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生理を止めるという選択肢-低用量ピルからディナゲストへのパラダイムシフト、積極的に子宮や卵巣を守る時代へ-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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本稿では、月経困難症や子宮内膜症の機序とその要因、治療トレンドの変遷や治療薬に関する最新知識について概説する。
月経困難症とは、月経に付随して生じる病的な症状のことであり、月経時あるいは月経直前より始まる強い下腹部痛や腰痛を主症状として、腹部膨満感や嘔気、頭痛や疲労などの様々な症状が出現することが報告されている。また、機能性と器質性に分類され、近年は子宮内膜症などの器質性疾患が若年女性において増加している。その背景に、妊娠・出産年齢の後ろ倒し、妊娠を選択しない、妊娠・出産回数の減少、産後に人工乳を選択することにより、月経の再開が早くなり女性ホルモンの長期的な影響を受けていることが指摘されている。
月経困難症や子宮内膜症の治療薬には低用量ピルが第一選択されており、エストロゲンとプロゲステロンを低用量配合した薬剤で、脳下垂体に作用し、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌を減少させることで排卵を抑制し、その結果エストロゲンの分泌が減少することで子宮内膜の肥厚化を防ぎ、さらにプロゲステロンの分泌も減少することで月経前症候群などの症状が改善することが期待できる。
しかし、近年「生理を止める」という新しい治療薬であるディナゲストが登場した。従来の低用量ピルとは異なり、プロゲステロンのみで生成されており、卵巣の働きを抑えて排卵を停止させることが可能となった。近年、月経そのものが子宮や卵巣にダメージを与えることが判明しており、周期的に排卵を引き起こす従来の低用量ピルより子宮や卵巣を積極的に守ることができる。また、低用量ピルは血栓症のリスクが生じるため適用者の制約があったが、ディナゲストは月経を開始したばかりの若年女性や閉経間近の50歳代まで幅広い年齢層において内服が可能である。一点、内服後に不正出血のリスクが生じるが、他の薬剤同様、メリットデメリットをよく理解した上でかかりつけ医と内服薬を選択する必要がある。
今回紹介した生理を止めるという新しい選択肢が、月経の諸症状で苦しんでいる方や、受験・社会生活で不利益を被っている方々の一助となることを願うものである。
■目次
1――はじめに
2――月経困難症・子宮内膜症と現代女性のリスク
1|月経困難症と子宮内膜症
2|未産・晩産・妊娠回数の減少により生涯の月経回数が増加
3――月経困難症や子宮内膜症に対する治療法
1|従来の低用量ピル
2|最新のトレンドは「月経を止める」ディナゲスト
(2024年12月17日「基礎研レター」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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