2024年12月02日

2025年度の年金額の見通しは1.9%増で、年金財政の健全化に貢献 (後編)-2025年度の見通しと注目点

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫

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2025年度の年金額は、2025年1月24日に公表される見込みである1。本シリーズ(前後編)では、年金額改定の仕組みを確認し2、現時点のデータに基づく粗い見通しと注目ポイントを考察する。本稿(後編)では、前編3で確認した年金額改定のルール(図表1)を踏まえて2025年度の見通しを試算し、その注目点を確認する。
図表1 年金額の改定ルール (2021年度以降)
 
1 年金額の改定は、前年(1~12月)の物価上昇率が発表される日(原則として1月19日を含む週の金曜日)に公表される。
2 より詳しい仕組みや経緯は、拙稿「年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持-2024年度の年金額と2025年度以降の見通し(1)」「将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整-2024年度の年金額と2025年度以降の見通し(2)」を参照。
3 拙稿「2025年度の年金額の見通しは2.0%増で、年金財政の健全化に貢献 (前編)-年金額改定の仕組み

1 ―― 2025年度の見通し(筆者試算)

1 ―― 2025年度の見通し(筆者試算):名目額は前年度比+1.9%の見通しだが、実質的には目減り

1|改定に関係する指標の動向:物価と賃金は上昇。加入者は適用拡大の影響で増加
年金額改定に関係する経済動向を確認すると、図表2のようになっている。
図表2 年金額改定に関係する経済動向 (前年同月比)
(1) 物価上昇率:2~9月は安定的に推移し、2024年(暦年)平均では+2.6%と仮定
物価上昇率は、2025年度の改定に影響する2024年(暦年)の動向のうち、10月までは実績が判明している。1月は前年の上昇率(前年同月比)が高かった反動で+2.2%だったが、2~9月は+2.5~3.0%の範囲で推移し、10月は+2.3%となった(図表2左)。今後については、弊社の経済見通し(2024年11月18日公表版4、四半期ごと)では10~12月の平均を+2.6%と想定している。これらを考慮して、2024年(暦年)の物価上昇率を+2.6%と仮定する。
(2) 賃金上昇率:物価の伸びに追いつかず、2023年度の実質は-1.4%と仮定
賃金上昇率は、計算に用いられる賃金が年金保険料や年金額の計算に使う標準報酬であることに加え、性別や年齢構成等の変化による影響や厚生年金の適用拡大による影響を除去して上昇率が計算されるため、正確な把握が難しい。

標準報酬の大部分を占める標準報酬月額は、通常は4~6月の給与をもとに9月に定時改定される。2023年度の標準報酬月額(共済以外)の動向を見ると(図表2中)5、4-6月に前年同月比+0.7%程度で推移した後、7月から上昇率が徐々に拡大し、10月以降は+1.6%前後で推移した。前述したように、年金額の改定では賃金上昇率から適用拡大の影響が除去される。公表されている資料では2022年10月に拡大された影響を直接には把握できないが、2022年10月以前に厚生年金が適用されていた方も含む短時間労働者全体を除いて賃金上昇率を計算すると、前年は適用拡大前であった4-9月は厚生年金加入者全体よりも高い水準で推移したが(図表2中の点線)、前年も適用拡大後に該当する10月以降は厚生年金加入者全体と同程度で推移した。

また、標準報酬のもう1つの構成要素である標準賞与は、対象者数が特に多い6・7・12月の加重平均で前年同期比+1.0%となり、厚生年金加入者全体に占める賞与支給者の割合は1.027倍であった(共済以外かつ短時間労働者以外・図表割愛)。

この2要素(標準報酬月額(共済以外)と標準賞与(共済以外))以外に共済年金分や性年齢構成等の変化の除去も考慮する必要があるが、現時点の資料では把握できないため、ここでは前述の2要素から2023年度の標準報酬の変動率を+1.8%と仮定する6。この+1.8%は名目の変動率であるため、2023年(暦年)の物価上昇率+3.2%で実質化した-1.4%を、2022年度の実質賃金変動率と仮定する。
 
5 2025年度の年金改定率を計算する際に2024年度の実質賃金変動率が参照されないのは、改定率を決める1月時点では2024年度が終わっていないためである。後述する公的年金の加入者数も同様である。
6 2021年度末の厚生年金加入者4065万人のうち共済年金(公務員共済と私学共済)の加入者は472万人であるため、共済年金を考慮しなくても大きな影響は生じない。2021年度の実質賃金変動率は、この方法で計算した値が+1.4%、実績が+1.2%だった。
(3) 公的年金の加入者数:適用拡大の影響で、2023年度は+0.2%と仮定
公的年金の加入者数(共済以外)は、2023年4月の前年同月比+0.4%から徐々に増加傾向が弱まり、10月には前年の厚生年金の適用拡大の影響が剥落して増加率が大きく縮小し、年度平均では+0.2%となった(図表2右)。増加率としては小幅に見えるが、これまでの少子化を考えれば、公的年金の加入者数は減少してもおかしくない。小幅とはいえ増加しているのは、高齢期就労が進展している影響と考えられる7。なお、共済年金の状況は現時点の公表資料では把握できないため、2023年度の公的年金加入者数の変動率を前述の+0.2%と仮定する。
 
7 適用拡大の対象者のうち、20~59歳は厚生年金適用前も国民年金の加入者として公的年金加入者に含まれているため、公的年金加入者の増加要因は60歳以上が中心である。

(2024年12月02日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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