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- 中国は不動産不況と米国リスクをどう乗り越えるか-相次ぎ発表される経済政策の現状評価と今後の見通し
2024年11月15日
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長期化する不動産不況の影響が広がる中国において、足元では今後の経済を左右しうるイベントが続いている。ひとつは、上振れ要因となりうる追加経済対策を巡る動き、もうひとつは、下振れ要因となりうる米国大統領選挙でのトランプ氏の再選である。不動産不況という「内憂」と、再びリスク要因として浮上してきた米国の対中政策という「外患」に対して、中国はどのようなスタンスで臨む考えなのだろうか。本稿では、2024年9月下旬以降に相次いで発表された追加経済対策を評価したうえで、当面の見通しを展望したい。
1――続く「内憂」と強まる「外患」


2――現時点の中国の経済対策の評価
こうした状況下、中国は追加の経済対策を講じることで難局を乗り切ろうとしている。追加対策強化の方針が示された中央政治局会議(24年9月26日開催)前後で発表された主な政策は、図表3の通りだ。足元では不動産不況による内需不足が根強いことから、需要を刺激するための財政出動や不動産市場改善に向けた抜本的対策に対して、市場の関心が高まっている状況だ。それに対して、中国政府からこれまでに発表された具体的な財政政策と不動産政策の詳細は、それぞれ以下に述べる通りであり、市場の期待とはかい離がある。経済情勢の改善に向けてプラスには作用するものの、停滞する現状を目覚ましく改善させるほどの効果は期待できなさそうだ。
1|期待された財政出動は空振りに
財政政策に関して、最も関心が集まっていたのは、24年11月4日~8日に開催された全国人民代表大会常務委員会の結果だろう。市場では大規模な景気刺激策を期待する向きもあったが、閉幕日に発表された実際の対策は、数年をかけて10兆元規模の地方政府の隠れ債務を地方政府の債務へ付け替えるというものであった1。市場の予想に対して、規模は大規模となったが、内容は期待されていた需要刺激策とは異なるものとなった2。
財政政策に関して、最も関心が集まっていたのは、24年11月4日~8日に開催された全国人民代表大会常務委員会の結果だろう。市場では大規模な景気刺激策を期待する向きもあったが、閉幕日に発表された実際の対策は、数年をかけて10兆元規模の地方政府の隠れ債務を地方政府の債務へ付け替えるというものであった1。市場の予想に対して、規模は大規模となったが、内容は期待されていた需要刺激策とは異なるものとなった2。

1 具体的には、6兆元の置換債を3年にわたり発行するとともに、24年~28年にかけて毎年発行する地方政府専項債のうち8,000億元分(5年で4兆元)を債務解消に充当する方針が示された。このほか、バラック再開発と呼ばれる都市再開発で生じた隠れ債務2兆元について、29年以降、自然体での償還が見込まれるという。財政部からは、対策の発表と併せて、地方政府の隠れ債務が23年末時点で14.3兆元であることが初めて明らかにされた。このうち上記の合計12兆元分については、今回の借り換え措置等を通じて償還の目途がつくため、残りの2.3兆元分について、地方が自力で解消に努めることとされた。
2 なお、10兆元の対策以外に発表された財政政策としては、国家発展改革委員会が10月8日実施の記者会見において、2025年度予算のうち1,000億元を繰り上げ、インフラ建設に充てる考えが示されているが、これも規模としては小さく、また翌年の予算を先食いしているに過ぎない。また、足元で逼迫している地方財政の財源補填を進める考えも財政部により示されているが、これはあくまでも予算に対する下振れを軽減するだけであり、想定通りに工面できるかにも不確実性が残る。総じて、いずれの措置も追加対策とは位置付け難い。
2|地方債務の隠れ債務問題は、先送りに過ぎないものの小康状態に
上述の地方政府隠れ債務の大規模借り換えは、需要刺激の観点からみれば効果は限定的であるものの、地方債務に関する金融リスクの解消に一定の道筋が見えてきたという点は評価しても良いだろう。融資平台が発行する債券は、近年償還ラッシュを迎えており、2024年に4.3兆元分の償還期限が到来した後、2025年~29年までの今後5年間で累計約10兆元分の償還期限が到来する予定となっている(図表5)。不動産不況で財政難が続くなか、毎年償還に追われる予定だった地方政府からすれば、今回の措置は、確かに財政部がいうように「恵みの雨」になると言える。
上述の地方政府隠れ債務の大規模借り換えは、需要刺激の観点からみれば効果は限定的であるものの、地方債務に関する金融リスクの解消に一定の道筋が見えてきたという点は評価しても良いだろう。融資平台が発行する債券は、近年償還ラッシュを迎えており、2024年に4.3兆元分の償還期限が到来した後、2025年~29年までの今後5年間で累計約10兆元分の償還期限が到来する予定となっている(図表5)。不動産不況で財政難が続くなか、毎年償還に追われる予定だった地方政府からすれば、今回の措置は、確かに財政部がいうように「恵みの雨」になると言える。

もっとも、今回の措置は、地方政府が借り換えることで現在の隠れ債務の償還を先延ばしにするだけであり、財政や金融を巡る問題が抜本的な解決をみるわけではない。また、今回隠れ債務として認定された債務以外の債務(推定45.7兆元4)をどのように処理していくか、隠れ債務がかつてのように再び増大しないか5、地方の経済・財政を健全化していくか等、引き続き注視が必要だ。
3 三浦祐介(2024)「バランスシート調整の日中比較(前編)」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』、https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78766?pno=1&site=nli
4 財政部から発表された隠れ債務(14.3兆元)が全て融資平台の債務と仮定し、IMFの推計による2023年末時点の融資平台の債務(60兆元)からその分を減じた。
5 過去、隠れ債務が再び増加した経緯については、三浦(2024)参照。
3|不動産不況に対しては、規模を拡大させつつ地道な対策を継続
不動産政策に関しては、需給の両面で追加の対策が発表されている。需要側に関しては、住宅売買に関する規制緩和や負担軽減による需要喚起策のほか、危険な老朽住宅地等の再開発を100万軒分追加し、それとセットで住民に補助金を支給することで半強制的に需要を創出する政策も示された。他方、供給側に関しては、デベロッパーが抱える在庫住宅等の買い取りや未完成物件の引き渡し促進(「保交房」)の資金源を拡大させる方針だ。
不動産政策に関しては、需給の両面で追加の対策が発表されている。需要側に関しては、住宅売買に関する規制緩和や負担軽減による需要喚起策のほか、危険な老朽住宅地等の再開発を100万軒分追加し、それとセットで住民に補助金を支給することで半強制的に需要を創出する政策も示された。他方、供給側に関しては、デベロッパーが抱える在庫住宅等の買い取りや未完成物件の引き渡し促進(「保交房」)の資金源を拡大させる方針だ。

問題は、これらの資金源が、上述の通り地方政府発行の債券や金融機関による融資に限られている点だ。IMFからは、中央政府の財源により対策をとることが提言されているが、中国政府はそれには消極姿勢を示している。住宅都市農村建設部の倪虹部長も、「保交房」政策において「地方政府、不動産企業、金融機関など各自の責任をしっかりと果たさせ、市場化・法治化の原則に則り、一棟ごとの対策をとる」考えを強調している。こうしたスタンスを前提とすると、資金の供給拡大は段階的なものにとどまる可能性が高い6。資金を投じるプロジェクトの収益性など商業的な観点での査定も必要となり、まさに「一棟ごと」の地道な対策となることが予想される。
6 例えば、人民銀行が在庫買い取りのために設けた再貸出については、貸出枠3,000億元に対して、実際の貸出残高は24年9月時点でわずか162億元にとどまっている。「ホワイトリスト」融資枠4兆元分についても、不動産開発投資向けの融資残高が23年9月末時点で13.8兆元であることを踏まえると、短期間での実行は難しいことが予想される。このほか、地方政府の専項債についても、すべてが住宅在庫買い取りに投じられるわけではないだろう。
(2024年11月15日「基礎研レター」)

03-3512-1787
経歴
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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