2024年11月18日

2024~2026年度経済見通し(24年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

2.実質成長率は2024年度0.4%、2025年度1.1%、2026年度1.2%を予想

(年率1%前後の成長が続く見通し)
2024年7-9月期の実質GDPは、所得税・住民税減税の効果で民間消費が高い伸びとなったことを主因として2四半期連続のプラス成長となった。先行きについては、減税効果は減衰するものの、実質賃金の持ち直しに伴う実質可処分所得の増加が消費を下支えすることが見込まれる。また、設備投資は一進一退の状態から抜け出せずにいるが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。

下振れリスクとしては、トランプ次期大統領の経済政策を受けた世界経済の急減速、物価の上振れに伴う実質所得の低迷を主因とした消費の腰折れなどが挙げられる。

実質GDP成長率は2024年度が0.4%、2025年度が1.1%、2026年度が1.2%と予想する。2024年度はゼロ%台前半の低成長にとどまる見込みだが、これは2024年1-3月期の成長率が前期比年率▲2.4%の大幅マイナス成長になったことにより、2023年度から2024年度にかけての発射台が▲0.7%のマイナスとなったことが影響している。年度内成長率(前年度最終四半期から当年度最終四半期までの伸び)は2024年度が1.5%、2025年度が1.1%、2026年度が1.2%となる。基調としては2024年度から2026年度にかけて1%台の成長が続くと判断している。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(経済対策による景気押し上げ効果は限定的か)
政府は11月中に総合経済対策をまとめる予定としている。現時点の報道では、住民税が非課税となっている低所得者世帯への給付、うち子育て世帯への追加給付、電気・都市ガス代の補助再開、ガソリン、灯油等への補助の延長などが検討されており、2024年度補正予算案の一般会計歳出総額は13兆円を上回るとされている。

ただし、近年は経済情勢にかかわらず大型補正予算を編成することが常態化しているため、今回の追加的な支出や減税、補助金がそのまま経済活動を押し上げると考えるのは適当ではない。今回の追加歳出額は2023年度補正予算における追加歳出額13.2兆円と同程度とされているが、2024年度当初予算は112.6兆円と2023年度当初予算の114.4兆円を若干下回っているため、当初と補正を合わせた予算規模は2024年度のほうがやや緊縮気味という見方もできる。

また、コロナ禍以降、巨額の予算が消化しきれない状況が続いていることも問題である。2023年度の予算の未使用額は18.0兆円(うち翌年度繰越額が11.1兆円、不用額が6.9兆円)と2022年度の29.3兆円(うち翌年度繰越額が18.0兆円、不用額が11.3兆円)に比べれば減少したものの、引き続きコロナ禍前の水準を大きく上回っている。今回の経済対策による景気押し上げ効果は限定的と考えるべきである。
歳出総額(一般会計)の推移/補正予算と未使用額(翌年度繰越額+不用額)
家計貯蓄額、貯蓄率の推移 (可処分所得に左右される個人消費)
家計貯蓄率は、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.1%へ急上昇した。その後、行動制限の緩和による消費の持ち直しや物価高の影響で貯蓄率は低下傾向が続き、2023年中はほぼゼロ%で推移したが、2024年入り後は低所得者向けの給付、所得税・住民税減税によって可処分所得が大きく押し上げられる一方、消費の伸びが緩やかにとどまったことから、2024年4-6月期には3.7%へ上昇した。7-9月期の家計貯蓄率は未公表だが、消費が高い伸びとなったことを踏まえると、コロナ禍前1と同水準の1%台まで大きく低下した可能性が高い。
実質家計消費と実質可処分所得の推移 したがって、今後の消費を左右するのは、一時的な要因を除いた基調的な実質可処分所得の動向である。実質可処分所得は所得税・住民税減税の効果剥落によって一時的に減少した後は、名目賃金の高い伸び、物価上昇率の鈍化に伴う実質雇用者報酬の増加を主因として底堅く推移するだろう。

民間消費は2023年度に前年比▲0.6%と3年ぶりに減少したが、2024年度が同0.9%、2025年度が同1.1%、2026年度が同1.0%と緩やかな増加が続くと予想する。

2024年度は実質雇用者報酬の伸びは小幅にとどまるが、所得税・住民税減税が可処分所得を押し上げる。2025年度以降は減税効果が剥落する一方で、実質雇用者報酬の伸びが高まることが実質可処分所得の増加に寄与するだろう。
 
1 コロナ禍前(2015年~2019年平均)の家計貯蓄率は1.2%
(人手不足が設備投資の回復ペースを抑制)
2023年度の設備投資は前年比0.3%の低い伸びにとどまったが、2024年度が同2.2%、2025年度が同2.7%、2026年度が同2.6%と緩やかな回復が続くことが予想される。

日銀短観2024年9月調査では、2024年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が6月調査から▲0.5%下方修正されたが、前年度比10.1%の高い伸びとなった。

設備投資のうち機械投資の先行指標である機械受注、建設投資の先行指標である建設工事受注は横ばい圏で推移しているが、機械受注残高、建設工事受注残高は増加傾向が続いている。高水準の受注残高は先行きの設備投資拡大を示唆すると同時に、受注は受けたものの人手不足などの供給制約により機械の生産や建設工事が進んでいないことを反映している可能性がある。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、デジタル化に向けた情報関連投資、Eコマース拡大に伴う建設投資などを中心に、基調としては回復の動きが続いていると考えられるが、人手不足などの供給制約が設備投資の抑制要因となっているため、増加ペースは緩やかにとどまるだろう。
設備投資計画(全規模・全産業)/機械、建設受注残高

(2024年11月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【2024~2026年度経済見通し(24年11月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2024~2026年度経済見通し(24年11月)のレポート Topへ