2024年12月13日

ECB政策理事会-3会合連続となる利下げを決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:3会合連続利下げ

12月12日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)

【記者会見での発言(趣旨)】
・見通しは実質成長率を24年0.7%、25年1.1%、26年1.4%、27年1.3%と予想(下方修正)
(前回9月は24年0.8%、25年1.3%、26年1.5%
インフレ率を24年2.4%、25年2.1%、26年1.9%、27年2.1%と予想(下方修正)
(前回9月は24年2.5%、25年2.2%、26年1.9%
コアインフレ率を24年2.9%、25年2.3%、26年1.9%、26年1.9%と予想(下方修正)
(前回9月は24年2.9%、25年2.3%、26年2.0%
0.25%ポイントの利下げは理事会メンバー全員の合意を得た
0.50%ポイントの可能性を検討する提案もあった
これまでよりもインフレリスクは上振れと下振れの両面にある

2.金融政策の評価:ディスインフレ過程は順調に進んでいるとして連続利下げを決定

ECBは今回の会合で、ディスインフレ過程が順調に進んでいる(on track)として、市場予想通りとなる預金ファシリティ金利の0.25%ポイントの引き下げを決定した。今年6月に利下げを開始して以降、4回目の利下げ(9月以降は3回連続での利下げ)となった。

今回の会合ではスタッフ見通しが作成され、市場の政策金利見通しがやや低下するなか1、成長率とインフレ率が双方とも下方修正された。また、公表された声明文では「十分に制限的」などの表現が変更された。

これまで利下げが進み、足もとでは利下げペースが加速、声明文の表現も変更されたため、記者会見では今後の利下げ方針や、中立金利に関する質問が目立った。

ラガルド総裁は、今後の政策金利方針はこれまでと同様、金利経路は事前に確約しないこと、データに依存して会合毎に決定を行うという従来通りの姿勢を示した。声明文の文言修正も、1.0%ポイントの利下げや、インフレ率が目標に近づいた点を踏まえた自然な変更であり、今後の政策についての示唆はないとの趣旨を回答している。

中立金利ついては時期尚早で、今回の会合でも議論しなかったとする一方、1年ほど前に公表されたレポートに言及、以前よりも少し高くなっていると見られることや具体的な推計範囲(1.75%から2.5%)に言及した上で、金利がこの付近に到達したら議論するだろうとも回答している。

なお、前回10月会合でラガルド総裁はインフレリスクについて、やや下振れリスクが大きいと(個人的に)考えていることを明らかにしていたが、今回の会見では、インフレリスクは両面にあると(メンバーの共通認識を)回答している。ただし、上振れリスクの警戒感が強かったこれまでよりも、下振れリスクへの警戒感が強まっているという趣旨であり、これまでのリスク認識には大きな変化はないと思われる。

金融政策姿勢については、データ次第の姿勢に変化はないものの、見通しが下方修正されるなど景気下振れによるディスインフレの加速への警戒感が増している状況は変わっていないと見られる。インフレリスクが上下にあるため、今後利下げ幅を拡大させる可能性は小さいと思われるが、最新の見通し通り、景気回復の足取りが遅い状況が続けば、中立金利付近までの利下げを阻む障害も大きくないと考えられる。
 
1 スタッフ見通しでは政策金利経路の前提は明かされていない(具体化されていない)が、3か月EURIBORの前提が24年3.6%、25年2.1%、26年2.0%、27年2.2%と9月の前提(24年3.6%、25年2.4%、26年2.2%)から引き下げられている。

3.声明の概要(金融政策の方針)

今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 理事会は、更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、本日、特に理事会が金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利など3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
 
  • ディスインフレ過程は順調に進んでいる(on track)
    • スタッフのインフレ見通しは年平均で24年2.4%、25年2.1%、26年1.9%、拡大されたEU排出量取引制度が運用される27年には2.1%である
    • エネルギーと食料品を除くインフレ見通しは年平均で24年2.9%、25年2.3%、26年と27年で1.9%である
 
  • 基調的なインフレ指標のほとんどが、インフレ率が理事会の中期の2%目標前後に持続的に落ち着くことを示唆している
    • 域内インフレ率は緩やかに低下しているが、依然として高く、特定部門の賃金や物価が過去のインフレ高騰に対して遅れて調整を続けていることが主因である
 
  • 理事会の最近の利下げにより、企業や家計に対する新規貸出費用が段階的に低下しているため、金融環境は緩和している
    • しかしながら、金融政策は引き続き制限的であり、過去の利上げが信用残高に依然として影響しているため、金融環境の引き締まりは継続している
 
  • スタッフは9月見通しと比較してより遅い経済回復を予想している
    • 今年7-9月期は成長率が加速したが、サーベイ指標からは今期の減速が示唆されている
    • スタッフは経済成長率が24年0.7%、25年1.1%、26年1.4%、27年1.3%と見ている
    • 予想された回復は、主に、家計のより多くの消費や企業の投資上昇をもたらす実質所得の上昇にかかっている
    • 時間の経過につれて、制限的な金融政策の効果が解消し、域内需要の改善を支えると見られる
 
  • 理事会は、確実にインフレ率を中期的な2%目標で持続的に安定させると決意している(「速やかに…目標に戻す」との表現を修正
    • 理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う(「適切な制限水準と期間を決定するため」との表現を修正
    • 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
    • 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
    • 「この目的のために、政策金利を必要とされる期間にわたり十分に制限的に維持する」との表現は削除
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定)
    • 預金ファシリティ金利:3.00%
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:3.15%
    • 限界貸出ファシリティ金利:3.40%
    • 24年12月18日から実施
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(内容の変更なし)
    • ユーロシステムはもはやPEPPの元本償還の全額を再投資せず、月額平均75億ユーロ削減する
    • 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性についての記載は削除
    • (「理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する」の記載は削除)
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(現状認識の更新
    • 銀行は今月には貸出条件付長期資金供給オペで、残った借入の返済を行うと見られこれによりバランスシートの正常化過程の当該部分が終了する
    • (「理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する」の記載は削除)
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(内容の変更なし)
    • インフレが2%の中期目標で持続的に安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • 経済は7-9月期に予想を上回る0.4%成長となった
    • 成長は、主に、夏の旅行拡大という一時的な要因を含む消費の増加と企業の在庫積み増しによって主導された
    • しかし、最新の情報では勢いが弱まっていることが示唆されている
    • サーベイ指標では製造業が引き続き縮小し、サービス業の成長も鈍化している
    • 企業は需要の弱さと見通しの高い不確実性から投資支出を控えている
    • 輸出もまた弱く、いくつかの欧州産業は競争力維持が課題である
 
  • 労働市場は引き続き強靭である
    • 雇用者数は7-9月期に予想を上回る0.2%成長となった
    • 失業率は10月に6.3%と引き続き歴史的低水準で推移している
    • その間、労働需要は弱まっている
    • 欠員率(job vacancy rate)は7-9月期に2.5%に低下し、ピークよりも0.8%ポイント低く、サーベイ調査もまた今期の求人がさらに少ないことを示している
 
  • 以前の見通しよりもゆっくりとだが、時間の経過とともに経済は強くなると見られる
    • 実質賃金の上昇が家計支出を強化するだろう
    • より利用しやすい信用供与が消費や投資を押し上げるだろう
    • 貿易摩擦が激化しなければ、世界的な需要の改善に伴い、輸出も回復を支えるだろう
 
  • 財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的、競争的、強靭化させるよう実施されるべきである
    • そのために、マリオ・ドラギ氏の欧州の競争力強化のための提案と、エンリコ・レッタ氏の単一市場強化の提案を、具体的かつ野心的な構造政策を伴う形で迅速に追求することが肝要である
    • 我々は、EUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)の一部である、欧州委員会による、各国政府の財政・構造政策の中期計画(medium-term plans for fiscal and structural policies)への評価を歓迎する
    • 政府はこの枠組みのもと、完全に遅延なく自信の確約(commitments)を実行することに焦点をあてるべきである
    • これにより、成長促進の改革と投資を優先させつつ、政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう

(2024年12月13日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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