コラム
2024年12月17日

日本の森林資源利用の歴史と現代注目される森林の役割~気候変動における森林のCO₂吸収機能について~

総合政策研究部 研究員 土居 優

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1――はじめに

日本は国土に占める森林面積の割合が大きい世界でも珍しい森林大国であると言われている。森林は過去から現代にかけて時代の変遷を経ながら木材資源として利用されてきた。戦後は燃料資源の転換による需要減少に加え、低価格な木材の輸入が加速したことで、国産の木材需要が減少し、管理放棄される森林が現れ始めた。しかし、森林は木材利用に留まらず多様な機能を有している。本稿では森林資源の歴史を振り返りながら、森林の現状を数値で確認し、近年注目されている森林がCO₂を吸収する役割がどのよう背景で注目を集めたのかを気候変動枠組条約や京都議定書、パリ協定と共に考察する。

2――日本における森林活用の歴史

1太古から戦前までの森林資源の利用について
森林の過去を振り返ると、日本では紀元前の縄文時代から森林が利用されていたとされ、人々は燃料や建築、土木等の用途で森林を伐採し資源として利用していた1。飛鳥時代は、古代日本における政治や文明の形成期にあたり、その影響もあり、権威の象徴として木材を多用した建造物が建てられた。平安時代にかけて法隆寺や東大寺といった大規模な神社や仏閣、古代の都である平城京、平安京などの建設が進む中、森林伐採が加速。これにより森林の荒廃が進行した。また、室町時代末期には増加する木材需要に対応するため林業技術が発展したことが「吉野林業全書」にも記録されている2

戦国時代以降、多くの武将が領地の木材を使い大きな城を築くようになり、豊臣秀吉は大阪城や伏見城、徳川家康も江戸城、二条城などといった大規模な建築物の造営のため、全国から大量の木材を調達した3。江戸時代を迎える頃には森林の荒廃による災害が深刻化し、幕府や藩は森林保全に努め、伐採の規制や造林の推進、林業技術の向上に取り組むようになった4

明治時代には西欧文化の影響で、パルプ材の利用や電柱など新たな用途での需要が生まれ5、森林資源は殖産興業の政策の一環として重要性が増した。20世紀に入り、第一次世界大戦、第二次世界大戦が勃発すると木材は武器、造船といった軍事目的や、不足する石油や石炭の代替燃料として広く活用されたことで、結果として、全国的に森林の荒廃が進行した。

このように、日本では木材需要の増加に対し、森林の保全と造林を行いながら森林資源を利用してきた。
 
1 鈴木三男・能城修一「縄文時代の森林植生の復元と木材資源の利用」(第4紀研究36巻5号、1997年1月)
2 増田勝則「吉野林業を背景に設立された奈良県森林技術センター–設立50周年を迎えて–」(木材保存39巻1号、2013年3月)
3 Discover Japan「木と生きる 2023年9月号」(株式会社ディスカバージャパン、2023年8月)
4 林野庁「令和5年度森林及び林業の動向」(2024年6月)
5 林野庁「平成25年度 森林及び林業の動向」(2014年5月)
2戦後の木材需要について
終戦後、主要都市の戦災復興のために住宅建設用の木材需要が急増し、森林伐採は加速した。しかし、1955年頃から石油やガスへの燃料転換、化学肥料の普及が進むにつれて、次第に広葉樹林は利用されなくなり始めた6
図表1 木材の需要と自給率推移 また1960年の貿易自由化計画大綱により木材の輸入が段階的に自由化され、1971年のニクソン・ショックを契機とした為替の変動相場制への移行による円高で、安価な輸入材が急増した。これらの影響で国内材の需要は急速に減少し(図表1)、国内で生産されていたスギやヒノキといった針葉樹林も管理放棄される例が増え始めた。

1990年初頭にはバブル経済の崩壊によって住宅建設需要が低下し、木材の需要は減少の一途をたどることになり、2000年代前半には木材の自給率が約19%まで落ち込んだ(図表1)。しかし、2010年以降、国内の森林資源が充実し、スギなどの合板や木質バイオマス発電の原料として国内材の需要が増加し7、木材の自給率は約40%まで回復した(図表1)。
 
6 林野庁「令和5年度 森林及び林業の動向」(2024年6月)
7 林野庁「令和4年度 森林及び林業の動向」(2023年5月)

3――日本における森林の現状

1森林面積と森林資源量について
日本が森林資源の豊富な国と評価される理由は、その広大な森林面積にある。2022年時点で、日本の森林面積は約25百万ヘクタールで、これは国土面積約38百万ヘクタールの約66%にあたる。森林構成は、広葉樹を中心とした天然林が約54%、スギやヒノキなどの針葉樹を中心とした人工林が約40%を占めており、残りの6%は伐採跡地など樹木がほとんどない場所や竹林などである。(図表2)。

過去60年間で森林の推移を確認すると、森林面積は約25百万ヘクタールで大きな変化がない。1966年から1990年にかけては人工林の割合が緩やかに増加し、森林全体の約40%に達した。一方、それ以降の30年間では天然林と人工林の割合に大きな変化は見られない(図表2)。しかし、樹木の幹の体積を合計した値である森林蓄積量は1966年の約1,887百万立方メートルから2022年には約5,560百万立方メートルとなり、約60年間で3倍以上に増加している。森林蓄積量は資源量の目安となり、これらの増加は、天然林と人工林の両方で確認できるが、特に人工林の増加が顕著になっている(図表3)。
図表2 日本の森林面積の推移/図表3  日本の森林蓄積量の推移
図表4 人工林の森林蓄積量の推移 人工林における森林蓄積量の増加が著しいのは、終戦直後や高度経済成長期に植えられたスギやヒノキなどの木々(1966年度時で1~4齢級8、つまり樹齢20年以下)が成長し、樹齢が50年を超えて伐採の時期を迎えているためである(図表4)。一方で森林面積には大きな変化がないことから、伐採量を上回るペースで樹木が成長し、森林蓄積量が増加していると考えられる。
 
8 齢級は森林の年齢を5年幅で括ったもの。人工林は苗木を植栽した年を1年生として、1齢級(1~5年生)、2齢級(6~10年生)とする
図表5 森林蓄積量の増加量と伐採量の年平均の推移 2森林蓄積量の増加量と伐採量の関係について
1960年代前半をピークに国内材の需要は減少し、森林蓄積量が増加してきた。しかし2010年頃からは再生可能エネルギーや国内材の利用促進で需要が増加していることから、樹木の伐採量も少しずつ増加している。2017-2021年度における伐採量の年平均は約48.5万立方メートルである(図表5)。一方で各年の森林蓄積量の差分とって算出した森林蓄積量の年平均増加量は同期間で63.8万立方メートルと伐採量を上回っている。また、森林蓄積量の増加量=樹木の成長量-伐採量-自然プロセスによる喪失(枯死や風倒木、病害虫被害等)で表せる9。つまり、増加量は伐採や喪失分の控除後の値あるため、森林蓄積量として年々増加している意味しており、日本の森林資源は依然として豊富であると考えられる。
 
9 林野庁「我が国の森林と森林経営の現状―モントリオール・プロセス第3回国別報告書―」(2019年7月)

4――森林の多面的機能と世間の関心ごと

前章まで森林の木材利用の歴史や需給、面積、資源量について述べたが、本章では木材用途以外の森林が持つ役割について検証する。
図表6 森林の有する多面的機能 森林は土砂災害防止や登山などのレクリエーション、他にも温暖化を緩和する地球環境保全や生態系を保全する生物多様性などといった役割があり、現在では、このような多面的な機能を果たす存在して広く認識されるようになっている(図表6)。実際に1980年から内閣府(総理府)で実施されている「森林に期待する働きの変化」のアンケートでは1980年に2位だった「木材生産」は順位を大きく下げ、1999年には「地球温暖化防止」が3位にランクインしている(図表7)。1990年代に気候変動に関する国際会議が相次いで開催されたことで、温暖化対策が地球規模での課題として注目されるようになり、この影響で企業などによる間伐10や植付けなどの森林活動が活発化したと考えられる(図表8)。こうした背景から、人々の森林に対する関心は時代と共に変化し、現在ではCO₂の吸収や生活を支える環境資源としての価値が重視されている。
図表7 森林に期待する働きの変化/図表8 森づくり活動を実施している団体の数の推移
 
10 森林の成長に応じて樹木の一部を伐採し、林内における樹木の密度を調整する作業。

(2024年12月17日「研究員の眼」)

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総合政策研究部   研究員

土居 優 (どい すぐる)

研究・専門分野
日本経済、サステナビリティ

経歴
  • 【職歴】
     2016年 日本生命保険相互会社入社
         (資産運用部門にて資金繰り、クレジット審査、ベンチャー投資業務に従事)
     2024年 ニッセイ基礎研究所へ

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