2024年12月17日

新NISAは日本株式を押し上げたのか

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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4――投資信託は外国株式選好

このように、新NISAの買付に伴う日本株式への個人の資金流入が限定的であった直接的な理由は、3つ考えられる。

まず1つめの理由として、NISA口座から投資信託の買付けは大部分が外国株式であったことである。組入れている資産別に新NISA対象の投資信託の設定額をみると、外国株式が日本株式以上に急増している【図表6】。証券会社10社のNISA口座からの買付上位10本の投資信託の傾向を見ても、投資枠によらず外国株式ものが中心に買付けられていることが分かる【図表7】。
【図表6】 組入られている資産別の新NISA対象投資信託の設定額
【図表7】 証券会社10社のNISA買付上位10本の投資信託の投資先地域

5――個別銘柄については短期売買

5――個別銘柄については短期売買

その一方で、NISA口座からの上場株式の買付については、証券会社10社だと約9割が日本株式となっており、大部分が日本株式の個別銘柄であった。しかし、NISA口座から買付けられた個別銘柄は、一部が早くも売却されているようだ。これが2つ目の理由としてあげられる。

元々、一般NISAでは上場株式の売却が毎年それなりに出ており、2014年から2023年の累積で上場株式を13.1兆円買付けられたが、残高は5.5兆円にとどまった【図表8】。新NISAになっても、その傾向が続いていることが考えられる。
【図表8】 一般NISA口座から上場株式の買付額と売却額
実際に証券会社9社の2024年7月から8月上旬までのNISA口座からの買付額と売却額を見ると、上場株式は投資信託と比べて買付が少ないわりに売却が多くなっている【図表9】。特に7月上旬は、売却額が同時期の買付額の3/4に達した。日経平均株価が史上最高値を更新するなど日本株式が最高値圏で推移する中、利益確定の売却が膨らんだことが見て取れる。
【図表9】 2024年7月から8月の証券会社9社のNISA口座からの買付額と売却額

6――課税口座などからの買替も発生

6――課税口座などからの買替も発生

さらに3つ目の理由として、上場株式に限った話ではないが一部で課税口座や一般NISA口座からNISA口座への買い替えがあったことである。個人の日本株式の売買は、2024年に入ってから急増している。元々、2023年秋にネット証券大手2社が日本株式の個別銘柄の売買手数料を無料化して、個人の株式売買がよりしやすくなっていた。そこに2024年は日本株式が好調となったため、活況となったと考えられる。取引の急増自体は投資環境によるところが大きかったが、課税口座や一般NISA口座から新NISAへの買い替えがあったことも背景にあっただろう。

つまり、新NISAをきっかけに日本株式に入ってきた個人の新規資金、特にとどまり続ける新規資金は、想像以上に少なかったと推察される。そもそも新NISAによって個人投資家が増えているといっても、実際に増えているのは投資経験の浅い人である。そのような人が、いきなり個別銘柄に手を出すとは考えにくい。日本株式を買い付けるとしても、投資信託経由であろう。それもあって日本株式の個別銘柄の売買については、新NISAの影響が投資信託以上に限定的になっているのかもしれない。

7――最後に

7――最後に

このように新NISAが始まっても個人の資金が日本株式に向かわなかった背景には、投資先として日本株式を魅力的に感じていない人が多いことがある。日本株式自体の投資魅力が高まってこないと、2025年以降も個人の外国株式選好や日本株式の短期売買志向が続く可能性が高そうである。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

(2024年12月17日「基礎研レポート」)

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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