2024年11月19日

2047年までに、すべての人に保険を(インド)-インドの保険監督当局(IRDAI)の検討状況を紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――はじめに

インドは経済的には急成長している国のひとつであるが、保険という面から見ると実際の普及率や保険加入率などは、統計の取り方によって一概には何とも言えない。しかし、少なくとも保険監督当局は、まだ自国における保険普及は充分ではないと認識しているようだ。そういった事情もあって、表題の通り、2047年までにすべての人やモノに、必要な保険を、という政策が進められている。今回はこの動きについて紹介する。

2――2022,2024のイベントとプレスリリース

2――2022,2024のイベントとプレスリリース

12022.7プレスリリースの内容
2022年のインド保険規制開発局(Insurance Regulatory and Development Authority Of India:IRDAI)のプレスリリース1によれば、インドにおける保険の普及策について、2047年達成を目指して、以下のような取り組みを行なっていくとされている。
 
・2047年までに、「すべての人に保険」を実現し、すべての国民が適切な生活を送り、健康と財物の保険カバーができるようにする、そして、全ての会社が、それぞれ適切な事業保険に加入して、インドの保険セクターを、世界的に魅力あるものにすることを目指す。

・これらを達成するために、保険契約者にとって手頃な価格で、アクセスしやすく幅広い選択肢を与えるような保険商品を提供すべく、健全な競争を可能とする環境を培うために、進歩的、支援的、促進的な、将来を見据えた規制を構築する努力がなされなければならない。
 
この改革計画は、インド政府が保険に限らず、金融インクルージョン(貧富の差などに関わらず、誰もが必要な金融取引にアクセスできるようにすること)に向けた改革を強く推進することから保険についても発想されている取組内容である。
 
IRDAIが目指すのは、保険事業の環境に大きく影響する3つの柱、すなわち保険契約者・保険会社・保険代理店を、以下のように様々な観点から「強化」していくことである。
 
・適切な保険商品を、必要とする顧客に提供すること
・しっかりとした苦情救済の仕組みを構築すること
・保険セクターに容易にビジネス参入できるようにすること
・規制の構築は市場の動向に適合していること
・テクノロジーの主流化とプリンシプルベースの規制へ移行しながら、イノベーション、競争力、流通効率を高めること。
 
こうした目的に向けて、様々な規制を改正することにつき、利害関係者の意見を求めていく。この後、保険会社、保険代理店(個人も法人も含む)、保険専門家との間で議論を行なっていくこととする。その過程においても、慎重な評価コメントや新たな提案が行われることが予想される。

規制の改正内容は保険諮問委員会(Insurance Advisory Committee 1999年IRDA法に基づく諮問会議)でも検討された。
 
2022.11.25当局会議において、より具体的に提案された重要な項目は以下のようなものである。
 
1.インド保険会社の登録
プロセスを簡素化し、ビジネスを容易にする目的で、保険会社の子会社も保険代理店となれるように、また単一の投資家の割合を引き上げるなど規制を緩和すること

2.保険代理店の提携限度額の引き上げ
ひとつの保険代理店が提携できる保険会社の数を増やすなどの条件拡大

3.保険規制におけるサンドボックスの提供
革新的な商品等を開発する目的で、保険会社や保険代理店に対する規制や認可などに関して、一時的・試験的な緩和などテスト環境(いわゆるサンドボックス)を提供し、課題を見出し修正するという試みを継続すること

4.その他の形態の資本
劣後債の発行による資金調達を可能にするための手続きの簡素化など

5.アポインテッドアクチュアリーの設定
保険会社の支払能力を維持するために重要な役割を果たすアポインテッドアクチュアリーの資格要件の柔軟化

6.損害保険会社の支払能力基準の改定
資本を効率的に活用できるよう、ソルベンシー規制における、作物保険などいくつかの保険種目のリスク係数を引き下げること

7.生命保険会社の支払能力基準の改定
上記同様、生命保険会社についてもユニットリンク保険やPMJJBY2についてリスク係数を引き下げること

8.保険会社の上場とその承認

9.現在ほとんど行われていない保険会社の合併承認
10.具体的な新規保険会社の登録
 
これらの規制案に寄せられた様々な意見について審議が継続され、また保険会社、保険代理店などとの対話も行われ、2022年11月23日、さらにパブリックコメントにかけられた。
 
1 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=1624671
2 PRADHAN MANTRI JEEVAN JYOTI BIWA YOJANA
適当な訳語が見当たらないが、生命保険商品の一種で、主に中核的な年齢層の貯蓄口座保有者に提供される低いコストのもの
22024年8月の会議(ムンバイ)を受けたプレスリリース3
2024年8月23,24日に、保険評議会の主催で、「2047年までにすべての人に保険を、に関するシナリオ会議」が、ムンバイで開催された。そこでは現在の方針における基本的な課題が提示された。

この会議には保険会社、保険代理店、IRDAIの代表が参加した。さらにコジコードにあるインド管理大学の共同チームが参加し、学術的な観点から理論体系に則った助言や研究サポートが行われた。
 
特に、インド社会・市民生活の多様性を前提に、人口動態の状況をより適切に反映するよう設計された保険商品の開発と、保険プロバイダーの多様化の必要性を検討した。販売チャネルの拡大も大きな課題であり、インド社会各層に提供される保険商品が、いかなるものであるべきかを検証した。

当然この議論には、手頃な保険料で提供される簡易な保険商品もあれば、より高度な保障を提供するような保険商品もある、という意味で様々な商品等が検討された。
 
それらとは別に、保険業界全体にとって重要な追加案件も取り上げられた。例えば、保険会社の資本規模の成長に見合うキャパシティの拡大の必要性、効果的な再保険の活用やリスク管理戦略である。

さらには顧客第一の考え方に基づくサービスの提供と苦情対応の改善も必要とされた。
メディア戦力に注力することも重要な議論のテーマとなったし、インシュアテックといった保険技術の進歩・革新にも焦点が当てられた。

3――おわりに

3――おわりに

こうした方策の中身は、主に保険会社の業務と規制・監督サイドの要請をいくらか緩める方向で、保険業務に許される幅を拡げていく方向の変更を伴うようである。これはまた、保険加入者サイドに保険のニーズがあれば、それに柔軟に対応できるような方向での経営方針ということでもあるようだ。

顧客サイドのニーズは、経済発展の著しい都市部では大いに拡大しているところだろうが、「すべての人に」という部分は、上記の報告書等でも言及されるように、社会の多様性がおおいにある中ではどの程度実現されるだろうか。約20年かけた2047年目標であるから、現在はまだ想像できないくらいの成長後の姿をみてということで、産業や人々の生活意識の変革など社会全体の中での、保険の役割というものを見据えたものであろう。引き続き今後の動きを紹介していくこととしたい。

(2024年11月19日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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