2024年12月06日

インド経済の見通し-内需主導で6%台後半の高成長軌道が続く

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.333]

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1―5四半期ぶりに7%割れの成長に

2023年度は世界的な景気減速と物価上昇、インド準備銀行(RBI)の金融引き締めが逆風となったにもかかわらず、インド経済は堅調な国内需要に支えられて3年連続で年間+7%以上の成長を記録したが、2024年4-6月期は実質GDP成長率が前年同期比+6.7%と、前期の同+7.8%から低下して5四半期ぶりに7%割れの成長となった[図表1]。
[図表1]インドの実質GDP成長率
4-6月期の成長率低下は統計誤差と政府支出による影響が大きい。統計誤差は純間接税(間接税-補助金)の増勢が鈍化したため成長率寄与度がマイナスとなった。また4-6月期のほとんどが選挙期間中で政府支出が制限されていたため、政府消費(▲0.2%)が低調だった[図表2]。
[図表2]連邦政府の歳出の推移
一方で民間消費と投資、純輸出は改善した。まず民間消費(同+7.4%)は前期の同+4.0%から加速した。農村部を中心に総選挙関連の消費支出が拡大したほか、都市部は4-6月期の失業率が6.6%と低水準で推移するなど雇用情勢が安定しており[図表3]、消費の好調に繋がったとみられる。総固定資本形成(同+7.5%)も加速した。4-6月期の中央政府の資本支出は同▲35%と低調だったことから、民間投資主導で回復したようだ。総選挙の行方を様子見していた企業が選挙結果判明後に投資再開に動いたと考えられる。
[図表3]都市部の失業率と労働参加率
純輸出は財・サービス輸出が同+8.7%と堅調な伸びが続いた。財輸出は、昨年は地政学リスクの高まりを受けて低調だったが、24年は先進国経済の改善により緩やかな増加傾向にある。またサービス輸出はITサービスが好調だった。一方、財・サービス輸入は同+4.4%と、輸出を下回る伸びにとどまった結果、純輸出の成長率寄与度は同+0.7%ポイント(前期:+0.1%ポイント)と拡大した。

以上より、インド経済は4-6月期の成長率が低下したものの、統計誤差や選挙要因によるものであり、一時的な減速となりそうだ。むしろ民間投資と民間消費、輸出は加速しており、全体的にみるとマクロ経済は概ね良好であった。

2―食品供給が増加しインフレ鈍化へ

インフレ率(消費者物価上昇率)については、10月は大雨の影響で野菜価格が高騰して前年同月比+6.2%まで上昇した[図表4]。しかし今後は食品の供給量が拡大して徐々にインフレ圧力が和らぐと予想される。今年度のカリフ作の穀物生産量は南西モンスーンの良好な降雨と作付面積の増加により前年比+5.7%と好調が予測されている。また米国で金融緩和が段階的に進むと、通貨ルピーの下落圧力は和らぐものとみられ、インフレの安定に繋がるだろう。結果として、今後インフレ率は再び4%台へと緩やかに鈍化していくことになり、23年度の+5.4%から24年度が+4.9%に低下すると予想する。
[図表4]消費者物価上昇率

3―25年2月に利下げ開始を予想

RBIは2022年から2023年2月にかけて政策金利(レポレート)を4.0%から6.5%まで引き上げたが、その後は現在まで政策金利を据え置いている。先行きは金融緩和に舵を切ると予想する。RBIは10月の金融政策委員会(MPC)で足元の食品価格の上昇にもかかわらず、好天に伴う農業生産の拡大により食品インフレに対する警戒感が後退しており、今年度のインフレ予測を4.5%に据え置き、金融政策のスタンスを「緩和策の撤回(引き締め的)」から「中立」に変更している。10月のCPI上昇により12月の会合では金融政策の据え置きが濃厚となったが、今後数カ月でインフレ率が鈍化傾向を辿れば、来年2月の会合で政策金利の引き下げを開始する道が開けるだろう。RBIは2025年度末にかけて計3回の利下げを実施すると予想する。

4―選挙後の本予算は農業・雇用重視

インドでは例年2月に国家予算案(会計年度は4月開始)が発表されるが、4-6月に総選挙が行われたため、7月下旬に改めて2024年度の本予算案が発表された。インド人民党は総選挙で大きく議席を減らしたが、政権を維持したため、基本的な枠組みは暫定予算から大きく変わらず、歳出総額は前年度比7.0%増の48兆2,051億ルピー(約89兆円)、公共インフラが中心の資本的支出は11兆1,111億ルピー(約21兆円、前年度比+11.0%)だった[図表5]。歳出は暫定予算案比1.1%増の微増だが、国有企業の国庫納付金が増加したため財政赤字はGDP比4.9%と、暫定予算の同5.1%から上方修正された。事前の予想通り連立政権を組む地域政党2党の要求に応える形でアンドラプラデシュ州とビハール州への財政支援は盛り込まれたが、財政赤字の拡大を回避して財政健全化路線を堅持したことは評価できる内容だった。

予算の優先項目としては(1)農業の生産性向上、(2)雇用・技術、(3)人材育成、(4)製造業・サービス、(5)都市開発、(6)エネルギー安全保障、(7)インフラ開発、(8)イノベーションと研究開発、(9)次世代改革の9つの分野を掲げた。例えば(1)の農業部門については、生産性の向上に重点が置かれて高収量品種の導入や自然農法の開始、エビ養殖と加工・輸出の促進、デジタル公共インフラの整備などが盛り込まれ、農業・関連活動の予算項目は暫定予算から+3.4%積み増しとなった。(2)雇用・技術については雇用連動インセンティブとして3つの給付制度(新規雇用に対する給付、製造業対象の上乗せ給付、雇用主支援)の実施が発表された。2兆ルピー(約3,7兆円)の支出を行い、今後5年間で4,100万人の雇用を創出する計画だ。なお国連によると、インドは総人口が2064年にピークを迎えて16億9,704万人に達すると予想されており、労働力人口の増加に対応するために2050年までに1億4,300万~3億4,100万の雇用を創出する必要があるとされている。
[図表5]2024年度国家予算案概要

5―内需主導の高成長軌道を維持

インド経済は物価高と引き締め的な金融政策により成長ペースが鈍化傾向にあるが、7-9月期は政府支出の加速により景気減速を回避し、24年度後半も6%台後半の内需主導の成長が続くとみられる。政府支出は2024年度前半が総選挙と重なったため政府支出が抑制されたが、今後は予算執行が加速するため政府消費と公共投資がGDPを押し上げる展開となりそうだ。民間部門は今後のインフレ圧力の後退と金融緩和の開始が徐々に追い風となるとみられる。上述のとおり今年度はカリフ作の収穫量が拡大すると見込まれ、農村部の消費が促進されると共に、良好な雇用環境にある都市部の消費も順調に推移しそうだ。特に10-12月期は多くのインド人が高額商品を購入する祭事期であり消費需要が伸びやすい時期にあたる。民間投資も第3次モディ政権の発足により生産連動型インセンティブ制度をはじめとした成長重視の政策が続くことから企業マインドが改善して投資は堅調に推移するだろう。多国籍企業では中国に依存したサプライチェーンを多様化させることを目指してインドに生産拠点を設ける動きが続くとみられる。

外需は世界経済の安定成長とITサービスの好調により財・サービス輸出は緩やかな増加が続くだろう。しかし輸入は内需拡大を背景に堅調な伸びが続くとみられるため、外需の成長率寄与度は再びマイナス寄与となりそうだ。

以上の結果、24年度の実質GDP成長率は前年度比+6.8%となり、23年度の同+8.2%から低下するものの、高成長軌道を維持すると予想する[図表6]。
[図表6]経済予測表

(2024年12月06日「基礎研マンスリー」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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