金融資産など)と、その大きさを明らかにするための統計解析15を行った。
調査対象者が認知したキーワード数を目的変数、属性(性別、年代、未既婚、子ども有無、個人年収、世帯年収、世帯金融資産)を説明変数としてモデル化した。解析の結果、キーワード認知数に対する影響が有意となった属性は次の通り(表5)となった。
世帯年収が1000万円を超える場合、キーワード認知数が一定数(13ワード以上)となる比率(オッズ比)は2.13(約113%増)、年代がシニア層(60~70代)の場合、同1.63(約63%増)となった。この結果は、世帯年収が1,000万円を超えると、キーワードを一定数(13ワード以上)認知する人の比率が増加する傾向があり、基準層と比べて約2.13倍と大幅に増加する可能性を示している。
同様に、シニア層も、キーワード認知数が一定数を超えて増える比率が1.63倍に増加する可能性がある。なお、世帯年収と年代は独立にモデルに組み込まれており、若年層であっても世帯年収が1000万円を超えると、キーワード認知数が一定数を超える比率が大幅に高まることが期待される。
なお、この統計モデルの説明力は中程度である。本稿では、基本属性に限定してモデル化したが、それ以外に、教育水準や情報接触、社会的なネットワークなどの多様な変数の影響も示唆される。
15 目的変数は、キーワード認知数とし、13ワード(44ワードの認知率における75%四分位数)以上を認知しているか否かを1-0の二値変数として設定した。説明変数は、性別(男性・女性)、年代(20代・30代・40~50代・60代以上)、未既婚(未婚・既婚)、子どもの有無(子どもあり・子どもなし)、個人年収(400万円未満、400~800万円未満、800万円以上)、世帯年収(600万円未満、600~1000万円未満、1000万円以上)、世帯金融資産(1000万円未満、1000~3000万円未満、3000万円以上)をカテゴリー化して用いた。個人年収・世帯年収・世帯金融資産の各変数は分布を考慮し、各層の構成比を3分割した。分析対象は、年収・資産に無回答がないサンプル1,048件を抽出、パラメーター推定には一般化線形モデルを用いたロジスティック回帰を適用した。係数の検定はt分布に基づいて行い、説明変数は、主効果および2元の交絡変数を投入した上で、ステップワイズ法によりモデルを決定した。決定係数は、McFadden's R²が0.131、Cox-Snell R²が0.092であり、カテゴリー変数の統計モデルとしては中程度の説明力を示している。
(2024年12月20日「基礎研レポート」)
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- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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