2024年11月13日

英国雇用関連統計(24年10月)-賃金上昇圧力は依然として根強い

経済研究部 主任研究員 高山 武士

文字サイズ

1.結果の概要:失業率は4.3%に大幅上昇

11月12日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった1
 

【10月】
失業保険申請件数2前月(177.91万件)から2.66万件増の180.57万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.7%となり、前月(同4.7%)から横ばいだった。
給与所得者数3前月(3036.9万人)から0.5万人減の3036.4万人となった。増減数は前月(▲0.9万人)から減少数が縮小し、市場予想4(▲2.0万人)を上回った。

【9月(24年7-9月の3か月平均)】
失業率は4.3%で前月(4.0%)から上昇、市場予想(4.1%)を上回った(図表1)。
就業者は3331.3万人で3か月前の3309.4万人から22.0万人増加した。増減数は市場予想(28.7万人)を下回り、前月(37.3万人)から減少した。
週平均賃金は前年比4.3%で前月(3.9%)から上昇、市場予想(3.9%)を上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 労働力調査ベースの統計については、回答率の低下を受け、ONSでは開発中の公式統計という位置付けで公表されている。
2 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは開発中の公式統計という位置付けで公表している。
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計。
4 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:賃金上昇圧力は依然として根強い

まず10月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数が8-10月の平均で83.1万件となり、22年3-5月平均(130.4万件)をピークとした減少傾向が継続している(図表3)。なお、10月単月の求人数は85.6万件だった5

給与所得者データは、10月の給与所得者数(速報値)が前月差で0.5万人減となった。3か月連続での減少となったが、過去の数値は直近の変化数がやや改善方向に改定されている(9月▲1.5万人→▲0.9万人、8月▲3.5万人→▲2.9万人)。産業別には卸・小売業、製造業、建設業といった業種の前月差減少幅が大きかった。10月の給与額(中央値)伸び率は前年同月比7.0%となり9月(6.1%、改定前は5.3%)から大幅に加速、23年8月(7.5%)以来の高さとなった(なお、10月はNHS職員への過去分の給与支払などで、医療・社会福祉部門の賃金上昇率が15.4%となった)。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
労働力調査ベースの数値は、24年7-9月期の失業率で4.3%となり、6-8月期の4.0%から大幅に上昇した(前掲図表1)。就業者と非労働力人口が減少し、失業者が増加した。労働参加率は23年12月-24年2月期(62.6%)をボトムにやや上昇しており、63.0%となっている。
(図表5)賃金上昇率(ボーナス含む)の推移/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は32.1時間(前年差0.7時間)、フルタイム労働者で36.9時間(同0.7時間)となった(前掲図表2)。名目賃金は前年比で4.3%となり、前月(3.9%)から反発した(なお、6-8月には昨年の公的・医療部門の賃上げによるベース効果が存在しており、6月分が剥落したことが反発に寄与したと見られる、図表5)。ベース効果の影響が小さいボーナスを除く定期賃金伸び率では、前年比4.8%と前月(4.9%)から低下したが、市場予想(4.7%)はやや上回った。同数値を3か月前比年率で見た賃金上昇の勢いは4.0%(前月4.5%)と減速している。実質ベースの伸び率は、ボーナス含みで前年比1.4%(前月0.9%)、ボーナスを除きで同1.9%(前月1.9%)だった。

処遇改善を求めたストライキは、9月は件数ベースで29件(8月21件)、労働損失日数で4.8万日(8月3.3万日)となっており、やや増加したものの低水準で推移している(図表6)。
 
5 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年11月13日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【英国雇用関連統計(24年10月)-賃金上昇圧力は依然として根強い】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

英国雇用関連統計(24年10月)-賃金上昇圧力は依然として根強いのレポート Topへ